第128話 シュテンの息子
何十年と村長をしていた実績から、シュテンはロイがいない間の代理を務めていた。なので会議をしたりするために、村長の家をロイの家と同等かそれ以上の大きさに改築した。
扉を開けて中に入ると、リーベのメンバーであるリーベスタ達が集まっていた。
「ボス、おはようございます!」
「奥方様、おはようございます」
ボス呼びはマナブとパルコが広げたから俺は慣れてるが、ユキノは奥方と呼ばれて困惑している。
実際は告白すらしてないから、恋人ですら無いのだが……なんか有耶無耶に恋人として定着しつつある。
でも、やっぱりユキノにこそきちんと伝えるべきだ。彼女がいなければ、俺は確実に自暴自棄になっていたはずだからな……。
「……ん? どうかしましたか?」
気付けば、無言でユキノをジーッと見ていた。
「いや、なんでもないよ。それよりも、何でお前らがここに?」
「シュテン様からお話しがあると聞いて集まっているのです」
「うーん、俺も話しがあったんだがな、こっちはいつでも良いし、出直すわ」
ロイがユキノを連れて外に出ようとすると、奥からシュテンが現れてロイを引き止めた。
「待つんじゃ、お前さんの話しとワシの話しは恐らく同じものじゃ、息子の──カレルの話しを聞きに来たのじゃろう?」
「確かにそうだが、この人数は多くないか?」
「いや、これで良いんじゃよ。やつは元々追放された人間、警戒する目は多いに越したことはない」
「わかった。取り敢えず話しを聞かせてくれ」
「やつは影魔術師の中で最も才のある使い手だった。僅か15歳にして全ての影魔術を習得し、王国のビショップ貴族を単独で暗殺するほどの逸材じゃった」
確かに、影魔術を15歳でマスターするのは逸材だ。本来なら、20代中盤で完全マスターするのが普通だからな。
ちなみに、俺はまだ7割ってところだ。神剣の力で騙し騙し戦ってるが、他のメンバーが伸び始めたら厳しくなってくる……せめて奥義くらいは使えるようにならないとな。
「だけどさ、俺は村にいて1度もそんな話し聞いたこと無いぞ?」
「当たり前だ。話すことすら禁忌に近いからの。そんなカレルに黒騎士が目をつけ、ワシらを通さず直接カレルにあることを依頼した」
「ある依頼?」
「それは……アグニの塔周辺にいた先住民族の
シュテンは涙を流しながら崩れ落ちた。ユキノが側に寄って体を抱えた。
王国から影の一族への依頼は原則としてシュテンを通さなくてはならない。そして暗殺には相応しい理由がなければ受けない。それが古くから伝わるルールだった。
きっと、黒騎士からしたらその手順が面倒で堪らなかったんだろう。だから若くて野心のあるカレルに直接依頼したってわけか。
「それで追放したのか」
「うむ、息子だからと言って、贔屓にするわけにはいかんからの。奴は不思議なことに、隠れ里とも言えるこのエデンの地を見つけて戻ってきた。しかも、ここに住まわせてくれと勝手を言って村の端に住み着いたんじゃ」
「カレルは何か問題を起こしたか?」
「幸い、お前さんの家の前で剣を振る以外は特に問題を起こしとらん。新しい体制の元、今の奴を無理に追い出すこともできん。特に移住したばかりの今は慎重に動かなければいかんからな、もし強行すれば他の出身地の人間が不安に思うかもしれん」
ここは
「あ、あの!」と言ってユキノが手を上げた。
「私、その……何度か口説かれました」
すぐにロイが反応した。
「はぁっ!? それが本当なら完全に罪だろ!」
「落ち着くんじゃ、まずは話しを聞こうじゃないか」
シュテンに宥められ、ロイが落ち着いたところで、ユキノがカレルとの話しを語り始めた。
「この村のリーダーを倒し、私の初めてを奪うんだって……そう言ってました。も、もちろん! 断りました! それから、家から出る度に話しかけてくるようになりました」
「ほう、じゃあ俺と戦うってことで決着つくんだよな!」
「ま、待て! エデンで戦う気か? やつはハッキリ言って恐ろしく強いぞ? 確実に勝てなければユキノ嬢ちゃんが奪われるんだぞ!」
「なら……どうすればいいんだよ」
「まずは向こう側の意図を探りつつ、お前さんの影の魔術をレベルアップさせる、せめて奥義くらいは覚えないと話しにならんじゃろ」
「わかった……早速、今日から修行をつけてくれ」
取り敢えずは村を挙げてカレルを監視し、ユキノはロイと共に村長の家に泊まることになった。
※寝取られはありません、ご安心を。
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