第66話 エイデンの不在
──あれから1ヶ月経った頃。
「──では、行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ、旦那様」
メイド達に見送られてエイデンが帝都へ向かった。
ガナルキンを送り届けてから、ダークマターについて帝都側から何の情報も得られなかったからだ。
ガナルキンの処遇は全財産の没収、貴族位ナイトクラスの剥奪、領地返還及び周辺領主へ割譲、奴隷落ち、そして労役5年の刑となった。
ダークマターによる被害がある以上は尋問結果を教えられるべきではあるが、帝都へ手紙を送ってもその返事は来ない、それ故に彼は自ら行動を起こしたのだ。
エイデンはスタークの半数を護衛として連れて行き、ロイ達は
自身よりも領地優先の彼らしいやり方、それには好感を覚えるが、ロイとしてはもう少し護衛を増やしても良かったんじゃないかとさえ思っていた。
☆☆☆
やることもなく、ロイは屋敷の中を散歩する。窓から見える景色は変わらず曇り、しかも粉雪が降っている。
そんな景色をぼんやりと窓から門扉を眺めていると、
何者かが門から庭を通って真っ直ぐ屋敷へ向かってくる。
──魔術師の集団か?
段々とその姿が見えてくると、ローブを羽織った3人組であることがわかった。
今日は来客の予定などなかったはずだが……ふむ、俺も行くべきか。
任されている以上、少し慎重すぎるくらいが丁度良い、そう考えていつでも戦えるような心構えでロイはエントランスへ向かった。
「ちょっと良いか? 今エントランスに魔術師らしき奴等が来てるんだが、そんな予定あったか?」
ロイは、丁度近くを通り掛かったスタークの隊長、ダートへ予定について聞いてみた。その質問に対し、ダートはつまらなそうに答える。
「ギルドの人間ですよ。きっとスノーウルフのその後でも聞きに来たんでしょう。ここは帝国領土の1番端、"ガナールタ・キングストン様"がいない今、村の小さな集合体であるここを欲しい人なんているわけがない」
「ガナールタ・キングストン? 誰の事を言ってるんだ?」
「……ご自分で調べたらどうですか? 王国人だからって、なんでもんかんでも聞けば教えてもらえるとは思わない事です」
明らかにロイに対して敵意のある言葉、それに加えて表情は憎しみに満ちている。初めて会った時から今に至るまで、無礼を働いた事はない。
にも拘らず、最近のダートはロイに対して冷やかな目を向けていた。元帝国騎士たる彼は、一体どんな理由でロイを嫌うのだろうか、それを問いただす為にダートの肩に手を掛けた。
バシッ!
「──ッ!」
驚くことに、ダートはロイの手を払ったあと、腰の剣に手を掛けていた。
「お、お前──」
「もう良いでしょうか? こう見えても忙しい身なので」
ダートはマントを翻してロイとは反対方向の廊下を歩き始める。その背を見送りながらもロイは驚いていた。肩に触れた時に感じたあの感覚……帝国に来れば無関係だと油断していた。
──悪意とは違う、魔の気配を。
ほんの一瞬だったのでもしかしたら気のせいかもしれない、だがロイはもしもの事を考える。そういう性分だ。
「気のせいだったらいいが……後でアレが無事か調べないといけないか」
ロイの言うアレとは闇の武器の1つである"魔斧・トマホーク"のことだ。
グレンツァート砦攻防戦の時にハウゲンから奪取したもので、エイデンの研究に役に立つとイグニア邸の地下に安置されてる。
ユキノの浄化をしているからこそ、あの気配はトマホークしかあり得ない。だが、幾重にも障壁が展開されてるため、触れることはおろか見ることも出来ないはずだ。
仮にそうだとして、理由は一体なんだ? ガナルキンとの戦い以降、お前は日増しに俺へ敵意を向けている。──何故だ?
ロイの中でダートは限りなく黒に近く、エイデンと協力するに当たって最初にクリアしなければならない案件だと考えた。
「ロイ様、ギルドの方がお会いしたいと仰ってますが──どうかされましたか?」
気付けばメイドが横に立ち並び、ロイの顔を覗き込んでいた。
「あ、ああ……なんでもないよ。それよりも、ギルドだったな、すぐに行くよ」
「はい、では応接間に通しておきますね」
お辞儀をしてメイドは去っていく。
今はギルドの応対が優先だが、先にトマホークのところに顔を出してからでも遅くはない、ロイはそう考えてトマホークの元へ向かうのだった。
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