2汐留家の日常③~父親~(4)
「先生、平日に休みを入れる意味がわかりません」
「土日休むとか、先生は部活に対して、やる気あるんですか」
「そんな練習時間で、うちの子が大会を逃したらどうしてくれるんですか」
そんな猛反発をくらっても、オレは彼らに負けることはなかった。オレだって人間であり、自分の生活があるのだ。彼らのことをいちいち聞いていたら壊れてしまう。
「私もあなた方と同じ人間ですよ。私にだって家庭はあります。365日24時間あなた方の生徒に構っている理由はありません」
「そこまで部活に熱心ならば、地域のスポーツクラブや家での自主練をするべきではないですか。学校にそこまで面倒を見る義理はありません」
オレは、生徒や保護者、果てには熱血なのか、ただの脳筋野郎なのかわからない部活青春派の人間の猛攻に耐え、見事部活の休みをもぎ取ることができた。ただし、さすがに土日完全週休二日は認められなかった。妥協案として、土曜日の午前は部活をやることになった。
「お父さんって、日曜日に部活に行かないよね。確か陸上部の顧問だって言っていたけど、大丈夫なの?あと、合宿とかそういうのもないみたいだね」
ある日曜日の朝、遅い朝食を家族と一緒に食べていると、喜咲に質問された。別にやましいことはないので、正直に答えることにした。
「部活は、休日は土曜日の午前中だけと決めている。それ以外は大会とか、練習試合とかの例外を除いて休みにした。合宿なんて面倒な仕事、僕はやらない」
「それはまた思い切った決断だね」
喜咲は驚いたようだった。どうやら、喜咲の学校ではまだ、部活に対して青春や命を懸けている生徒や先生が多いらしい。
「喜咲は、部活はどうしたんだ?」
「私は美術部にした。運動部に入って、貴重な休みを減らしたくないし、部活の雰囲気って嫌だから」
「私もそれには同感かも。私もああいう、部活に命を懸けている連中嫌いだからね。私も美術部に入ればよかったかな。でも、調理部もなかなか面白そうだったし」
一緒に朝食を食べていた陽咲も会話に入ってきた。そばで話を聞いていたらしい雲英羽さんも発言する。
「あらあら、みんな部活に消極的ねえ。これは教育を間違えたかしら?」
まるで心のこもっていない発言に苦笑してしまった。雲英羽さんもオレと同じで部活を嫌っている派だったはずだ。
「間違えたのは部活じゃなくて、その腐った脳みそだろうが」
「喜咲って、本当にお母さんが嫌いねえ。でも、三次元で部活に熱血なのは、お母さんには無理ね。そんな熱血は二次元だけで満足だわ」
喜咲と雲英羽さんが口喧嘩を始める。それをニコニコしながらも、止めようとしない陽咲。いつもの光景である。こんな緩やかな朝を眺められるのは、部活を休みにしているからこそのものである。
「でも、お父さんみたいな先生の方が私は安心できるかも」
ぼそっとつぶやいた喜咲の言葉はオレには聞き取れなかったが、隣にいた陽咲には聞こえていたようだ。
「うわあ、気持ちはわかるけど、喜咲、それはやめておいた方がいいよ。あれは確かに優良物件かもしれないけど、手を出さない方がいいし、手を出すのなら、私の方が」
「ひさきいい」
オレは今後もこんな緩やかな時間を作っていくために、学校の仕事はほどほどにやっていこうと心に誓うのだった。
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