3周囲の人々➁~幼馴染~(2)

「荒太、陽咲にバスケという言葉は禁句だから。それから、今後、陽咲に話しかけないで」


「ご、ごめんね。荒太君」


 姉の喜咲は、陽咲の前に立ちふさがり、オレと話をさせないようにした。きっと目を吊り上げ、オレを睨みつけている。妹の陽咲は、ガタガタと震え、オレと目を合わせないようにうつむいている。彼女たちとオレとの間に何があったというのだろうか。先週の金曜日までは普通に挨拶もしたし、ここまで警戒されるようなそぶりはなかった。週末に何かあったに違いないが、オレには心当たりが全然なかった。


 オレの様子を見て、喜咲ははっと、自分の取った行動がまずいと理解したらしい。あわてて、オレに謝罪してきた。陽咲は、いまだに身体の震えが止まらず、うつむいたままだった。



「ご、ごめんね。陽咲のことを思うと、ついかっとなっちゃって。荒太が悪いわけじゃないから。気にしないで」


「気にしないでって。急にこんなに態度を変えられると、気になるだろ。何があったのか、オレには話せないのか」


「ええと。それは」


 喜咲は視線をうろうろとさまよわせて考えている。オレはそこまで信用されていないのか。仮にも、幼稚園からの付き合いである幼馴染に向かっての態度なのか。疑問がわくが、仕方なく黙って喜咲の言葉を待つ。


「とりあえず、学校に向かいながら話そうか」


 考えた結果、喜咲はオレに対しての態度が急変した理由を話してくれるようだった。喜咲の言う通り、こんなところで長話をしていては、学校に遅刻してしまう。オレは、喜咲の隣に並び、歩きながら、話を聞くことにした。学校に着くまでの道中、陽咲はずっと、喜咲の腕に縋りついたままだった。時折、オレと視線が合うだけで、びくっとおびえている様子だったが、話を聞くにつれて、その理由が判明した。




「なんてこった、これが、母さんが言っていたやばい趣味ってやつか」


 学校に着くころには、先週のバスケの大会で起こった事件から今に至るまでの話を聞き終えることができた。


「ということだから、今後、陽咲は男が近づくだけで拒否反応起こすから、一人で話しかけようとしないことね。荒太が悪いわけじゃないけど、これはもう決定事項だから」


 下駄箱でそう宣言した喜咲は、何かに怒っている様子だった。怒りの矛先が誰に向かっているか予想がついたが、あえてオレは黙っていることにした。



「お母さんのせいで、陽咲はおかしくなった」



 オレがもし、彼女の立場でも同じことを思うだろう。とはいえ、オレは初めて、自分の家が普通であることに感謝した。彼女たちの両親のように、男同士の恋愛を楽しむ変態でなくてよかった。うちの両親は汐留家の両親に比べたら、顔もよくないし、頭もよくないだろう。汐留家のスペックは妙に高かった。両親ともに美人とイケメンだし、二人とも先生をしているそうだ。高卒の両親を持つオレの両親よりも頭はいいだろう。


 でも、それを上回るやばい趣味をもっている。オレは、その日から両親を大切にしようと心に誓った。そして、申し訳ないが、隣の家との関係性を改める必要があると感じた。





 そんなオレも今年から高校生になった。頭の出来が違うので、高校は彼女たちとは別になった。当然のことだが、オレは高校が別になり、安堵していた。彼女たちとの接点がこれでほとんどなくなるかと思うと清々した。


 オレの両親、特に母親も隣の家の汐留家の双子と高校が違うとわかり、安堵していた。オレは母親の忠告を聞かなかったことを少しだけ後悔していた。しかし、すでに接点はなくなった。オレが通う高校は、地元の自転車で通える範囲にあるが、彼女たちは電車通学となる。通学時間が違うので、家を出る時間が被ることはないだろう。ゆえに彼女たちと会う機会はほとんどないだろう。

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