1家族紹介②~双子の妹~(3)

「はああ。」


 妹のトラウマを引き出した中学の頃の出来事を思い出し、ため息を吐く。その後は大変だった。結局、医務室には行くことはなかった。原因はわかっていたので、おとなしく家に帰ることにしたのだ。家に帰り、詳しく事情を聴いて、なるほどと納得したが、私には理解できなかった。




 家に着いた私たちは、自分たちの部屋で話し合っていた。


「ええと、試合中に叫びだしたことはごめん、でも、どうしてかわからないけど、あの光景が突然、頭の中にフラッシュバックして、離れなくなって。」


「覚えていたんだね。忘れたかと思ってた。」


「いや、あの試合が始まるまでは覚えていなかったんだけど、バスケのユニホームきた選手を見た瞬間に、こう、頭にバッとあ、あれが……。」


 ハアハアと、前触れなく息を切らし、苦しそうにしだす妹に、それ以上話させてはダメだと話を止めるように促す。


「むりに話す必要はないよ。」




「ピンポーン。」


 妹が落ち着くように背中をさすっていると、タイミングが悪く、インターホンが鳴る。そういえばと、母親が荷物を頼んでいたことを思い出す。仕方なく、インターホン越しに相手を確認すると、予想通り、運送会社の人が荷物を抱えて外で待っていた。


「ごめん。ちょっと、荷物が来てるみたいだから、ハンコ押してくる。」


 一言断って、玄関に向かう私に、妹は無言でついてきた。


「すいません。今開けます。」


 ハンコをもって玄関のドアを開けると、中年の男性が荷物を持って外で待っていた。荷物を配達してくれるいつもの人だ。


「宅急便です。汐留雲英羽さんあての荷物です。」


「はい。いつもありがとうございます。」


 お礼を言って、荷物をうけとりつつ、受領証にハンコを押し、配達のおじさんに手渡す。その様子を玄関越しにじっと見つめる妹。何も言わずにじっと見つめる妹の視線に居心地が悪かった。配達のおじさんは、次の配達に向かっていった。


「ねえ、陽咲。」


 荷物をリビングにおいて、私たちは再び自分たちの部屋へと向かう。そこで、深刻そうな顔をして陽咲が話を再開する。



「私、男アレルギーになったかも。」


 いや、意味がわからなかった。どうして、今までの話からそんな言葉出てくるのか不明だった。





「何を思い出しているのか知らないけど、人に向かってため息とはいい趣味しているよね。」


「あんたが男アレルギーを発症した日のことを思い出していたの。」


「ああ、あれね。思い出しただけでも忌々しい。」


「でもさあ、いくら何でも、男全般を無理だと思うのは大げさだと思うけど。だって、いくらあれが男同士のあれでも、しょせん二次元のもの、この世のものではない。あくまでフィクションなんだから。」



「いや私にとっては同じこと。おかげで私は確信した。男とはくそな生き物だと。どこでも股を開く低俗でどうしようもないクズだと。」


「だから、あれは二次元でフィクションだと。」


「でも、女は違う。決めた。私はあの時から女を愛することに。」


 どうやら、高校に入っても、妹は妹のままのようだ。陽咲にわからぬように私はそっとため息を吐いて、これからの高校生活を憂いた。すべてはこの状況を引き起こした母親のせいだと思いながら。

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