第127話 警戒と毎度のイベント

 その日の夕食、久し振りに全員揃ってテーブルを囲うことができた。


「ロイさんもソフィアさんも2人だけで冒険なんてズルいです!」


 ユキノが頬を膨らませてソフィアに抗議していた。それに他のみんなも便乗し始めた。


「結局、あんたも考えること同じじゃない」と、サリナが。


「まさかソフィアが抜け駆けするとか、私も思わなかったわー」と、アンジュが言った。


 普段、規律を徹底させてるだけに今回ばかりはソフィアも反論の余地が無かった。ただ、みんなも意地悪で言ってるわけではなく、ある種の祝福の意味も込められていて、悪い空気は微塵も感じなかった。


 そして食事が進む中、ユキノが目をキラキラさせてソフィアに質問した。


「ソフィアさん、帝都に行ったんですよね? 帝都って、どんな場所なんですか? やっぱり、雪がいっぱい降ってるんですか?」


「そうね……雪は少しだけ降っていました。でも、私達は任務で忙しくて王城の牢屋と宿屋を行ったり来たり、とても観光をする余裕なんてありませんでしたわ」


「ええー! でも、その右手薬指の指輪……露店かなんかでロイさんに買って貰ったんですよね?」


 ユキノの指摘にロイはゲボゲホと蒸せた。


 普段はおっとりしてるのに、なんでピンポイントでそこに気付くんだよ!


「あ、えーと、その……」


 ソフィアは焦りながらチラッとロイに視線を向けた。仕方がないと、ロイは立ち上がって言った。


「影の一族に伝わる指輪なんだ。遠からず、お前達にも渡すつもりだ。どういう意味があるかは聞かないでくれ、然るべき時にキチンとした言葉で渡したいんだ……」


 ロイの言葉に女性は何かを察したのか、俯いて静かになった。


「ボス! 僕にもくれるんすか?」


「意味を知ったとき、それでもお前が欲しいと思えたのなら……考えてやらんでもない」


「え! マジっすか!? なんか秘密結社の指輪みたいで良いなぁ~! よし、その時までにギルドの方も頑張るぞ~!」


 食べ終えたマナブは、ルンルンと軽快な足取りで食器を片付け始めた。女性陣はそれを見て、頭を抱えるばかりだった。


 ☆☆☆


 さて、俺の部屋には女がいる。長い黒髪をベッドいっぱいに広げて毛布にくるまり、こちらをジーッと見ていた。


 きっと俺がまだ拒否をすると思ってるのだろう。だが、毎度の受け答えはもう終わりだ。

 ユキノがそれを望んでるのに、照れて意地張るのも格好悪いしな。


「寝るぞ」


「はい!」


 ベッドに入るとユキノが寄り添ってくる。


 それは浄化行為の合図、男の方から"触らせてくれ"と言えない恥ずかしさ、女の方から"触ってくれ"と言えない恥ずかしさ──それらからくる無言の取り決めだった。


 ロイはそっと右手でユキノの左の乳房に触れた。


 すると、右手人差し指にはめられた【浄化の指輪】が発光し、体内にある穢れを世界に還して、純粋な経験値だけがユキノに定着した。


 ユキノは「はぁはぁ」と熱い吐息を吐きながらロイの胸に身体を預けた。


 発光具合からして、かなりの穢れが蓄積していたことがわかる。急激な穢れの減少にユキノの身体は震え始めた。


 定期的に浄化しておけば気にならないレベルだったのに、忙しいと言う理由でここまで放置したことをロイは後悔した。


「……すまん」


 そう言って抱き締める力を少し強くすると、腕の中のユキノは首を振って「大丈夫」と答える。


「明日の朝、シュテンの元に話しを聞きに行こうかと思ってるんだが……来るか?」


「良いんですか?」


「ああ、お前に用事が無ければ、な」


「はい、喜んでお供します!」


 ユキノの明るい笑顔、それを久し振りに見たロイは暖かな感覚に包まれた。



 ──翌朝。


 呼吸困難に見舞われたロイは意識を覚醒させて、身体を起き上がらせようとするも、何かに頭をホールドされて全く動かなかった。


 息苦しくも、顔全体から伝わる感触は気持ちよくてどこか懐かしさを感じさせる──。


「ロイさぁん……むにゃむにゃ……エッチ過ぎですぅ……ZZZ」


 予想するまでもなく、ユキノだった。


 寝間着は完全にはだけていて、パーティで一番大きな乳房が惜し気もなくロイの顔面に押し付けられていたのだ。


「ん~~~~~~ッ!!!」


 ロイが声にならない声で抗議しても全く効果はなく、背中をタップしても起きる気配がない。


 仕方がないと、ロイはある作戦を敢行した。


 顔をグリグリと動かして標的を探す。柔らかな感触の中に他とは違う感触がある。それを徐々に口に移動させて────咥えた。


 すると、ユキノは甘い吐息を少し吐いたあと、大人の女らしい嬌声を上げ始めた。


「あ……ンンッ!? え……ロイ……さん?」


 最後に聞いた時よりも数段色っぽい声に、ロイ自身も少し驚いた。


 そんな動揺を隠すようにしてロイは言った。


「エロイじゃねえよ。相変わらず寝相がヤバイな……てか、胸、隠せよな……」


 徐々に状況を理解したユキノは、シーツをバッと掴んでその殺人的な果実を隠した。


「きゃっ! も、もぅ……見ないで下さいよぉ~」


「……はぁ。俺は朝風呂行ってくるから、準備しとけよ」


「シュテンさんのところに行くんでしたよね。わかりました、準備したら外で待ってますね!」


 ロイとユキノはそれぞれ準備を終えると、シュテンのところに話しを聞きに行ったのだった。


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