1家族紹介②~双子の妹~(2)
それが崩れ始めたのは、中学に入学して少し経った頃だった。たまたま、部活動の市内大会が行われるということで、私と陽咲は、一年生ということで、試合の応援要員として会場に向かっていた。ちなみに私たちは吹奏楽部なので、本来他の運動部の試合なんぞを応援する必要はないのだが、なぜか応援しに行くことになってしまった。市内大会ということで、授業は休みとなっていたので、遊べると思っていたのだが、そうではないようだった。
とにかく、私たちは確かバスケ部の試合の応援に行くことになった気がする。そこで、例のトラウマが発動してしまったというわけだ。そこまで忘れていたのか、記憶の底に閉じ込めていたのかわからないが、何かの拍子に思い出してしまった。
「試合を開始します。」
審判が挨拶をして、ボールを高く投げる。両者の代表がボールを奪い合おうと高く飛び上がる。両者ともに、中学生だが、鍛え上げた身体が宙に舞う。
「お、思い出した。」
ボールを奪うことに成功した選手が自分の味方にパスをする。ボールを受けた選手もドリブルをしてゴール目指して走りだす。あたりは熱気に包まれている。観客の声援、ベンチや試合をしている選手の声でにぎわっている。それなのに、なぜだろうか。観客席隣に座る妹は、それとは反対に青白い顔をして、唇も紫に変色していた。カタカタと震えだして、今にも倒れそうだった。
「何を思い出したんだって。」
あまりの様子に思わず声をかけた。あたりと隣の妹の温度差がひどすぎる。いったいこの短時間で何があったのだろうか。
「い、いや、喜咲も覚えているでしょう。幼稚園の時のあの事件。」
「事件って、いろいろありすぎて覚えてないけど。」
「ほ、ほ、ら、母さんが、すき、な、B、L(ボーイズラブ)の、まんが、」
それなら覚えている。しかし、なぜ今ここでそんなことを思い出すのか、当時の私にはわからなかった。
「だ、だって、あの、ときの、まんがのない、よ、うって、たしか、ばすけ、だった。」
「ああ、でも、別に試合中じゃなかったような、むしろ試合後の控室で致していたような。」
「ギャーーーーーーーーー。」
突然叫びだす妹。周りもさすがに試合中にそんな悲鳴じみた奇声を発する妹に何事かと視線を妹に向ける。妹は錯乱状態で正気ではなかった。叫びは続き、対処できるのは、その場に私しかいなかった。
「す、すいません。私の妹が突然具合が悪くなったみたいです。医務室に行ってくるので、ご心配なさらず。さあ、行くよ、陽咲。これ以上叫んだら、会場に迷惑をかけるから、少しの間おとなしくして。」
その後、声を潜めて耳もとであるささやきをしてやった。こういえば、おとなしくするしかないだろう。
「もし、まだ叫び続けるようなら、思い出した『あれ』の続きを母さんに借りて、あんたに強制的に読ませようかな。結構人気で、続編もあったきがするなあ。」
「なっつ。そ、それだけはやめ。」
「じゃあ、どうすればいいかわかるよね。妹の陽咲は優秀だから。」
私の言葉に陽咲は黙って頷いた。すくっと立ち上がると、周りに一礼する。
「先ほどは取り乱してしまってすいませんでした。少し落ち着きましたが、念のため、医務室で診てもらいます。いこう、喜咲。」
周りに謝罪して、私に席を離れるように促した妹。あまりの変わり身の早さに苦笑しつつも、特に異論はないので、私も周りに一礼して席を離れた。
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