1家族紹介①~母親~(2)
「ままも、きさきちゃんもうるさい。」
陽咲がうるさいと言っていた気がするが、とにかく、ものすごい勢いで泣いていた気がする。それにつられて、最終的に陽咲ももらい泣きをしてしまい、家族は大パニックに陥るのだった。
パニックは父親が帰ってくるまで続いた。たまたま、その日は帰りが早かった父親だったので、家族3人が泣いている様子をみて、どうしたいいか立ち尽くしていた。私たち子供が泣いているのは仕方ないが、どうして、自分の妻まで涙目になっているのか理解できなかったようだ。
その後、母親から事情を聴いて、父親は私たちをあやし、母親のことも、頭をなでなでして、気持ちを落ち着かせるように働きかけていたらしい。
「いいかい。ママがみていたものは、大人しか見てはいけないものだったんだ。だから、あのときみたことは忘れなさい。いいね。」
私たちが泣き止んで、落ち着いた頃合いを見計らって、父親が母親と同じような言葉を口にした。母親とは違い、優しい口調だったが、母親の言葉と似たようなものだった。父親の優しいが、妙に凄みのある言葉と表情に、当時の私たちは素直にうなずいたのだった。
「わかったよ。パパ。」
「ひさきちゃんも、なにかみたのなら、それは忘れるように。」
「ひさきちゃんはなにもみてないよ。」
私たちの言葉に安心した父親は、母親にしていたように私と陽咲の頭をなでなでしてくれた。
「何を思い出していたの。」
リビングでぼうっとテレビを見ていたのを陽咲に見られたようで、ハッと我に返る。どうやら、過去の思い出に浸っていたようだ。
「いや、私たちが母さんのことをやばいと思い始めたきっかけの事件を思い出していた。」
私が素直に話すと、陽咲にも覚えがあるのだろう。すぐにああ、と手を打って納得していた。
「ああ、あの時、幼稚園の頃のことか。あれは衝撃的だったね。まさか、幼稚園児の前で、BL。しかもがっつりエロアリを読むなんて、びっくりだった。」
「ええ、あの時、確か、陽咲は何も見ていないって。」
「あれはとっさについた嘘。本を閉じたとはいえ、運悪く机の下に落ちて、なぜかたまたま例のページが上に向けられて落ちるなんて奇跡が起こったせいで、つい見ちゃったの。見たら忘れられないでしょ。ふつう。あんな濡れ場のシーン。」
「確かに。」
「こう思うと、私たちって、案外あの母親にして、普通の育ったよね。」
「ソウデスネ。」
あの母親にして、この娘アリ。双子の妹の陽咲もだいぶ問題ありの娘だった。
幼稚園の一見以来、母親は私たちに見せつけるようにBLを読むのを控えるようになったが、それも限界だったらしい。小学高学年になるころに、告白された。
「お母さんは、腐女子だから、こうならないように、反面教師として生きていきなさい。」
腐女子とは何かをしっかりと説明され、そうならないようにとくぎを刺された。小学校高学年とはいえ、まだまだ子供の時期に、なんて告白をするのだと、戸惑いを隠せなかった私だが、妹は特に動じず、わかったと返事を一言こぼすだけだった。
それ以来、母親は自らが腐女子であることを隠さなくなった。私たちの前でも堂々とBLを読むようになった。すでにやけくそなのか何なのかわからないが、過激なBLも隠すことがなくなった。
じわじわと腐女子の波が家族に押し寄せてくるのだった。しかし、頼みの綱の父親はすでに母親に毒されていて、特にその奇行を止めるようなことはしなかった。
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