第63話 合流、そして激戦
ガナルキンが取り出した黒い杖、それは一見するとユキノの持つ闇の武器、テュルソスに似ているが
長さ的には30cmほどだろうか、どちらかと言えば指揮棒に近い。
危険を感じたロイがバックステップで距離を取ると、ガナルキンの元へ黒くて巨大な何かが現れた。
それはガナルキンを主と認めて寄り添っている。
「くくく、驚いたか? これはスノーウルフを超えたスノーウルフ……いや、最早ケルベロスと言っても過言ではない!」
「コイツは……スノーウルフの変異種。エイデン! アンジュ達が相手をしてるんじゃなかったのか?」
「先ほど、ここより南西でこれに似た魔物と交戦を開始したと連絡が入った。だからそんなはずはないんだが……」
こちらは怪我人多数、まともに戦えるのは俺とユキノとソフィアくらいか。
アンジュ、マナブ、サリナ、そしてパルコ……お前らは死んでない。──俺は信じてる!
ロイはケルベロスの体表に血が付いてないことを心の拠り所にした。戦闘があったなら必ず手傷なり血が付着しているはずだからだ。
「ロイさん、サリナ達……」
ユキノが辛そうな表情を浮かべている。ロイは肩に手を乗せていつも通り論理的に語る。
「それはない、あのケルベロスは手傷を負ってない。だから──大丈夫だ」
ユキノは頷き、テュルソスをグッと握り込む。
「ソフィア、ここが正念場だ。絶対に倒しきるぞ!」
「わかってるわ。ロイこそ、油断しないでね」
互いに頷き、いつも通りの配置につく。ケルベロスもガナルキンを守るように立ちはだかる。互いに睨み合いが続き、両者の間に緊張感が漂う。
「そちらが来ないのなら、私から行かせてもらう! 行け、ケルベロスッ!」
ガナルキンが杖に魔力を込めて、それに応えるようにケルベロスが唸り声をあげ、飛び掛かってきた。
「させません! "
バァンッ!
ケルベロスは白い大きな盾によって殴打され、吹き飛んだ。最早完全に打撃武器と化している。
「ちいっ! ケルベロス"シャドーブレス"だ!」
ガナルキンが杖を振り上げ再度指示を出す。起き上がったケルベロスはロイ達へ向けて大きく口を開いた。
「マズイ、ブレスが来るぞ!」
「任せて下さい"
ユキノが守る用の盾を出してパーティを守護する。薄黒い波動が盾にぶつかり、表面はガリガリと音を立てている。
「ユキノ、この盾持つのよね?」
「た、多分、大丈夫だと思いますぅぅぅ!」
杖を前に掲げて魔力を追加することで、ユキノは拮抗状態を維持している。
「ロイ、あの杖を破壊したらどうかしら?」
「いや、あれを壊したら制御を失って暴れ始めるかもしれん。もしかしたらソフィアの言うとおり、杖によって変化させられたのかもしれないが……現状、暴走だけは避けたい」
「じゃあ他に案があるの?」
「ロイさ~ん! き、キツいです、ヤバイです!」
──ロイは考える。
ここまで"シャドーブレス"を放ち続けられると言うことは、魔力供給はケルベロス本体だ。ガナルキンにあれだけの大技を維持し続けられるとは思えない。
つまり、杖を失えば確実に暴走を始めるだろう。まずはケルベロス本体に大ダメージを与えてみるか……。
「ロイ!」
「わかってる! 俺がタンク役をするからソフィアは"
「わかったわ! だけど魔力的にもあと3発が限界よ、覚えておいて」
すでに一戦交えたロイ達は魔力残量が心許ない状態、ソフィアの"
「じゃあ、行くぞ!」
ロイは影をブレス射程外まで伸ばし、聖剣を沈み込ませた。足元から影を通って聖剣が移動し、ガナルキンが見える位置で止まった。
「よし、射出だ!」
ビュンッ! ザクッ!
影から飛び出た聖剣は杖を持つ右腕に刺さった。
「ぐはぁ! な、何故だ! 一体どこから!?」
目視による射出ではないため、傷は浅目ではあるが確実に杖を落とし、ブレスを止めることに成功した。
ロイ達は盾に守られ外に出られない。中から聖剣を飛ばしてもブレスに接触して狙いは外れるはず。
ガナルキンは予期しない攻撃により、伏兵という要素を頭に入れて警戒を始めた。そのため、ブレスの使用中に自身が狙われる事を想定して使用を思い止まらせた。
「ソフィア!」
「ええ、行くわよ! "
あれだけの大技故にスキル使用後は硬直が長く、ケルベロスは避ける間もなく光の奔流に飲み込まれた。
「ケルベロス!?」
「グルルルルル……」
ボロボロの体でなんとか立ち上がるケルベロス、それを見たガナルキンはホッとしている。
ん? 傷が再生を始めてないか? 大技の長時間使用、それに傷の修復……魔力の源はなんだ?
だがスキル使用後の硬直はキャンセルされていない、技術こそ聞いたことはないが魔石改造はされてないな。
なら、周囲の魔素を強制的に吸い上げて魔力に変換するだけの機構と、それによって生じた魔力を体全体に送る必要がある。
「ロイさん、ケルベロスさんが攻撃してきそうですけど……」
「体全体に効率よく魔力を送る方法、知ってるか?」
「こんな時に何を言ってますの? 心肺蘇生術の基本、魔力を心臓に流して人工呼吸をすることで救命する。これが効率的ですわ……え? も、もしかして、わたくしに実践して欲しいと?」
「ちげえよ! あれだけの体躯、回復能力、通常種にはないスキル、それら再現するにはガナルキンでは力不足だ。奴の心臓に何か細工があるに違いない」
「魔石ではなくて?」
「もちろんその可能性もあるが……魔石に手を加えたら存在が変わって体を保てない。あれでも一応スノーウルフだろ?」
「わかったわ。完全回復前に畳み掛けるのね」
「ああ、へばってる今のうちに行くぞ!」
向かってくるロイ達に対し、ガナルキンは杖を左手でもって指示を出す。
「ケルベロス、私を守れ! 早くせんか!」
ケルベロスは立ち上がり、ロイ達へ攻撃を仕掛ける。
シャドークロー、シャドーバイト、隙の少ないスキルで応戦するもユキノの盾によって
「ええいっ! 私は逃げる! 至近距離で構わん、シャドーブレスを撃て!」
ガナルキンはケルベロスも、配下の騎士や傭兵さえも見捨てて逃げるという。
とても愚かな男だが、ケルベロスは杖に逆らえずにこちらへ向けて口を大きく開けた。
くっ! 散開してるから射角的にも俺にしか当たらないが、当たれば死ぬかもしれないな……。
だから、確実に俺に向くようにガナルキンへ短剣を投げる。
シュッ! ガンッ!
苦し紛れに投げた短剣はガナルキンが腰に差していた剣で弾かれる。より一層、
ユキノとソフィアは目を見開いてこちらへ駆けてくる。
「そんな目すんじゃねえよ。戦いなんだから、これも仕方ない……」
悪足掻きでロイは聖剣を盾のように構える。だがとても防ぎきれない……そう思った時、何かが木を薙ぎ倒しながら向かってきた。
ブルルルルルンッ! バキッ!
キキーーーーッ!
──全員、唖然とする。
何故なら、鉄の塊が森から飛び出てケルベロスの頭部に直撃し、スピンしながら止まったからだ。
鉄の塊、いや──あれは"自動車"だ。マナブは"装甲車"と言ってるが確かにうちの所有物だ。
「ロイの旦那! 生きてますかい?」
パルコが顔を出して手を振っている。続けてサリナ、マナブ、アンジュが降車口の扉を開けて出てくる。
「ロイ! 心臓が弱点! 早く倒してよ!」
アンジュが叫んでいる。
「知ってるよ! 今頑張って狙ってるんだ、待ってろ!」
ロイの言葉に女子達は騒ぎ始めた。
「ほら、どうせアイツのことだから気付くって言ったでしょ?」
「なんでよ! まだ一度も倒してないんでしょ?」
俺が弱点に気付いたことがそんなに悪いことなのか……。
ロイはソフィアへ視線を向ける。
「いつでも使えるわ」
続いてユキノへ。
「むぅ~、今は戦いだからきちんとします。だけど寝る時覚悟してください、お説教です!」
ロイは肩を
「行け! 行かんか!」
ガナルキンの指示によってケルベロスが再び口を大きく開けた。
「撃たせるかよ! "シャドープリズン"!」
地面から伸びた無数の影の帯が口を無理矢理塞ぐ。
「ソフィアさん、乗ってください! "
横向きの盾にタンッ! と音を立てて乗ったソフィアは狙い撃ちしやすい位置まで運ばれる。
「これ以上は抑えられない、撃て! ソフィア!」
「いっけえええええ!"
「ガルルルルルルァァァァッ!!」
光の奔流がケルベロスの胴体に大穴を開けて心臓もろとも消し去った。地面は大きく抉れて魔石すら残っていない。
次第にケルベロスは白に戻り、体も元の大きさに戻った。だが、魔石までも失っているため、すぐに粒子となって消えてしまった。
「そ、そんな……バカな!」
ガナルキンは座り込み、近付くエイデンから逃げようと這い回る。
「ご同行願おうか? このまま逃げても、あなたはルール違反で処刑される。大人しく色々お話ししてくれれば情状酌量くらいはあるかもしれないよ?」
エイデンが胸ぐらを掴み、スタークの人間に投げ渡す。
「厳重に拘束して
「ハッ!」
こうして、用心棒の役目を終えたロイ達は
勿論、苦労に見合った報酬とご馳走、そしてパーティランクもCに昇格した。
ガナルキンの持っていた杖はユキノがアイテムボックスに保管し、後日ギルドで調査することになった。
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