第103話 黒曜城
早朝、ロイとアンジュは護衛の仕事を引き受けるために、誰よりも早く村長の家に向かった。
大広場に到着すると、冒険者らしき人間がちらほら散見した。規模も小さく、知名度も低い村でしかも
古びた噴水に腰掛けて待つ。そして、隣に座るアンジュが暇そうに足をパタパタさせながら言った。
「ありゃりゃ~、結構いるね。希望者」
「ああ、これは想定外だ。果たして、全員雇うのか……それとも人数を絞るのか……」
「この中で最も強いパーティを試合で選ぶ……っていうのだと、嫌だよね~」
「ギルドを通さないってことはそれだけ差し迫った状況ってことだしな、戦うってことはなさそうだぞ」
アンジュと話しながら待ってると、村長の家から老人と若者が出て来るのが見えた。
他のパーティが立ち上がって近付いてるのを見る限り、この2人が村長とその息子と見て間違いないだろう。
2人の表情はとても暗いものだった。
「お集まり頂き感謝します。ですが、この人数でビショップの城に行くのは礼節に欠いた行為になりかねませんので、何組かのパーティにはお引き取り願う次第でございます」
ま、当然と言えば当然だ。たかが税を運び込むのに武装した冒険者をぞろぞろ引き連れていたら、貴族によってはバカにしてると思われることもありうる。
他のパーティも頷いてる。ここでイチャモンつけるパーティがいれば一組でも減らすことが出来たのに、残念だ。
「ロイ君、顔が邪悪だよ?」
「邪悪な表情だろ? 顔自体が邪悪みたいな言い方するな」
アンジュはえへへと言いながら笑って誤魔化した。
村長は周囲を見渡して言った。
「ある程度の噂は耳にしているかと思います。皆様がお察しの通り、ギルドを通さなかった理由はその噂によるところが大きいです。皆様には城内に赴く息子の護衛をお願いしたいのです。いかなる理由があろうとも傍を離れず、無事に息子を生還させたパーティにのみ報酬をお支払い致します」
他のパーティがどんな情報を持っているかわからないが、送り込んだ人間が戻らないことくらいは知っているだろう。
だが、これではまるでダンジョンに行くような言い様だな。
「選考方法は面接となりますのでパーティごとに集まって下さい」
これを聞いた何組かのパーティが去っていく。
余程人格に問題あるのか、それとも選考方法に不満があるのか、どちらかわからないが普段の俺なら同じく去る方を選択すると思う。
手数料を取られないから個人で依頼を受ける方がいい、そう言う考えの人間もいる。
その反面、ギルドからの依頼は事前情報がしっかりしてるし、報酬で揉めた時もギルドがきっちり裁定するから大半はギルドを選択する。
残ったのは3パーティ……村長はそれを確認すると、いきなり手を叩いた。
「では──あなたのパーティから始めましょう」
村長から1番近いパーティがちょっと離れた位置に呼ばれた。そして1分ほどしてからそのパーティは解放された。
「では次はあなた達です」
次にロイのパーティが呼ばれた。
先程面接を行ったパーティと同じ位置で村長が質問を始めた。
「えー、あなた達のパーティは2人だけですか?」
「ああ、2人だけのパーティだ」
「ランクは──」
「結構です。次を呼びますので離れてください」
Cと言おうとして区切られたロイは不快感を抱きつつも言われた通りに離れる。
「ランクも聞かないなんて、強さに興味がないのかな?」
「知らん、人数だけ集めればいいってことかもしれんしな」
次のパーティも一言話しただけで面接は終わってしまった。面接とは名ばかりの会話を終えたロイ達は荷馬車に乗り込んだ。
黒曜城までここから荷馬車で2時間ほど、その道のりを他の冒険者と共に荷台で揺られながら待つ。
共に行動するのは初心者風のパーティ、そして女ばかりで構成されたパーティだった。
初心者風のパーティのリーダーらしき人物が聞いてきた。
「俺はフロゼ、1ヶ月前に帝都で冒険者になった新米だ。ランクはDだけどよろしく」
続けて女ばかりのパーティが話しかけてきた。
「あたいはアルティス、冒険者は5年やってる。ランクはB、よろしくな」
さて、こうなればこちらも名乗らなくちゃならないか。
「俺はロイ、冒険者になってもうすぐ1年になる。ランクはCだ、よろしく」
互いに名乗り、リーダー以外も名乗ったあと、依頼についての話題になった。
フロゼが報酬額を確認する。
「報酬はパーティごとに100万だったか?」
アルティスがそれを鼻で笑いながら答える。
「生きていれば、の話だよ。ルーキー」
フロゼのパーティは一様に少しだけ気分を害したような表情になる。
同じ立場と思っていただけに、アルティスの先達としての言葉に格を感じてしまったようだ。
「ルーキーに優男のパーティか、これならあたいらのパーティだけで良かったじゃないか」
筋肉隆々の腕を見せてこっちにまで威圧を始める女パーティ。ちなみに優男とは俺のことらしい、隣で眠るアンジュが肩に寄り掛かってるからそう思ったのだろう。
ただ、この女は勘違いしている。
ランクが実際の強さを示しているわけではない。例えば、帝国軍において騎士団長に上り詰めた男がやむ無き理由で退職し、冒険者となったパターンでもFから始まるのが基本だ。それ故に、決して侮ってはいけないのだ。
むしろ、結成1ヶ月でDというのは早い方だと俺は思う。
「お前達に冒険のいろはを教えてやろう! あれはあたいらがまだルーキーだった頃の話し────」
これを黒曜城に着くまで延々と披露された。
☆☆☆
黒曜城……名前通り真っ黒な城ではあったが、出迎えの使用人はとても礼儀正しい態度だった。
──カツ、カツ、カツ。
ゆったりとした足取りでブレナン・ヘルナデスと思われるこの城の主が現れる。鋭角に整えられたアゴヒゲが特徴的な男、それが第一印象だった。
村長の息子が立ち上がり、挨拶を始める。一応俺達は雇われの身なので立ち上がり、一礼する。
「たかが税金を運ぶだけというのに、随分と仰々しいな。村からここまで、それほど魔物が闊歩しておるのか?」
ブレナンは鋭い眼光を村長の息子に向けた。自身の治世を疑っているのか? そんな脅しに近い意思を感じてしまった。
「──は、はいっ! 最近、怪しげな集団が
無難な返答に納得したブレナンは使用人を呼んだ。
「ここに賊はおらん、冒険者共には適当に部屋を用意してやれ。我は村長の
決して離れるな、そう言う言い付けだったが……どうしたものか。
村長の息子に視線を向けると、退出するように手で合図してきた。
ロイ一行は使用人の案内で部屋へ通された。
「あ、少しいいか」
「はい、なんでしょうか?」
「俺とこの子は同室にして欲しいんだ」
「ではこちらをお使い下さい、他の部屋より少しだけ広く作られておりますので」
「助かる」
「では、ご用があれば部屋の呼び鈴を鳴らしてください。すぐに伺いますので」
使用人はそう言うと音も立てずに立ち去った。若いのに、洗練された歩法だと感心させられる技量だ。
部屋入るとアンジュがベッドに頭からダイブした。両手両足をバタバタさせて毛布の心地を確かめている。
ミニスカでそれをされると、非常に困るということをこの女は知らないのだろうか。
「さて、ロイ君──殺りに行く?」
「……いや、まだやめとこう。フレミーが俺に暗殺を依頼したのは単純に殺す以外に目的がありそうなんだ」
「じゃあ、寝よっか。おいで、ロイ君」
「……わかったよ」
「ありゃ、今日は素直だね」
両手を広げるアンジュをスルーして、ロイはベッドで横になる。横になると、腰に手を回ってくる。背中には大きな柔らかい感触、ユキノと違ってアンジュは能動的に行動してくる。
「なぁ、お前の言う"私達"って、そういうことなのか?」
「そうだね。そう思ってくれていいよ。あ、マナブは違うけどね」
「俺は臆病だし、色々理由付けて逃げてきた。多分気持ちも全然追い付いてない……だけど、これからは知って行こうと思ったんだ。ダメかな?」
「ありがとう、嬉しい。でも、ちゃんと平等にお願いしますね」
「ああ……わかってる」
ロイとアンジュは
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