2汐留家の日常②~母親~(2)

 こうして、私は非常勤の国語教師として、教壇に立つことになった。非常勤ということで、私の仕事は自分が受け持つクラスで授業を行うことだけだ。昔、煩わしいと思っていた保護者への対応はない。非常勤なので、他の先生との接触もそこまで多くない。稼ぎは少ないが、私の天職ともいえた。そもそも、塾の講師をしていたこともあり、子供に教えることは得意である。


 天職ともいえる理由はもう一つあった。もともと、私が子供好きだということだ。さらに言うと、私は、子供は三次元の方が素晴らしいと考えている。二次元をこよなく愛する私であっても、どうしても子供、いわゆるショタに関しては、現実である三次元の方に目を向けてしまう。やはり、大人が子供を描こうとするからだろうか。その辺はよくわからない。二次元のイケメンを見て興奮はするが、三次元で興奮するようなイケメンには残念ながら出会ったことがない。


 唯一例外があるとすれば、夫である悠乃さんである。それはおいておくとして、とりあえず、そんな感じの私からしたら、中学生である彼らを間近で眺められることはこの上ない至福であった。




「先生、聞いてよ。親がさ、勉強しろってうるさいんだ。オレだって将来のこと考えているのにさ」


「先生、私、彼氏ができたんだ」


「先生、あいつのことどう思う?彼女だからって、調子乗りすぎ」


 中学生の彼らに授業をしていると、面白い発見がある。彼らも中学生になり、彼らなりに物を考えているのだなとくすりとさせられることもある。たわいない友達との日常、彼女、彼氏との関係、彼らは私を先生と思っているのかいないのか、様々なことを話してくれる。


 おそらく、私が非常勤という立場であるということも関係している。どうしても、本職の正規である教員たちは、非常勤の私と違って忙しい。授業以外にも事務作業が多くて、なかなか授業以外に生徒の対応をしている暇がない。その点、私は授業をすることが仕事であり、それ以外の学校の仕事をする義務はないので、少し余裕がある。


 非常勤の立場ということで、私は生徒をそこまで強く叱ることはない。もちろん、生徒指導の観点から、明らかにおかしいことや注意すべきことで叱ることはあるが、それ以外は結構黙認していることが多い。生徒がうるさくしていても、口うるさく注意することはあまりない。本来なら、静かに授業を行うべきだろうが、彼らも中学生という多感な御年ごろだ。私の授業くらい、気を抜いて楽に授業を受けて欲しいと思った。




 私と子供たちの関係は、教師と生徒で間違いない。しかし、友達みたいな、同志みたいな感じだと生徒たちに人気であった。担任や他の先生には話せないことを話してくる生徒や、担任の愚痴も私に話してくる。


 私がアニメ好きだということは、すでに生徒に知れ渡っている。そのため、アニメの話で盛り上がることも多い。当然、BLなど中学生と語り合えるはずもないので、そのほかのアニメ限定だが。



「先生、昨日のアニメ見た?主人公がかっこよく敵を倒していたね」

「先生、私、あのアニメの声優さんが好きだけど、どう思う?」


 目をキラキラさせて話しかける生徒に私は毎日、心を撃ち抜かれている。これではいくつ心臓があっても足りないくらいだが、何とか心を持ち直して先生を続けている。



 

 生徒たちとの会話を楽しみながらも、私は自分の娘たちに思いをはせる。自分の娘ともこうやって楽しく話したいものだが、なかなかうまくいっていない。


 昔の私の不注意が尾を引いているのは理解しているが、私は開き直ることにした。いずれ、私の趣味はばれる。それがたまたま早まって、幼稚園の頃になってしまっただけだ。それでも、その時の衝撃はなかなか癒えることはなく、特に双子の上の娘、喜咲からはいつも軽蔑の目を向けられてしまう。逆に妹の陽咲は恐ろしいほど無関心を貫かれている。


 夫との仲は良好なので、どうにかして娘との仲も良好にしていきたいものだ。

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