第100話 依頼と人脈

 ロイとフレミーは、シュテンの家で依頼について話し合っていた。


「では依頼について話しましょう。ここより北東に馬車で5日程のところに、黒曜城塞という古びた城があります。そこにいるビショップのブレナン・ヘルナデスを暗殺して欲しいのです」


 カタっとティーカップを置いたフレミーはロイに真剣な眼差しを向けた。冗談ではない、純粋に王のために考えた依頼だった。


「ヴォルガ王は知ってるのか?」


「ええ、存じております」


「わかった。なら今回は2人でのぞんだ方がいいな」


「そうした方が宜しいかと。あ、それと──今回の報酬についてですが、雇用と1000万Gでどうでしょうか?」


 1000万Gか、個人として手に入れるには大きすぎる額だが……エデンの資金として運用するには少なすぎるな。


 とはいえ、普通に暗殺依頼を受けると相手によりけりだが、1人30万Gくらいだ。それを考えると、破格だよな。


「まぁ、お試しということなら丁度いいか。雇用については意味がわからんのだが」


「村の運営、今は皆さん無償で働いてくれてますが、安定すればするほどに不満が募ることになりかねません。皆さんにもそれぞれの人生というものがありますから」


「つまり、それぞれに何らかの雇用を持たせて自由を与える、そういうことか?」


「はい、そうなります」


「だが、それは帝国に属するようなものじゃないか? なるべく俺のパーティ以外は巻き込みたくないんだが」


「それは大丈夫です。リーベの方々への依頼は基本的にギルドから発行されます。ほら、アルスの塔の一件、ギルドは我々に大きな借りがあるではありませんか」


「──ちゃんとランクも上がるようになってるのか?」


「ええ、勿論ですとも」


「よし、わかった。では準備に移る」


「あ、そうそう。途中のハーピィにはくれぐれも気を付けて下さいね」


 ロイはフレミーに後ろ手に手を振ってシュテンの家を出た。


 ☆☆☆


 ~テスティード車内~


 ロイと金髪の美少女は、その日のうちにエデンを発った。


「ねえねえ、ロイ君。なんで私を選んでくれたの~?」


 ロイの膝に手を置いて、覗き込むように質問をするアンジュ。席を少し移動する。が、アンジュも同じ距離だけ詰める。


「ユキノは治癒術師だ、素早く動くことに向いてない。ソフィアは攻めよりも守りに特化してるから同じく向いてない」


「じゃあ、サリナは? "纏雷"使ったら私よりも速いよ?」


「直線距離なら速いかもしれん。だけど緩急つけた動きは出来ない。お前の動きはたまに残像が見える、あれはただ速いだけでは再現できないんだ。だからアンジュ──お前を選んだんだ」


「そ、そんなお前が欲しいだなんて……」


「言ってない」


 アンジュは両手で顔を覆って、クネクネと体を捩らせた。と、その時、テスティードが大きく揺れた。


 ──ガタン!


「キャッ!」


 幸か不幸か、色んな意味で事故が起きた。車体が揺れたためにアンジュがロイを押し倒してしまったのだ。


 目と目で通じ合う。顔と顔の距離は拳1個分以下、お互いに驚きの表情で、息はシンクロしている。

 ロイの体はアンジュの柔らかさに反応して、心臓の鼓動を強くしていく。


 アンジュは少し微笑んだあと、顔を下げ始めた。


 ふっくらとした唇が触れようとした時──。


「ボス、取り敢えず次の村で一泊しましょうか? って、2人ともそんなに離れて喧嘩でもしたんですかい?」


 繰者のパルコが運転席から後ろを向いた時、ロイとアンジュは対角の位置取りで座り、顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。


「さっき言ってた通りで構わんから気にするな」


「了解しました」


 パルコは再び前を向く。そしてロイが何気なく自身の手に視線を向けた時、右手人差し指にある"旅神の指輪"が光ってることに気が付いた。


「ロイ君それ、どうしたの?」


「わからん、何もしてないのに光ってるんだ」


「おっぱい触ってないのに、不思議だね」


「そういう言い方やめろよ。俺が変態みたいじゃないか」


「え~~~、ユキノで慣れてるでしょ?」


 くそっ! 事実なだけに、何も言い返せない!


「にしても……なんで光ってんだ?」


 ロイとアンジュの疑念は晴れることはなく、次の村についた頃にはすっかり忘れていたのであった。

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