1家族紹介③~父親~(3)

 私たちのトラウマとなった事件、妹はそれがきっかけで男性不審になった。私にとってもトラウマになりかけたあの事件。あの事件で私は母親がやばいと気づいたと同時に、父親も同じようにやばい奴だと気付いたのだ。


 あの事件があって、妹は男性不審が発症したわけだが、当然、父親に対しても拒否反応を起こしていた。そこで、出された打開案が常軌を逸していた。


「僕も男だから、陽咲ちゃんから拒否されてしまうんだ。じゃあ、男に見えなければいいじゃないか!」


 自分の提案に満足したのか、父親は事件から一週間近くたってから、ある計画を実施した。


「父親女装計画」


 私の父親は、イケメン要素を兼ね備えている。男らしい体つきであり、身長も高い。顔も中性的な顔つきではなく、男らしい骨格のしっかりした感じのイケメンだ。どこを探しても、女性的要素が見つからない。頭の中は腐った女子のようだが、外見には反映されることはない。黙っていればイケメンなのだ。


 しかし、そこを何とかしたのが、母親の手助けだった。母親は、「娘のため」という素晴らしい理由で父親を手助けしたのではないと思う。ただ単に、面白そうだからという理由に違いない。


 ということで、父親の提案から始まったこの計画だが、それは結果的に失敗に終わった。常識的に考えて、失敗するに決まっているのだが、予想とは違う結果で失敗に終わった。


 どうにも女装が完璧すぎたのだ。父親が女装した姿で陽咲の前に現れたら、陽咲はなんと、自分の父親を父親と認識できなかったのだ。父親に似ていると言って、勝手に父親の親戚か何かと勘違いしてしまった。


 父親も、自分の娘に女装した自分の姿をさらして、ようやくやばいと気づいたらしい。とっさに自分は父親の遠い親戚だと言ってしまった。



 確かに勘違いするのも無理はない、というくらいのクオリティの高さの女装だった。背の高さや体格の良さは隠せないが、首元を隠し、髪型を変え、化粧や服装を駆使して、見事父親は女性になっていた。さすがに声までは変えられないので、マスクをして、喉がおかしいと言ってごまかしていた。



 妹は最終的に、うっすらと父親のことを親戚ではなく、本当は父親が女装していると気づいていたのかもしれない。しかし、核心は得られないようだった。最後まで父親の親戚だと信じ込んでしまったため、一週間もたたないうちにこの計画は幕を閉じた。




 妹は気づかなかったが、私は気づいていた。いや、見てしまったのだ。父親が女装している最中の現場を目撃してしまった。それはおぞましい光景だった。父親も男なので、体毛が女性より濃いのは仕方ないことだ。それを脱毛している現場をうっかり見てしまった。母親が、それはそれは楽しそうにシェーバー片手に鼻歌を歌いながら、父親の体毛を刈り取っていた。父親がうれしそうな表情でなかったことだけが救いだ。困ったような顔だったが、受け入れていることに絶望したが。



 そんなこんなで、私の中で頭のおかしなくそ親父というイメージがついてしまった。


 こんな感じで家族全員おかしい。全くもって私だけが常識人なのはそれこそ奇跡である。もっと私を大事に扱ってほしいものである。

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