あわてんぼうのサンタクロースのピンチヒッター

よろしくま・ぺこり

バカが世界にささやかな幸せを運んだら……

 グリーンランドでは、世界中でおなじみのサンタクロースがクリスマスの夜の恒例行事、子供たちへプレゼントを贈るために、大忙しでプレゼントの仕分けをしていました。

「今年は異常気象で、荷物が遅延したからたいへんじゃ。特に、佐川急便のやつ、午前指定の荷物をディナータイムに持って来よった。せっかくのビーフステーキが冷めてしまった。これは統括責任者の織田裕二にクレームをつけねばならん」

 サンタさんはぷんぷん怒っていましたが、突如! 「ピキーッン!」という破滅の音がして、サンタさんはその場に固まってしまいました。

「こ、腰が……痛い!」

 どうも、かなりな重症なようで、サンタさんは歩くことも、座ることも出来ません。あいにく、トナカイたちは本番に向けて、社台ファームに最後の追い込みをかけに行っていて留守です。

「なんと……わしはこのまま孤独死か」

 サンタさんが冷や汗を凍らせていると、黒い服を着たサンタさんそっくりの人物が現れました。彼は固まっているサンタさんを見ると、

「兄さん、どうしたんだい?」

 と尋ねました。

「おお、弟よ。この年に一度の大事な時期にぎっくり腰をしてしまったようだ。全くもって動けない」

「それはいけない。まずはベッドへ。おいお前、兄上をベッドまで運んでくれ」

 すると、

「はーい」

 と言って、巨大なくまが現れました。

「なんじゃ、その怪物のような、くまは?」

 サンタさんが尋ねると、

「ああ、わたしに正式なお仕置きのしかたを研修しに来た、日本の悪漢ですが、根はとてもいいやつなのでしばらくの間、置いています」

「そ、そうか。すまぬが、とりあえず挨拶抜きでわしをベッドに運んでくれまいか」

「お任せください腰のトラーブル!」

 くまは左手一本でヒョイっとサンタさんを持ち上げると、ベッドまで運びました。そして、くまは言いました。

「おいらは日本の鍼灸師と整体師の国家資格を持っていますから、ちょいと診断してみましょう」

 それを聞いてサンタさんは、

「そうか、是非とも頼む」

 とお願いしました。その返事を聞くや否や、くまはパタンとサンタさんをひっくり返してうつ伏せにすると、鍼を打ったり、触診をしました。その結果、

「長年の労苦で背骨が折れたようです。まさに『サンタ苦労す』ですな」

 と笑いながら結論をだしました。

「じゃあ、当分の間、動けぬではないか!」

 サンタさんは悲嘆にくれました。

「はい、三ヶ月間は安静にしていないといけません」

 くまは冷静に答えます。

「そ、それではクリスマスの夜、子供たちにプレゼントが運べないではないか。痛い、痛い……」

 サンタさんは顔を真っ赤にして言いました。ああ、赤くなったのは顔だけで、来ている服は赤くありません。あれは一張羅。普段はピンクに染められた、ユニクロのフリースとウルトラダウンを着ています。

「では、今年は中止にしたらどうですか? 来年の『桜をみる会』も中止ですから。だいたい、クリスマスプレゼントなんて、いまでは親兄弟があげたり、友達同士で交換したりするものでしょう?」

「バカモン! 裕福な家はともかくとして、世界には親もなく、貧困に苦しんでいる子供がたくさんいるのじゃ。わしはそういう不幸な子らに、ささやかな心の温もりを与えたいのじゃ!」

「ああ、申し訳ございませんでした。全くもっておいらの思い違いでした」

 くまは陳謝しました。

「うぬ。ところでな、弟よ、今年だけはその黒い服を赤い服に変えてプレゼントを贈ってくれないかな? わしらは双子だ。気付かれはしまい」

 サンタさんが言いました。しかし、黒いサンタさんは、

「気持ちはわかるけど、現代はね、少年少女の犯罪が悪質化しているんだよ。年に一度くらいは厳しくお仕置きをしなくてはいけない」

「うぬう。しかしなあ、いまから『タウンワーク・グリーンランド版』に代理のアルバイトを頼んでも、掲載されるのは来年のお正月以降だろうなあ。困ったのう」

 サンタさんは嘆きました。すると、

「おいらでよければやりますよ」

 くまが言いました。

「なんと! しかしキミのような巨漢がトナカイ八頭だてのソリに乗ったり、南半球ではサーフィンで上陸したり出来るのかね」

「ご心配は無用。おいらにはトナカイ八頭より馬力がある《青兎馬》という名馬がいます。それに、サーフィンでしたら五十嵐カノアに大会でなんども勝っていますから、この腕前の方も知れるでしょう。ですから今年は、トナカイさんもお休みです。これが『令和の働き方改革』ですね」

 くまは自信満々に言いました。

「そうか、では頼むか。あのなあ、プレゼントはもうソリに全部積み終わっている。パスタを食べるときフォークを持つ方が男の子用。スプーンを持つ方が女の子用じゃ。間違えるなよ」

「お安い御用で」

 くまはのんきにそう言うと、青兎馬で雪の原野を駆け巡って遊んでいました。


 そして、クリスマスイブの夜。

「じゃあ、ひとっ走り行って来ますわ」

 相変わらずのんきに、くまが言いました。

「くれぐれも気をつけてな。最近はドローンでいたずらする奴も多い」

「平気ですよ。そんなやつ、マシンガンでぶっ殺します。赤い血が出て、ちょうどクリスマスカラーですね」

「物騒なこと言うなよ。お前は聖人ニコラオスの代理なんだからな」

「要はピンチヒッターでしょ。オタスケマンの高木由一だ」

 わけのわからないことを言って、くまは飛び立ちました。


 しばらく行くと街の灯りが見えて来ました。

「子供の名前と性別は暗記してあるから大丈夫。パスタを食べるときおいらはフォークを左手に持つから男の子だ。スプーンは右手に持つから女の子っと」

 あれ? なんか、逆じゃないですか。あっ! 皆さん、たいへんなトラブルが発生しました。なんと、くまは生まれついての左ぎっちょなのです。なんで、誰も気がつかなかったのでしょう。だって、サンタさんをベッドに運ぶ時、左手を使っていたではないですか! さあ、たいへんなことになりました。男の子には女の子用のプレゼントが、女の子には男の子用のプレゼントが枕元や靴下の中に入れられて行きます。くまは「ホイホイ」と間違えに気がつかず、プレゼントを運んで行きます。それも、世界中です。


 クリスマスの日の出はニュージーランドが一番早いそうです。それはともかく、朝、目覚めた太郎くんは昨日吊るしておいた大きな靴下にプレゼントが入っているので、大興奮。早速取り出しました。プレゼントはピンクの包装紙がかかっていました。

「え?」

 太郎くんは慌てて包装紙を外しました。中から出て来たのは『はじっこぐらし』と言う女の子に大人気のぬいぐるみでした。

「わー、サンタさんが間違えたんだ!」

 太郎くんはパジャマのまま外に飛び出し、叫びました。

「サンタさん! 品違いだよ、誤配だよー! 戻って来てよー」

 もちろんサンタさんは帰って来ません。すると他の家からもパジャマ姿の男女が慌てて出て来ました。少子化と言われても子供はいるのです。

「サンタさんが間違えたよ」

「どうしよう」

「そうりだいじんに言いつけよう」

 みんな、困った様子です。

 その時、太郎くんは目の前に悄然とするメグちゃんを見つけました。メグちゃんは世界一かわいくて、頭が良くて、クラス委員長をしています。太郎はメグちゃんが好きなのですが、恥ずかしいのと取り巻きの女子がブロックしているので、口を聞いたことすらありません。その時、太郎くんの頭が閃きました。そして勇気を振り絞って、メグちゃんに声をかけました。

「メグちゃん!」

「なあに?」

「僕のプレゼントとメグちゃんのプレゼントを取り替えないかい?」

 メグちゃんの顔が紅潮しました。

「いいよ!」

 メグちゃんは嬉しそうに言うと、

「みなさーん。近くの男の子と女の子でプレゼント交換をしましょう! これで、サンタさんのミスを帳消しにできるわ。そしてプレゼント交換した人と友達になりましょう!」

「わーい」

通りは大騒ぎとなりました。やがて世界中でプレゼント交換が行われ、つかの間の平和が訪れました。あくまでもつかの間ですよ。


 太郎くんはメグちゃんと友達になれて有頂天です。早速アイススケートに誘おうとした時、

「太郎くんごめんね」

 メグちゃんが言いました。

「なに?」

 太郎くんが聴くと、

「せっかく友達になったのだけど、お父さんの仕事の関係で、わたし、ニカラグアに行くことになっているの」

「そんな……」

 太郎くんは一瞬動揺しましたが、

「大丈夫。今生の別れじゃないさ。また会いたいね!」

 と力一杯話しました。

「うん、会いたいね」

 二人は握手をしました。

 その後、二人の関係がどうなったのかはこの物語とは関係ないので書きません。


 さて、グリーンランドに戻って。

 くまは徹夜が苦手なのでグーグー寝ています。

 サンタさんはスマホで、誰かと話しています。

「いつも、レーダーで見守ってくれてありがとな。な、なに、今年は戦闘機より早かっただと! そうか……まあ、来年もよろしく」

 電話を切ると、サンタさんは大声で叫びました。

「おい! くま」

「サンタさん、眠いっすよ。勘弁してください」

「お前、男の子と女の子のプレゼントを取り違えたらしいな?」

「へっ? そうなんですか」

「とぼけおって。しかも、わざと間違えたな」

「へへへ、バレましたか。やはり、亀の甲より年の劫ですね。男女が仲良くなれば少子化が軽減されますからね」

「見てくれと違って頭のいいやつだ。二人でパーティーをやろう。わしのワインセラーから上等のワインを持って来なさい。もうすぐ『ピザーラ』から特別サイズのピッツアと七面鳥が届く。それで足りなければ、トナカイでも丸焼きにしてくれ」

「ご冗談を」

「ワハハハ」


 皆さん。クリスマスのお祝いは二十四日ではなくて二十五日にするものですよ。老婆心ながら……


 おわり

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