第64話 拷問結果とハルトの任務
”ナイト”の位であるガナルキンは罪人へと堕ちてしまった。”
”
決闘で負けたあと相手を闇討ちで殺せば行使を免れる。貴族会ではなんとでも言い訳が可能であり、ガナルキンはそうするつもりでケルベロスをけしかけたようだ。
結局、エイデンの新たな戦力がそれすら上回ったことで、真正面から打ち砕かれてしまう結果となった。
帝都への報告後、貴族会の指示によりガナルキンはイグニア邸の地下で拷問を受けていた。その結果、ガナルキンはイグニア領以外にも手を出していたらしく、その真の目的は鉱山で極少量しか採ることのできない”ダークマター”の採掘だった。
ダークマターを魔物に埋め込むことで意のままに操る技術……帝国、いや魔術協会ですらそんな技術は確立していない。
どこで入手した技術なのか、いくら拷問してもガナルキンは吐かなかった。
拷問部屋から出て来たエイデンはロイを呼び出し、ある考察を語った。
「ロイ君、あの様子だともしかしたら”知らない”のかもしれないな」
「どういうことだ?」
「魔術協会ですら確立していない技術だ。魔術で劣るドワーフは無理だし、エルフに至っては逆に禁忌に触れる内容だ。他にこれだけの技術を扱える種族がいたとしたら──”魔族”くらいだろうね」
「魔族か、確か──」
魔族……未開の荒野に住まう魔に寄り添う者。世界の敵"魔神"に戦いを挑んだ種族、決して良好な関係ではないが、状況を鑑みた当時の魔王により停戦協定を結んでなんとか封印することに成功した、王国ではそう伝えられている。
あまりにも大昔のことなので国によって伝えられ方も異なってるし、ある国は人間が魔族だった、等と伝えられている。それでも、たった1つだけ共通するものがあった。
”属性を統べる4塔を解放してはいけない”全世界で、この塔を保有する国はこれだけは絶対に守ってきた。そのため、自国のためにアグニの塔を解放したレグゼリア王国は国際非難を受け続けている。
「帝国で魔族の目撃例は?」
「僕が生まれる前からあまり見ない種族だからねえ、直近の数年間でも目撃されてないな。王国ではどんな感じかな?」
「王国では年1回くらいダンジョンで見かけたとか聞くけどな。確実性に関してはかなり怪しいぞ?」
「そっか、いずれにしろ、これ以上の拷問は帝国法に反するからお開きにしよっか?」
ロイは頷き、エイデンと共に1階へ向かい始めた。──その道中、ロイはガナルキンの処遇が気になり、エイデンに聞いてみた。
「ガナルキンはどうなるんだ?」
「う~ん、帝都で改めて拷問を受けて、それで得た余罪によるかな……悪くて処刑、良くて奴隷落ちだね」
「自業自得だな、それよりも次は何をすればいいんだ?」
「少し疲れただろ? 次のことは追々話すから、それまでゆっくりしてくれよ」
ロイとエイデンは1階で解散し、束の間の休息を過ごし始めた。
☆☆☆
~レグゼリア王国・ハルトの私室~
1世紀前、服の裏地に魔方陣を刻む技術が普及し、現在では更に発展を遂げ、ただの布が魔力障壁を纏うようになった昨今において、黒い鎧は時代遅れだった。
そんな”生きた時代遅れ”は、旅支度をするハルトへちょっかいをかけていた。
「なあ、ホントに護衛いらねえのか?」
「いりません。僕1人で十分だ。こんなところで油売ってないで、アルカンジュ死亡の失態、挽回したらどうですか?」
ハルトはベッド横で荷支度を、カイロは長椅子に座っていた。
「それに関しては大丈夫だぜ? 一番使えねえ部下に責任押し付けて切り捨てたからよ。とはいえ、いっとき陛下の機嫌取らなきゃいけねえけどな!」
「……」
ハルトはカイロを無視して準備を進める。今更カイロの悪行を聞いたところでなんとも思わないからだ。
椅子に座ってその様を見ていたカイロは、ハルトの微妙な変化を見て複雑な気持ちになり始めた。長くなった茶髪はサリナのように後ろで結び、服は全体的に黒を基調としたもの、そして顔や体も会ったときよりも痩せていた。
なんつーか、昔の俺様を見ているようで少しだけイラっとくるんだよな。ついつい助けたくなっちまう……ッ!? いかんいかん、俺様の自由の為にも骨の髄まで利用しなくちゃな。
カイロは立ち上がり、ベッドの上に拳ほどの大きさをした赤い石を放り投げた。
「持っていけ! 途中で穢れまくって、自分見失っちまったら困るからな」
「……なんです? コレ」
「俺様の心臓に付いてる
ベッドの上の赤い石は穢れを浄化するアグネイトと同じ効果を持つ。聖剣のように無尽蔵に浄化することはできないが、ハルトにとってはありがたい物だった。
「アルスの塔を攻略したら、どうなるんですか?」
アグネイトの模造品を手にしたハルトは、それを眺めながらカイロに聞いた。
「まずは帝国を中心に土属性の魔素が活性化するな。それは世界に広がって鉱物全般は品質が上がるだろうな……てか、なんでそんなことを聞く?」
「この世界に来て、現地を無茶苦茶にして、その功績で王へ近づく……僕は割りとクソ野郎になってるな、なんて思ったんです。せめて、僕がすることでどんな影響が出るか知っておきたかったんです」
「何言ってんだよ。……好きな女を奪い返す為にあの王を追い落とすんだろ? しっかりしろよな。……」
ハルトは自嘲気味に笑い、魔剣レーヴァテインを抜く。
「少しは上達したのか?」
「あなたの2割くらいしか……」
それを聞いたカイロは膝を叩いて笑う。
「ハハハハ、あの時みせたアレでもまだ7割だっての! 天井はもっと高いぜ?」
「では、明後日発ちますので、それまで稽古してください」
カイロはより一層笑ってハルトの肩に腕を回した。
「面白い、ハンデとして素手で相手してやるよ!」
この後、ハルトは素手のカイロにボコボコにされ、半日しか稽古ができなかった。
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