2汐留家の日常①~双子~(4)

「大丈夫。なんか、顔色が悪いみたいだけど。やっぱり、私たちオタクと一緒に居るのは嫌?」


「まあ、わかっていたことだけど、それでも実際に割けられるとけっこうきついかな」



「違う!」


 慌てて否定の言葉を述べるが、その後の言葉が続かない。視線を右往左往させていると、陽咲が驚きの行動をとり始めた。


「ぎゅう」


「く、るしい」


「喜咲、考えすぎだよ。彼女たちは両親と同じだけど、彼らじゃない。喜咲の、私たちの友達だよ。これからの高校生活、お世話になるんだから、もっと心を開いた方がいい。今のままだと、高校生活、ボッチで寂しいことになるよ」


 ぼそりと耳もとでつぶやかれた言葉に言葉が詰まる。そうだった。私は何に固執していたのだろうか。私の中の何か黒いよどんだ物体みたいなものが溶けていくのがわかった。


「ちゅっ。これで喜咲は元通り」


「なっつつつつつ!」


 耳元でつぶやかれたかと思ったら、陽咲は私の正面に来て、ちゅっと私の頬にキスをした。これには驚いて、ずさっと思い切り後ろに下がってしまった。後ろはカラオケのイスだったので、膝にあたり、ボスっと私の身体はイスに沈み込む。




「まったく、かわいいねえ。私のおねえちゃんは。こんなので赤くなってたら、いつまでたっても、あの二人を越えることはできないよ」


「うおおおおおおお、今のチョー萌える。スマホで写真撮りたいから、もう一回同じ場面を再現して」


「こなで。さすがに再現って」


「ダーメ。喜咲は私のものなので、写真撮影は禁止でーす」


『えー!』


 先ほどまでの暗い雰囲気はどこへやら、陽咲の行動で一気にその場の空気が和みだした。どこまで考えてやっているのか、空恐ろしい妹である。ちらと妹を見るが、妹はいつも通りのひょうひょうとした様子で、双子でありながら、心の中までは読むことができなかった。




「ひさきちゃんって、なんか独特な歌い方だね」


「そう?喜咲はどう思う?」


「どへたくそ。どうして、それで人前で歌えるか疑問なレベル」


「ひどおい。でも、そんなところが」


「だまれ」


 私たちは、めいっぱいカラオケを楽しむことにした。陽咲がトップバッターで歌い始めるが、その独特な歌声、要は音痴な開幕に彼女たちは苦笑いだ。しかも、選曲は百合アニメのオープニング。再婚相手の娘同士の恋愛ものだった。なぜ知っているかというのは、ここでは語るまい。誰だって、毎晩、洗脳されるようにアニメの布教をされれば嫌でも覚えてしまうものだ。何気にかっこいいオープニングだった。



「次は私だね。私はこれ」


「私は、この曲にしよう!」


 陽咲のどへたくそな歌から始まったカラオケは、芳子とこなでのハードルを下げたようだ。二人は、BLと百合のアニメのオープニングやエンディングをかわるがわる歌いだした。それらすべてを何のアニメの曲か理解できた私は、頭を抱えることになった。二人は、互いの曲に新鮮さを見出して、曲の批評をしていたが、それらに参加することを私の頭は拒否していた。



「この二人は、なかなかのおたくぶりだねえ。でもその曲全部を網羅している喜咲は、超がつくほどのおた」


「だまれ」


 どうにも、私のオタクからの脱却、晴れやかなリア充高校生活はまだまだ先が長そうだということに気付いた一日だった。


 ちなみに私が歌ったのは、アニメのオープニングやエンディングではあるが、テレビにも出演している有名アーティストばかりだ。間違っても、濃厚な、過激な濡れ場のあるBLや百合ものの歌を歌えるわけがなかった。


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