2汐留家の日常①~双子~(1)
私、汐留喜咲(しおどめきさき)は、学校ではなるべく目立たないように、普通に生活することを心がけている。家での生活が普通ではないと自覚しているので、学校生活くらいは、平穏に普通に生活したいと思うのは当然だろう。何かのはずみで家族の悪癖がばれてしまうのも避けなければならない。ばれたら、どう考えても、普通に学校生活を送れるとは思えない。
「きーさき!」
それは高校入学早々、妹の陽咲(ひさき)のため、崩れ去ることになってしまったが、それでも私は妹の猛攻を押しのけ、平和な日常を手に入れるために日々戦っている。
「喜咲って、こういうのに興味あったりする?」
ある日の昼休み、私は一緒にお弁当を食べているクラスメイトに、ある漫画を見せられた。それは、家では嫌というほど見せられているアレだった。
「いやいや、そんなの私が読んだことがあるわけないでしょう。私は、健全な女子高生ですから。受けと聞かれたら、きちんと守りと答えるくらいの常識人ですよ」
「一般人は、その質問を自問自答しないから、ということは、喜咲もこっちの世界に足を突っ込んでいるということ!」
一緒にお弁当を食べているのは、私を含めて三人。そのうちの一人、美人で頭がいい、男子からモテモテだろうと思われるクラスメイトからの嬉しそうな声に、私はげんなりした。彼女の名前は藤芳子(ふじよしこ)。名前から、怪しそうな雰囲気はしていたが、まさか母親たちが好きなアレを持ち出されるとは、予想外の展開だった。
「でたよ。芳子の悪い癖。ごめんね、しおどめっち。芳子はさ、中学の頃、あんまりその手の趣味の仲間がいなくて、寂しい思いしていたんだよ。それで、高校では同じ仲間を探して、絶対に腐女子トークで盛り上がるんだって、張り切っているんだよ」
芳子の言葉をフォローしようと、もう一人のクラスメイトが口をはさむ。彼女と芳子は同じ中学校だったらしい。ということは、彼女も同類だろうか。名前は山都小撫(やまとこなで)。ヤマトナデシコをもじったみたいな名前だが、本名であり、ペンネームとかではない。
「いやいや、だって、こなでは腐女子じゃないじゃん。BLには理解示してくれても、一緒に楽しめないんじゃ意味ない!」
「だって、確かに男同士の恋愛はあってもいいとは思うけど、BLって、それがあからさますぎるというか、ご都合主義というか、創作だからだとは思うけど、うまくいきすぎだと思うんだよね」
もしかしたら、こなでは、私と同じようなタイプの人間かもしれない。一気にこなでに親近感がわいたが、やはり、類は友を呼ぶようだった。私は彼女たちと一緒にお弁当を食べ始めるきっかけを思い出し、やはり彼女も母親側の人間だったとため息を吐く。
「でもでも、私も人のことは言えないから、芳子を完全に否定はできないんだな、それが」
「そうだよねえ。芳子もたいがいな趣味をもっているからねえ」
「そうそう、だから、リアルを見ると、驚きと感動でいっぱいになるんだよ!」
ちらっと興奮しているこなでの視線が、私と妹の陽咲に突き刺さる。嫌な予感がした。
「私はね、百合ものが好きなんだ。いわゆるGL(ガールズラブ)ってやつ。どうにも男って汚い感じがするんだよね。だから、男×女とか男×男とか受け付けないんだ。女同士なら同級生でもいいし、近親相姦、姉妹とかも好きかな」
「いやいや、だからって、私たちのことをそんな目で見られても困るから。私は健全な女子だから。絶対に」
彼女たちと一緒にお昼をとっているのは、私の意志からではなかった。高校に入って私は一人でお弁当を食べていた。最初は、クラスのいかにもリア充していそうなグループに意を決して話しかけはしたが、どうにも会話が合わなかった。何度か挑戦したが、結局一人でお弁当を食べることにした。そこに隣のクラスの陽咲が乱入してきて、一週間くらい、陽咲と二人で一緒にお弁当を食べる羽目になってしまった。
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