第189話 エデンへの帰還
聖王国グランツを少し北上し、魔族領域をホンの少し通過する。
状況はグランツに来る時よりも悪化していた。というのも、魔族領域を通過する際に目に見えて【クリミナル・ソルジャー】の数が増えていたからだ。
キツネ等の小動物に群がり体当たりと汚染で絶命させ、死体の口の中に紐状になったクリミナルが侵入した次の瞬間────キツネは生き返った。
但し、そのキツネは元のキツネではない。目は真っ赤に燃えるような赤い瞳、口元からは尋常じゃないレベルの
ちょうど走行中だったテスティードを見かけると、一目散に飛び掛かってきた。車体に触れる瞬間、黄金の魔方陣が浮かび上がりキツネの突進を阻んだ。
────【イージス】。
新たなテスティードの防衛機構。バンズがオリハルコンを各所に使用した結果生まれた副産物ではあるが、御者の魔力を少し吸って黄金の物理障壁を展開出来るようになっていた。
障壁に触れたキツネはバチッと弾かれたあと、何度か痙攣して動かなくなった。
一同はその様子を遠ざかるテスティードの車内から見ていた。
クリミナルは視界に映るだけで悪寒が走る。ましてや、あんな他の生物の中に入り込むところを見たら吐き気が込み上げてくるものだ。
「ご安心を、女神フォルトゥナの加護を強く受けた我々人が乗っ取られることはありません」
そう語るのは御者の担当を引き受けたルフィーナだった。
ルフィーナはエルフ故に、他者への癒着や融合といった生物そのものを変質させる魔術やスキルに詳しい。
フィリアの強制妊娠についても自ら診察に携わり、母体には何の影響もないことを証明した。
「ただ……今後新たな進化が予想されますので、確約は難しいかと」
「そうだな、エデンに帰還したらフレミーに報告しないとな」
陰鬱な空気が漂う中、魔族領域を突破して雪原を長い時間走行し、遂にエデンへと辿り着いた。
「ボスッ! おかえりなさい!」
マッシュルームっぽい髪型をした、いつも通りのマナブが家で待っていた。
「俺がいない間、何か問題が起きたりしなかったか?」
「いえ、問題は特に起きなかったですね。強いていうなら……クエスト関連で報酬が低すぎるだのパーティメンバーを変えてくれだの、ちょっとしたいざこざが頻発したくらいです」
よく見ると、マナブはギルド職員の格好をしている。今までは臨時だったので私服で業務に当たっていたが、正式にギルド職員の職に就くことができたようだ。
「あ、これですか? ボスがフレミーさんに掛け合ってくれたお陰でギルドエデンの支部長にしてもらったんです! どうですか?」
まるで少女のようにフワリと回るマナブ。気のせいかもしれないが、ユキノ達が俺に向ける熱い感情と似たものをマナブから感じた。
きっと気のせいだ。俺のことをリーダーとして慕ってくれている、そうに違いない。
ロイは心の中でなんとか折り合いをつけて、マナブの肩をガシッと掴んだ。
「マナブ、似合ってる。……似合ってるからそれ止めろ」
「えっ、あ、はい。わかりました」
「にしても、フレミーはちゃんと約束を守ったんだな」
「そうですね、お陰様でかなり忙しくなりましたよ。農業地区の手伝い、練兵所での模擬戦、住民同士のトラブル解決、そして辺境の魔物討伐。休む暇もありませんね」
「……いや、お前がやるべきは最後のやつだけだろ」
「え、そうですかね?」
「ああ、他の雑務はリーベの人間に振り分けてくれ。お前が倒れないか、心配だからな」
「……ボス」
マナブは頬を赤らめてロイを見つめた。一方のロイはユキノの半裸を想像して精神攻撃に耐えた。鋼の精神が、ミスリルの精神へと昇華した瞬間だった。
マナブとの再会のあと、ロイはエデンを回って帰宅した。
入ってすぐに巨大な共同生活スペースがあり、そこからそれぞれの部屋へ繋がるドアがいくつも並んでいる。
紛れもなく我が家だった。
みんなもう疲れたのか、各自の部屋に戻っている。俺も疲れたし、ゆっくり寝るか。
そう思って自分の部屋のドアを開けると、扇情的な寝間着を着た美少女が2人いた。
片方はユキノで、そちらはいつも通りだから問題ない。そして問題なのはもう片方、ルフィーナだった。
床に座り込み、エルフ特有の長い耳は元気なく垂れている。瞳からは大粒の涙が滴り落ちていて、傍にいるユキノがアワアワと慌てている。
「……一体なにが起きてるんだ」
ロイはルフィーナの傍で座り込み、話を聞くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。