1家族紹介③~父親~(2)

「まあ、僕はたぶん、女子女子している人が周りにいすぎて、嫌になっていたから、雲英羽さんみたいな人が新鮮だったのかもしれない。新鮮とは言っても、今は飽きたとかそういうのはないよ。」


「私は、そうだなあ。こんなイケメンなのに、売れ残っているから、何かしら変なところがあるんだろうと思っていたけど、実は私と同じ腐の道を歩む素質があったとは思わなかった。でも、その素質があったからこそ、結婚に踏み切ったのかも。」


 二人は目を合わせて、ふふふっと嬉しそうに微笑んだ。もういい年したおじさんとおばさんが見つめ合って笑っている様子はシュールだが、不思議と笑ってやることができなかった。陽咲は自分から質問したにも関わらず、反応が薄かった。会話は聞こえているだろうが、何も言うことはなかった。黙々とカレーを食べ続けていた。




「お父さんは、お母さんの趣味を知ってもなお、結婚したみたいだけど、その、お母さんの趣味って、アレだけど、どうやって受け入れたの。だって、自分と同じ男が男とやっているのを見て、普通はおかしいと思わない?お父さんの恋愛嗜好は一応、女だよね。まさか、実は恋愛対象は男で、お母さんは体のいい、隠れみ、……。」


 夕食後も、両親の話題を終えることができなかった。ちょうどよい機会だから、私は父親にさらに突っ込んだ質問をしてみた。今でこそ、家では隠しもせずにBL本を堂々と読んでいるが、最初はどうだったのか気になったのだ。それに対しての父の答えは簡単だった。



「驚いたけど、別に自分自身のことじゃないし、自分がやっているわけでもない。あくまで創作だろう。ヤンデレとか、ツンデレとかそういう、属性みたいなものだと思えば、何ともないさ。だって、現実にありえないことでも、創作なら、とかいうじゃない。そういう奴だよ。」


 あっけらかんと答える父にさすがだと思わざるを得なかった。


「ああ、ちなみに僕は、雲英羽さんのことは恋愛対象としてちゃんと好きだよ。だから結婚した。これからも好きでいると思うし、離婚はしない予定だよ。そうそう、喜咲ちゃんはBLが苦手みたいだけど、それも僕は別に気にしないよ。雲英羽さんは気に入らないみたいだけど。まあ、価値観なんて人それぞれだからね。お母さんのことは気にしないで、自分の好きに生きるといいよ。」



 なんて、素晴らしい人なんだと、わが父ながら、感激してしまった。しかし、それも一瞬で崩れ去る。やはり、あのくそな母親と結婚しただけのことはある。



「それで、僕のことをもっと聞きたいみたいだけど、それなら、雲英羽さんから聞いた方が面白いと思うよ。だって、雲英羽さんは自分で創作もしているみたいだから、僕みたいな面白味がない人でも、面白可笑しく話してくれると思うよ。ああ、そうそう、僕もできれば喜咲ちゃんにもBLの奥深さを知ってほしいとは思っているよ。特に今読んでいるこの教師と生徒の禁断の物語。ああ、禁断っていう響きはいいね。教師と生徒、さらには男と男、ダブルで世間から隠れて恋愛するこのスリルがたまらない。」



「黙れくそ親父!」


 くそ親父と叫んだら、その当人は何を思い出したのか、ああそうだ、とのんきに爆弾発言をかましだした。


「懐かしいね。あのときから、どうも喜咲ちゃんはお父さんに対しての対応が厳しくなったよね。」


 その言葉に私は思い出す。そうだ。私は初めから頭のおかしい、母親に侵されたくそ親父などと思っていたわけではなかった。

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