第190話 解任と加入
ロイの部屋に女が2人。片方は恋人のユキノ、もう片方は帝都インペリウムに帰る予定の帝国騎士ルフィーナ。
帝国騎士団第一部隊の隊長であるルフィーナが、何故かさめざめと泣いている。その横でユキノはどうしたらいいかわからず困惑していた。
ユキノはわかるが、何故ルフィーナまで寝巻きなのか不思議でならない。
てか、エルフって泣くと耳が垂れるんだな。
そんなことを思いながらルフィーナの傍に行くと、ユキノが希望の眼差しをこちらに向けてきた。
本来こういうことは女同士の方が効果的なのだが、ユキノにはその役目は難しいらしく、完全に俺を頼っていた。
「なぁ、ルフィーナ……何か辛いことでもあったのか?」
ロイが話しかけると、ルフィーナはロイの足に抱き付いてきた。ドスンとロイは転倒するも、敵対的攻撃ではないので警戒はしない。
感極まった末に取った、咄嗟の行動であることがわかるからだ。
「……っ……! 私、頑張ってきたのにっ! ……騎士団の……隊長を……っ……外されましたぁぁぁぁぁぁぁっ!」
感情が決壊し、遂に心の内を語ったルフィーナ。
彼女はそのまま倒れているロイの身体に抱き付いて、胸元で嗚咽を漏らし始めた。
「はわわわわっ! どうしましょ! 更に泣き出しちゃいました!」
「ユキノ、取り敢えず落ち着け。ルフィーナ、事情はお前が落ち着いてから聞く、だから今は思いっきり泣け」
「……はい」
それから1時間ほどルフィーナは泣き続けた。
ロイから見て右側にはユキノが、左側にはルフィーナがそれぞれベッドで寝ていた。
ルフィーナから話を聞く前に、彼女は泣き疲れて眠ってしまった。
ベッド横のテーブルには手紙が置かれていて、部屋が暗いので今は読む気にはならないが、ルフィーナの台詞から推察するに……帝国騎士団第一部隊隊長の任を解く、そんな感じの事が書かれていると考える。
ルフィーナの成長を願ってこちらのパーティに参加させたはずだが、何故帰還のタイミングで解任するか、それについては全く予想もつかない。
とは言え、それ以上のことは明日の朝、本人から直接聞く他ないか。
そう考え、瞼を閉じた瞬間────首筋に柔らかな感触を感じた。
ユキノが寝惚けて首にキスをしてきたのだ。
「ロイさぁん……好き……んっ、大好き……」
「はいはい、わかったから。このままじゃ眠れない、少し離れてくれ」
ユキノを引き剥がすと今度は自分の枕にキスを始めた。ロイの睡眠が確約された瞬間だった。
☆☆☆
「昨夜は、その……迷惑をかけました。ごめんなさい」
ルフィーナが頭を下げてくる。
ユキノの寝間着を借りているため、胸の小さなルフィーナは一瞬だけ桃色のそれを無自覚に見せてしまった。
「いや、お前が泣くってことは余程のことがあったんだろ? 気にしてない」
「はい……ありがとうございます」
「で、解任のことを言ってたよな。話せるなら話してくれないか? もしかしたら俺が力になれるかもしれん」
「ありがとうございます。口で話すより、こちらをご覧頂いた方がわかりやすいかと……」
そう言って差し出されたのは、ベッドの横のテーブルに置かれていた手紙だった。
目を通すと、確かに隊長の座を解任すると書かれていた。だけど内容をきちんと精査すれば違った意味合いが見えてくる。
「なぁ、確かに解任と書いてあるが。これは臨時じゃないか?」
「臨時……ですか?」
「いやだってさ、ルフィーナがいない間、誰が部下に指示して誰がその日の日程を決めるんだよ」
「し、しかし! 私は近い内に帰ることに!」
「レグゼリア王国がハルモニアを落としたことにより、更なる世界情勢の悪化が懸念される。グランツでの国境攻防戦において、ロイ殿と共に最前線で戦い、黒騎士を撤退させた功績は評価されるべきであり、防衛軍として帝都に戻るよりは今後起きるであろう問題にロイ殿と共同で事に当たって欲しい。全ての問題が解決した暁には、帝国騎士団総長の座を用意して待っている……と、書かれているな。ここまできちんと読んだのか?」
ロイの問いかけにルフィーナの顔はみるみる赤くなっていく。
「あ、あの……冒頭の解任という文字だけ読んで、見捨てられたと思い込んで……」
しゅんと項垂れるルフィーナの頭に手を乗せて諭す。
「泣いてるのをみて少し驚いたけど、気にするな。これからよろしくな」
「は、はいっ! よろしくお願いいたします!」
こうして、ルフィーナが正式にロイのパーティに加入することになった。
エデンに帰還して色んな人間に挨拶をして、その度に強烈な挨拶を返されたりもした。旅立つ前に比べ、かなり変わっている部分もあった。
とある男女が夫婦になっていたり、夫婦だった者が独り身になっていたり、練兵用に潰さずに取っておいたフェイリアダンジョンが段違いに整備されていたり、他にも色々な変化があった。
そんな変化の最後は、ルフィーナの加入という吉報で幕を閉じることとなった。
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