第61話 ロイのいないパーティ
エイデンの元へスノーウルフの亜種が出没したと報告が入り、アンジュ達はロイと別行動で現地へ向かった。
ギルドとのパイプ作りも兼ねて引き受けた案件、それに加えてロイのギルドランク向上の意味合いもあった。
「私Eランク、みんなDランク……ごめんね。パーティランクCに上がりそうだったのに──」
アンジュは当然今からのスタートなので仕方のない、元王家だからって優遇されることはない。だが、ここでマナブがフォローに入った。
「アンジュさん、気にしないで下さいよ。誰だって最初は下からのスタートなんですから」
「キノコみたいな髪型してるのに優しいんだね」
「──ぶふっ!」
後衛で警戒をしていたサリナが吹き出し、マナブが「ちょ、なんでサリナは笑うのさ~」と抗議している。王宮住まいのアンジュには、そんな光景が少しだけ眩しかった。
「なんか同い年の人と冒険するのは結構楽しいね。ほら、私ってこの人たちが常に近くにいたから……」
アンジュ達はマナブの作った”自動車”に乗って走行している。パルコの魔力温存のために低速走行で、それに並走するように両脇で元近衛騎士たちが列を成して歩いている。
──みんなそれを見てなんとなく察した。
キキーーッ!
談笑中、いきなり自動車が急停止した。御者席のパルコが背後を振り返って言った。
「お嬢様方、スノーウルフの足跡を発見しましたぜ。
アンジュ、サリナ、マナブの3人は背面にある降車扉から降りた。
「私達は東の方を探そう」
「そう言えば、亜種ってどんな風貌なんですか? 僕ら普通のスノーウルフすら知らないから、亜種なのかもわからないんですよ」
「う~ん、ごめん。私も詳しくは知らないんだ……」
今回の件、通常のギルドクエストにならなかったのは情報量の少なさも関係していた。イグニア領のとある村にて狩人が襲われ、治療を行ったがすでに手の施しようがなかったそうだ。
その狩人が最期に遺した言葉によって亜種の存在が露見したようだ。
「確か……牛ぐらいの大きさでとても素早い、だったよね?」
サリナが確認をする。事前に聞いていた情報に一同頷く。
「とりあえず、行こっか?」
アンジュ
アンジュがご自慢の帝国知識をひけらかす、元王族故にかなりの蔵書を読んでいる。
「ま、実際に歩いてみると本の中とは全然違うけどね」
「そうなんですか──あ、ここから大きな足跡が混ざってますよ」
マナブが辿っていた足跡の中に、大きな足跡があるのに気づいた。そしてサリナが合流し、マナブの頭をクシャクシャと乱しながら言った。
「アンタやったじゃない、サクッと終わらせて早く帰るわよ」
それに対し「そうだね、とりあえず増援を呼びましょ」とアンジュが言い、魔道具”
魔道具”
そしてアンジュのファンも集まり、ここから一気に追い込みをかける事になった。
「お嬢様方、俺っちは引き続き車で待機しときますぜ」
「わかりました。では私達はこのまま北上します」
枯れ木が無数に並ぶ雪の森の中で、無理矢理薙ぎ倒しながら進めばスノーウルフの亜種も気付いてしまう。それだけじゃない、下手すれば他の魔物も引寄せかねない……可能な限りリスクは避けるべきだ。
自動車の周辺に何名か残してアンジュ一行は北上した。
☆☆☆
北上を始めて30分、ソレが現れた。
黒い体毛、報告通りの牛ぐらい大きさ、目は赤く、爪は鋭い。周囲には
すでにこちらの存在に気付き、包囲網を広げ始めている。狼の魔物らしく狩りをするつもりのようだ。
アンジュは
「散開! 雑魚を蹴散らせ!」
「ハッ! アンジュ様の敵を蹂躙します!」
王国伝統の黒衣の騎士装束を捨て、一般冒険者として主の命に従う。彼らは
そんな彼らは主の命に従い、スノーウルフへ武器を振るう。
「さて、では本丸を叩きますか!」
「アンジュ……アンタ、姫なの? それともアイドルなの?」
イグニア邸では近衛騎士とは思えないことまでしている。それこそ、アンジュを讃えて全員で踊ったり……故にサリナとマナブにはアイドル的側面もあるのではないか? そう思っていた。
「アイドルが何なのかわからないけど、多分両方ね! それより、向こう様は待ちきれないみたいよ?」
金髪碧眼、ユキノクラスの肢体、そんな絵に描いたような元お姫様が親指で前を差す。
ガルルルルル……。
黒いスノーウルフが今にも飛び掛からんと唸り声を上げ始めた。
「じゃあ私前衛、サリナ中衛、マナブ後衛ね。レッツゴー!」
「あたし、あの子苦手」とサリナも続いて突撃。
「ボスとは違うね……僕も苦手だよ」最後にマナブが突撃する。
ロイのいないパーティは一味違うため、戸惑っている。そんな彼ら彼女らの戦いは、始まったばかりだった。
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