2汐留家の日常③~父親~(1)

「おはようございます。今日も一日頑張りましょう」


 教壇に立ち、教室にいる生徒たちに向かってあいさつする。今日もまた、オレの一日の仕事が始まろうとしていた。




 オレの名前は汐留悠乃(しおどめゆうの)。どこにでもいる、普通の高校教師であり、二人の娘を抱えた父親だ。県立高校で数学の教師をしている。教師と言うと、生徒のために全力を尽くす、生徒のために人生を捧げるなどのイメージを持つ人もいるかもしれない。自分の時間を顧みず、学校のため、生徒のために力を尽くすことは、もちろん悪いことではないが、オレには到底できない。


 学校や生徒のために、勝手に人生を捧げたければ捧げればいいと思う。オレはそんな人生はまっぴらごめんだ。とはいえ、勤務時間内であれば、オレも全力で生徒のため、学校のために頑張る所存である。あくまで給料が出る時間内であれば。


 将来の夢を教師としていたわけではない。特に夢というものはなく、大学に進学する際に、両親から、教員免許は持っていて損はないから取って置けというアドバイスに従って、教員免許を取得したに過ぎない。


 就活の時になり、一般企業を何社か受けてみたが、どうにも自分には合わないと感じ、教員採用試験を受けることに決めた。そしてオレは運よく、一度の試験で合格することができた。


 晴れて、高校教師となったオレは、教員の仕事のブラックさに驚くこととなった。生徒の立場で通っていた時にはわからなかった、教員の仕事の過酷さに気付くことになった。しかし、それ以上にやりがいもあるので、オレはこの仕事を今も続けている。





 彼女、雲英羽(きらは)さんと出会ってから、オレは高校に行くのが楽しみになった。彼女は、世間でいう、「腐女子」と呼ばれる人種らしい。男同士の恋愛、BL(ボーイズラブ)というものにはまっているらしく、家では堂々とBL漫画を読んでいる。彼女に勧められて読んでみたが、男のオレが読んでもなかなかに興味深いものだった。すぐにオレはBLの魅力に取り憑かれた。今では、彼女と一緒にBLを楽しむ日々を送っている。


 彼女との間には子供が二人できた。双子の娘、喜咲と陽咲だ。彼女たちは今年から高校生で、年頃の娘だ。どうにも喜咲からはクズ男認定されてしまっているが、口もききたくないほど嫌われているわけではないらしい。陽咲の方は、なぜか男アレルギーを発症してしまったらしく、男であるオレには近づいてこない。


 陽咲の男アレルギーの原因を作ってしまったのは、雲英羽さんだが、あれは事故だった。まあ、子供の目の前でBL、しかもがっつりエロが入った漫画を堂々と読んでいた雲英羽さんが悪い。しかも、そのせいでその後大変だったが、それも今となっては良い思い出の一つである。

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