第48話 春が終わり動き出す世界 ③
ゴールデンウィーク前の授業が全て終わり、開放感を感じたくても出された課題が多すぎて、素直に喜べなかった。
出された課題を確認しながら鞄に荷物を収めていると、
「順子ちゃん、これからどうする?」
と、祐奈が帰り支度を終えて話しかけてきた。
「そうだなー。ゴールデンウィークの予定話したいところだよね」
「だよね、だよね」
祐奈が楽しそうな表情に変わる。そこに千咲も合流してきた。
「何の相談?」
「ゴールデンウィークに決まってるじゃん! 休みだよ? 連休だよ?」
「ああ、そうだね。分かったから、今はちょっと落ち着こうか」
千咲の言葉に、祐奈は口元をムズムズさせていて、それが面白くて私は噴き出す。
「なんでそこで笑うのさ、順子ちゃん」
「ごめん。じゃあ、帰りにどこかでその話をしない?」
私の提案に二人は頷いてくれた。ついでに岩月君も誘おうかと彼の席の方に目をやると、すでに教室内に姿がなくて、なんだかつまらないなと思ってしまった。
「どうかした、順子?」
「ううん、なんでもない。行こっか」
昇降口に向かいながら、昼休みに岩月君と連絡先を交換しておいてよかったなと思った。
『岩月君どーこー?』
『出てこないと置いてくよー』
とりあえず、軽くメッセージとスタンプを送って、様子を見ることにした。それに本気で嫌だと言われない限りは絡み続けると昼に宣言したばかりなのだから。
会議場所はいつもの駅前のファミレスになり、とりあえず、ドリンクバーとポテトの盛り合わせを注文した。
それぞれ飲み物に口をつけ一息ついたところで、
「で、ゴールデンウィークどうする?」
と、祐奈がさっそく本題を切り出してくる。
「適当にみんなで集まって遊んだりグダグダしたりでいいんじゃない?」
「千咲、それだといつもの休日と変わらないじゃーん」
「そうは言ってもね。家族で旅行だとか行く予定もないし、そんなんでいいんじゃない?」
「そうかなー? 順子ちゃんは?」
「私? 私は毎年友達と遊んだりだからなー」
「だから、都合が合う時に集まればいいじゃん」
千咲の提案に祐奈は渋々納得したようで、お互いにスケジュールの都合が会う日を探した。私は明後日に中学時代の友達と集まろうと話していた。
その調整の合間にスケジュールを確認するフリをしながら、岩月君にメッセージを送った。
『ゴールデンウィークに遊ぼうって話に岩月君のこと数に入れていいよね?』
祐奈がスマホに目を落としながら、
「私にもさ、中学時代のみんなで集まろうって来てるけどさ、こういうのってさ、知らないところでいつの間にか勝手に決められるよね。しかも、断りづらいし」
と、ため息交じりに愚痴っていて、
「ああ、それは仕方ないんじゃない。そういうの決めたがったり仕切りたがる人達が決めて周りに拒否権なしで言い渡すようなやつだし」
と、千咲もけだるそうに頬杖をしながらリアクションをしていた。そんな話を聞きながら、
『欠席裁判だから、拒否権はなしだからね』
と、嫌がらせに似たメッセージを岩月君に送ってみる。そのメッセージを送って数分もしないうちに岩月君から返事が届き、私のテンションは一気に上がる。
『裁判の出廷通知なしでの欠席裁判は横暴だろ』
こういうノリのいいところはいいなと思ってしまう。
『それじゃあ、今から来てよ。駅前のファミレスという名の裁判所に』
岩月君を誘い直すメッセージを送って反応待ちになる。仮に誘いに乗ってきても、千咲と祐奈の二人なら関係を改めて詮索するくらいで、笑って受け入れてくれるだろうなと思えた。
しかしながら、返ってきた返事は期待とは程遠く、
『今日は他の人と用事あるからパス』
と、断りの言葉が返ってきて、残念な気持ちになる。でも、メッセージが返ってきたのは嬉しくて、角度を変えて、絡んでみようと思った。
『岩月君いないと盛り上がらないなー。さみしいなー』
そう本心では思っていても、口には出さないような言葉を送ってみる。自分でも少しバカみたいで笑えてくる。少しでもかまってもらいたいという私の気持ちが通じたのか、
『ゴールデンウィークに遊ぶのはいいけど、個人的に大人数や騒がしいところは勘弁して』
そのメッセージに思わず目を輝かせてしまう。それにどう返そうかと悩んでいると、
「そういや、順子は中学の友達と遊ぶんでしょ? 何する予定なの?」
と、千咲に尋ねられる。確か、日にちだけで予定は決まっていなかったはずで。
「まだ分からないのよね。去年はカラオケだったかな」
「そっか。祐奈の方はなんて?」
「来週末にあるお祭りにみんなで行かないかだって。正直、すごい行きたくない。千咲は?」
「私の方はバーべーキューしようって誘われてる」
「まじで? 千咲や順子ちゃんと一緒なら、お祭りだろうがバーベキューだろうが行こうかなってなるんだけどなー」
「気持ちはわかるけど、誘われてない人を連れてくのも空気読めてないみたいで嫌なのよね」
千咲と祐奈が同時に深いため息をつく。私は会話で出た、イベントをとりあえず岩月君に言うだけ言って、いい反応が返ってきたものをここで提案してみようかなと思った。だけど、すぐ上に岩月君の大人数や騒がしいところNGを見て、
『あっ、岩月君は人多いのや騒がしいのはダメだっけ?』
と、心の中で思ったことをそのままタップして、送信してしまっていた。それにすぐに既読は付くので、まあいいかと思い、別の案を考え始める。
「ねえ、順子」
「なに?」
千咲に名前を呼ばれてスマホの画面から顔を上げる。千咲の表情にはついさっき見たダウナーな雰囲気はなかった。
「さっきからすごい楽しそうな顔して、誰とやり取りしてるのかな?」
そう少しだけ楽しそうに口角を上げて、尋ねてくる。祐奈も私の顔を覗き込んできた。
「ほんとすごいニコニコ顔だよね」
「そうそう、普段見てるのより、ずっといい笑顔してるのよね」
「そんなに顔に出てた?」
「「うん、出てた」」
千咲と祐奈の声が重なる。そう言われるからにはそうなのかもしれない。どうやら、岩月君とスマホ越しにやり取りしているだけでも、私の表情のコントロールは制御はできないようだ。
「それで順子ちゃん、相手は誰なの?」
「岩月だったりして?」
「それはないでしょー」
「昼休みのあれ見たら、順子が相当気を許してる感じだったのよね。ちょっと怪しいんだよね」
「でも、話してるとこ見たの今日が初めてレベルだよ? 周りの反応見てもありえないって感じだったし」
二人のやり取りを甘くした紅茶を飲みながらやり過ごそうとする。
「てか、岩月ってどんな人なの? 勉強できて、いつも静かに本読んでるって印象しかないんだけど」
祐奈の疑問に、千咲が意味ありげに笑いながら、「そこは順子に聞いてみたらいいんじゃない? 仲良さげだったし」と、話を振ってくるので、これ以上は笑って流せない。
「岩月君は一言で言ったら、ツンデレだよ。周りに興味がない風だけど、ノリはいいし、優しいし、ちょっと分かりにくいだけだと思うよ」
「へえー」
二人の生暖かな視線が痛い。
「それで岩月とは本当のところどうなの?」
「昼に言った通りだよ」
「本当に? 実はこの連休に二人っきりでデートの約束してるんじゃない?」
「してないって」
私が否定する言葉がムキになっていると思われたか、二人がケラケラと笑いだす。それに対して、「もうっ……」と機嫌を損ねたふりをして、スマホに再度目を落とす。
二人っきりでデート――。
私としてもそんなことができたら嬉しいことだけれど、今の関係では難しいだろうなと思う。今日みたいに一緒にご飯食べに行くところから――と思っても、それはデートだ。その前段階として一緒に色んな店やなんかを見て回る感じだろうか。
ふと視線をスマホに向けると、無意識に『二人っきりでデート』と岩月君に送っていた。どうしようと焦りながら、考えていたことをそのまま打ち込む。
『デートはやっぱなし。二人で街中を歩いたりしない?』
訂正して見たはいいが、これって――。
『結局はデートだよね? それ』
案の定、自分でも思った指摘が返ってくる。でも、嫌と言われないということは岩月君はいいのだろうか。
『そうかも?』
まだ不安なので保険をかける。
『なんで疑問形?』
画面を見つめながら、思わず「ううぅ……」と声が漏れそうになる。意を決して、
『じゃあ、デート!!』
と、送ってみた。これでダメと言われたら、立ち直れない。そんなことを思っていたせいか、また無意識に、『ダメかな?』と打ち込んで送っていた。必死そうだとか思われたくないので、スタンプで誤魔化しを入れる。
『わかった。いいよ』
岩月君の返事はまさかのもので、嬉しさで飛び跳ねたくなった。でも、ここでテンションをあげるとまた千咲に目をつけられそうで、表向きは冷静さを保ちつつ、
『それじゃあ、またあとで日付とか決めようね』
と、メッセージとスタンプを送り、ひとまず岩月君との会話を終わらせる。このまま会話を続けていたら、幸せオーラや嬉しさを隠しきれない。今ですら絶対に顔に出てる。
その証拠に、窓に映る自分の顔は自分でも今まで見たことないほど、表情が緩んでいたのだから――。
今年のゴールデンウィークは今から楽しみだ――。
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