2汐留家の日常①~双子~(2)

 陽咲は私のクラスであり、自分のクラスではない教室でも遠慮というものがなかった。大声で自分が私の双子に妹であり、男アレルギーであることを暴露した。さらには、彼女は自分が私を好きだということまで話そうとした。さすがに最後まで言わせなかった。


 しばらく二人でお弁当を食べていたが、それを見かねた彼女たちが一緒にお弁当を食べようと言ってきて、今に至っている。まさか、誘ってくれた彼女たちがうちの腐った家族と同類だとは思っていなかった。いや、初めからそんな雰囲気を漂わせていた。あれは今でも思い出したくはない。




「私は健全、健全、いたってけ」


「それ、呪文みたいにつぶやいているけど、なんかの呪い?」


「ふつう、そんなこと言わないよね」


「いやだって、」


「きーさき、今日も一緒にお昼食べよお」


 私はその声にため息を吐く。健全ではない奴が今日もやってきてしまった。高校に入ってから毎日のように私の教室にやってきては一緒にお弁当を食べようと誘ってくる。最初の頃こそ断っていたが、あまりのしつこさに、最近は陽咲の好きにさせている。


「どうぞ、勝手にしてください」


 陽咲はありがとうとお礼を言って、私の隣の席にちゃっかりと場所をとって座り、お弁当を広げだす。


「いただきます」


 パクパクと勢いよく食べだす陽咲に私たちも食事を再開する。すると、こなでが唐突に爆弾発言をかましだした。



「今週の休みに、芳子と一緒にしおどめっちの家に遊びに行ってもいい?」



 ぶほっ、食べかけていた卵焼きをあやうく吐き出すところだった。慌てて水筒のお茶を喉に流し込む。何とか飲み込んだ私は、突然の発言を問いただす。


「何を言い出すのかな。そんな急に言われてもこま」



「それいいんじゃない。ねえ、いいでしょう。お父さんが高校教師だって言っていたでしょう。私の友達が汐留先生のことイケメンって言っていたから、本物見てみたいなあ」


 芳子も私の家に遊びに行きたいらしい。ちらりと、助けを求めるように陽咲を見るが、助けてくれる気配はなく、黙々と弁当を食べ続けている。


「ひ、陽咲はいいの?私の友達が家に来ても」


「いいよお。だって、私は別に奴らのことを隠す必要はないし、あなたたちは女子だから問題はない」


「問題はないって、だって、あいつらは」


 陽咲はあの両親のことを他人にばれても構わないみたいだが、私は絶対に彼らのことは秘密にしておきたい。しかし、いったいどうしたらこの危機を乗り切ることができるだろうか。頭をフル回転させたが、いい方法は浮かばない。



「しおどめっちは、両親のことが嫌いなの?ひさきちゃんもだけど」


「それなら悪いこと言っちゃったかな。軽い気持ちだったんだけどね、私たち」



 どうにか家に呼ばない理由を探していたら、彼女たちは、私たちの会話から、両親との不仲を感じ取ったらしい。自分たちから言い出したことなのに、一転して、私の家に行かないことを選択してくれた。あの二人を私の両親だと紹介するのは恥ずかしいから、私たちの表情から来てほしくないことを読み取ってくれたのはありがたい。しかし、ひとつ訂正しておく必要がある。


「私は、別に両親とは不仲ではな」


「喜咲は、両親がラブラブなのが気に食わないだけだから、気にしないでいいよ。ただのやきもち。ていうか、喜咲はマザパパコンだからね。ああ、私は喜咲一筋のシスコンだけど、両親のことは私も嫌いじゃないよ」


 訂正しようとしたら、喜咲が誤解を招く発言をし始めた。確かにあの二人のラブラブ度には毎回呆れさせられているが、私は断じてマザパパコンではないし、仲の良さにやきもちなど焼いたことはない。


「面白いねえ。あんたたち二人って」


「やばい、チョー萌える」



「ね、ねえ、私の家はダメだけど、カラオケくらいなら一緒に行ってもいいよ。私の家はダメだから埋め合わせとして」


 週末に一緒に遊ぶことに異論はないので、提案してみたら、二人はとても乗り気だった。そこで、私は気づくべきだった。自分の持ち歌が深夜アニメの主題歌ばかりで、一般人にはオタクだとばれる歌しか歌えないことに。





 カラオケ当日がやってきた。私は自分で言い出したのに、朝から憂鬱な気分だった。朝起きて朝食を食べている最中、ため息をついていると、心配した母親が話しかけてきた。


「喜咲、今日は友達とカラオケに行くみたいだけど、なんでそんなに憂鬱そうなの。まさか、代金を喜咲もちにさせら」


「そんなことはない」


「持ち歌のことで悩んでいるみたいだよ」


「そうなの。持ち歌ねえ。そんなこと言われたら、私も考えるわねえ。今だったら私は何を歌ったらいいかしら。ううん確かに悩むところね」


「悩む必要はない。歌いたい歌を歌えばいいだけの話、私も一緒に行くから、喜咲のことは心配しなくていい」


「それなら安心ね」


 陽咲と母親は頭にお花畑でも咲かせているのだろう。私はオタクであることをばれたくなくて、必死なのに。どうしてこうも、彼女たちは自分の性癖に素直なのだろうか。



「喜咲ちゃん、何もそこまで悩むことはないわよ。もし、何かひどいことを言われたら私たちに言ってちょうだい。私たちはいつでもあなたたちの味方よ」



 こういう時に、くそ母親はいいことを言うので、本気で嫌いになれない。ふんと鼻を鳴ららし、皿を片付けて、出かける用意をした。

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