第152話 予期せぬ協力
古びた家屋で話し合うロイの元へ、ラルフ・サンクションというビショップ貴族が近付いていた。
それに気付いたサリナの言葉により、ロイ達はすぐに家屋から飛び出した。
ロイは剣を構えつつ周囲を確認する。
「敵の気配は感じない、いや、アサシンが林で
アンジュがロイの隣に立って耳打ちする。
「ロイ君、相手は長剣型聖騎士よ、槍型聖騎士のソフィアと違って盾を使ってくるよ。誰とリンクするの?」
未知数の戦力故に今の段階で誰とリンクするかはまだ決めていない。少なくとも、アンジュのライオンハートでは”
もしリンクするとしたら”巧さ”が向上するサリナの雷切か、近付く前に敵を凍結させるソフィアの氷剣グレイシアか、どちから一方だろう。
ロイは戦術を決めてサリナを選んだ。
「サリナ、頼む」
「わかった」
真正面から至近距離で向かい合い、腰に手を回し、顔を近づける。瑞々しい唇に自らの唇を触れさせて2度、3度とサリナの唇を
浄化の指輪が嵌った右手はサリナの胸を軽く揉んでいて、その度に「んっ」と彼女の口から甘い吐息が漏れた。
条件が揃ったこの瞬間、ロイの右手に存在する神剣グラムセリトは眩いばかりに発光し、紫電の刀である【雷切】へと変化した。
神剣の効果により、巧さと速さが向上したロイは先陣を切って疾走する。
ラルフ・サンクションとの距離はドンドン近付いていき、遂に雷切の専用スキル【雷神一閃】の射程距離にまで近づいた。
ロイが柄に手をかけた瞬間、目にも止まらぬ速さで斬光がラルフを襲った。
斬撃の合間にラルフの横を抜けたロイ、そして斬られたラルフ、両者共に微動だにしない。駆けつけたユキノ達は今の状況がどういうものなのか判別がつかないため、困惑していた。
先に口を開いたのはロイだった。
「何故剣を抜かない、何故盾を構えない、あの家屋から俺が近付くまでかなりの距離と時間があったはずだ。なのに、何故抵抗しない」
ロイの言葉を受けてラルフ・サンクションは「ふっ」と鼻で笑った。
「貴殿こそ、何故斬らなかった。数舜のうちに貴殿が斬りつけた回数は4度、いずれも神速の域に達しているが全て寸止めで終わっている。いや、最初に狙った首への一撃、これだけは薄皮一枚切れているな」
ラルフ・サンクションは首筋を見せて、人差し指でトントンと傷のある個所を指した。
「斬りつける直前、アンタからは微塵も殺気を感じなかった。それどころか敵意すら存在しない、そうなれば何か裏があると思うのは普通のことだろ?」
「ふっ、なるほど。貴殿が出来る男で助かったな。未熟者が仕掛けてきたら盾で吹き飛ばしていたところだった」
ロイは神剣を解除して近くの石に腰かけた。
「1つ確かめたいことがある。収容所の警備が少なかったのはアンタの采配か?」
「貴殿はどう思っている?」
「俺達が脱出するのを見越してここに現れた、しかも潜伏するならここだろうと見当もつけていた。今、このタイミングで現れたアンタ以外にあり得ないだろ」
「そうだな、貴殿の言う通りだ。ついでにいうと、拘束の指示を出したのはある種の守るためでもある」
ラルフは懐から紙を取り出してロイに手渡した。
「これは、親書か!? とっくに廃棄されたと思っていた」
「これで我の身の潔白は証明されたと思うが?」
「そうだな、これで俺達の損害は気分を害された以外はゼロだ。そしてアンタは大人だ、やるべきことくらいわかるだろ? そうでなければ協力なんてできない」
ラルフは小さく頷くと、片膝ついて頭を下げた。そして深く重く謝罪を口にした。
「……本当にすまなかった」
「よし、頭を下げれる大人を俺は信用できると思っている。貴族やら王族は嘘でもそれができないからな。向こうに古びた小屋が見えるだろ? 一先ずそこで話し合おうぜ」
そうして、ロイとラルフは古びた小屋で話し合うことになった。
☆☆☆
「それで、アンタは何しにここに来たんだ?」
「先ほど貴殿が言った通り、協力の申し出のために来たのだ。この国は今、2つの勢力によって割れてしまっている。我ら聖女様を支柱として国の治世を行う騎士団派と、外国とのビジネスを主体として聖女を飾りにしようと画策する執政官派、主にこの2つだ。執政官は常に聖女様の側に自らの手の者を潜ませていて、真正面から親書を渡してもなかったことにされるのが落ちだ」
ラルフの言葉にユキノが疑問を口にした。
「執政官さんにとっても、レグゼリア王国の脅威は無視できないのでは?」
「普通ならそうかもしれんが、執政官は裏でレグゼリアと繋がっている可能性がある。親書の存在が知られれば、一気に攻めてくるかもしれない」
「つまり、俺達のメリットは親書を渡すこと、アンタらのメリットは反対派の排除、こういうことだよな?」
「端的に言ってしまえばそうなるな。貴殿らの目的を達成するためにも、協力は不可欠だと思っている」
「……はぁ。仕方ないな、取り合えずはわかった。協力しよう」
ラルフは「恩に着る」と小さく語り、ロイに再度深く頭を下げた。
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