第153話 騎士団宿舎にて

 ビショップ貴族であり、グランツ騎士団総長を務めるラルフ・サンクションに協力することになったロイ達は、彼の本拠地であるグランツ騎士団の宿舎に案内された。


 宿舎内にある会議室に入ると、ラルフは様々な資料をラウンドテーブルの上に並べた。


 それらの資料を手に取って内容を見ていく。


 執政官派のメンバー、執政官の行動スケジュール、聖女のスケジュール……外部に見せたら完全にアウトな極秘書類が勢揃いか。


 割と本気で協力を求めているのが伝わってくる。


「執政官と聖女のスケジュールがベッタリだな」


「その通りだ、執政官と聖女様のスケジュールが同じ故に、奴を追い落とす証拠があったとしても聖女様に輔弼ほひつ申し上げることも出来ないのだ」


「これを見る限り、文官のほとんどが執政官に付いてるな。つけ入る隙は全く無いのか?」


「一応ある、前執政官で現在は聖女様の教育係である、ベルモンド様に親書を託せばと我は考えている。あの方なら執政官から離れる機会が多いからな」


「なるほど、自分達が近付けないなら側近にってことか。本来守護するべき騎士が近付けないっていうのは皮肉な話しだ。それで、俺達は具体的に何をすれば良いんだ?」


「アークバスティオンを維持するために週に1度だけ、聖女様は大聖堂で祈りを捧げる時間がある。その際に他の司祭や教育係は大聖堂から出ないといけない。その時に貴殿らは大聖堂の東側から侵入してベルモンド様と接触してくれ」


「わかった、なんとかやってみよう」


 ロイが承諾すると、ラルフは憑き物でも落ちたような表情を浮かべていた。そうして、ラルフと協力することになったロイは、騎士団の宿舎で決行の日まで過ごすことになった。


 ☆☆☆


 決行日まで残り2日──。


 ロイ達は宿舎で退屈な日々を送っていた。


 俺は面倒なのが嫌いだが、暇なのも嫌いなんだ。一応、表向きは犯罪者となってる手前、外に出ることも許されないし……かと言って、騎士団の中で訓練をしようにも他の騎士がずっと居座ってて集中できない。


 ユキノとアヤトリなる遊びをするのも飽きてきたし、サリナは俺達が逃亡の身となることも想定して人数分の保存食を作ってるし、ソフィアはずっと瞑想してるし、アンジュの姿は見えないし……ホントに暇だ。


 宿舎の窓から外を眺めていると、塀の上をルフィーナが走ってるのが見えた。


 アイツ、何してるんだ?


 少しだけ興味が湧いたので庭に出てコッソリ追いかけてみることにした。何かの拍子に外に出られたら困る、仮とはいえリーベ所属扱いだからなルフィーナは。


 影の一族で教わったスカウトの技術を駆使して追いかけていると、そのルフィーナも誰かを追いかけていることが分かった。


 ルフィーナは塀から飛び下りてとうとう市街地に入ってしまった。


「あ~あ、敷地から出ちまいやがってよお。作戦が台無しになったらどうするんだよ」


 愚痴りながら俺もルフィーナの後を追った。


 屋根の上に上がって上からルフィーナ達を追跡する。距離はドンドン縮まっていき、相手の姿が見えるところまで近付くことが出来た。


 ルフィーナが追いかけているのは浅黒い肌をした女だった。脚力に自信があるらしく、直線ではルフィーナを引き離すことができるけど、分かれ道になるとルフィーナに追い付かれそうになっている。


 動きを見る限り、逃げてる相手は事前に逃げ道を考えてなかったんだろう。分かれ道に当たるたびに、どちらに行こうか考えていたら速度が落ちるのは明白だ。


 ということで、俺は【影衣焔かげいほむら】で一気に距離を詰めて、次の分かれ道で攻撃することにした。


 浅黒い肌をした女が分かれ道で左に曲がろうとした瞬間、ロイは【影衣焔かげいほむら】で強化された膂力で投げナイフを投擲した。


「──ッ!?」


 浅黒い肌をした女は、左足に走った激痛に顔を歪めた。追い付いたルフィーナが剣を抜いて戦闘体勢に入る。


「あなたは何故宿舎を覗いていたのですか?」


「…………」


「答えないのなら──」


「【黒爪・旋】!」


 ルフィーナが剣を構えた時、浅黒い肌をした女は黒く鋭い爪を作り出して襲い始めた。必要以上に言葉を発する必要はなく、命令に忠実なそれをロイは知っていた。


 浅黒い肌、金色の瞳、ダークエルフと思っていたが……闇人形だったのか!!


 数合の打ち合いの後、ルフィーナは剣を弾かれて逆に追い詰められてしまった。そして爪がルフィーナに振り下ろされようとしたその時、ロイの白銀の長剣神剣グラムセリトがそれを受け止めた。


 突然現れたロイの姿にルフィーナは声を上げて驚いた。


「ロイ殿!? なぜここに?」


「俺が何故ここにいるかなんて今はどうでもいい、コイツを倒すことだけ考えろ」


「……は、はい!」


 さて、リンクした神剣有りきなら十二分に勝ち目はあるが……今の状態で勝つにはルフィーナとの連携が不可欠だ。厳しい戦いになるぞ、これは。



Tips


イザベラ・ベルモンド

前執政官で聖女の教育係。現執政官により辞職に追い込まれた壮年の女性。聖女の周辺で唯一執政官のやり方をよく思わない存在。(次話登場)

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