影魔術師と勇者の彼女 ～置き去りにされた勇者の彼女と旅に出ることになったんだが～

第60話 予想外な反撃

　ロイと２人の重騎士は壮絶な打ち合いを繰り広げていた。

　──大槌を避け、大斧を流す。

　大型の武器を受け流すと腕が吹き飛ばされそうになる。決して正面から受けてはいけない、縦や横の単純な振りにスキルまで混ぜてくるから中々踏み込んだ攻めができない。

　ユキノは少し後方で後退した怪我人に回復魔術を施している。"青の節"にも関わらず、その額には汗が滲んでいる。一応他にも治癒術師が同行しているが、全員魔力が心許ない状況だった。

　ブンッ！

　敵の大槌が鼻先を掠（かす）り、続けて大斧が横合いから振り下ろされる。

　バックステップで避けて大斧へ攻撃を仕掛けるが、持ち手でガードされてしまう。２人になったことで敵は慎重な攻撃をするようになり、攻めに転じても効果的な攻撃を与えられない。

　ただ、大型の武器を振り回すということはスタミナが大きく減少するということ……戦闘開始からすでにかなりの回数振り回しているし、スキルも使っている。

　そろそろ搦め手が通じ始める頃合いか……。

　攻めないロイに対して、大斧がすぐにカバーできる隙の少ない攻撃をしてくる。当然、反撃攻撃（カウンター）を行ったロイに流れるように大槌がくるはずだ。

　最初の大斧を難なく避けると、後隙（あとすき）を潰すように相方がカバーに向かってくる。

　そしてロイの体を砕こうと重騎士が大槌を振り上げた時、ロイは敵の両足を”シャドーウィップ”引っ張った。

「ぐあっ！」

　叫び声を上げて大槌の重騎士は転倒……普通ならすぐに大槌を狙うべきだが、大斧の態勢は整っているのでこのまま大斧の重騎士を攻めることにした。

「己れ！　”烈衝撃”！！」

　振り下ろす斧に魔力を纏わせて衝撃波で攻撃するスキル。斧に当たれば分断され、避けても衝撃波で吹っ飛ぶ……相方復帰のための時間稼ぎも兼ねた攻撃。

「”シャドープリズン”！」

　敵のスキルを半身で避け、振り下ろされた斧本体に影で出来た帯を幾重にも巻き付ける。魔力による衝撃は包帯のように巻かれた影の帯によって、不発に終わった。

「バカな！　──うぐっ！」

　ロイは聖剣を脇腹に突き刺し、すぐにフラガラッハの短剣を投擲した。転倒から復帰し、大槌を持ち上げようとする重騎士の手首に短剣が深々と刺さった。

「大斧のアンタ……わかってると思うけど、もう武器は持つなよ？　大量出血で死ぬぞ？」

　重騎士は後ろ向きに手をヒラヒラと振ってそれに答えた。

「まぁ、アンタら王国騎士より断然強かったよ」

　それを聞いた重騎士は鼻で笑い、「……もう行け」と一言い、ロイは振り返らずにソフィアの元へと向かうのだった。

　※短剣は、後でユキノが責任を持って回収しました。

　☆☆☆

　光槍（ハスタ・ブリッツェン）の光が見えた。

　恐らくソフィアはあそこにいるのだろう。疾走するロイは途中で状況を把握した。

　ユキノは数人の護衛と共に治療へ奔走している。死体もあるが、敵味方関係なく治療するのが帝国闘技の習わしだと開始前に説明された。

　当然ながら投降した敵の治癒術師（ヒーラー）も協力している。なんと言うか、王国より随分クリーンな決着方法だった。

　そうして、ソフィアの元にたどり着いた時、ガナルキンが手を上げて降参していた。周辺には負傷した傭兵やら騎士やらが転がっている。

「あら、遅かったわね。もう決着は付きましたわよ」

　ソフィア……俺より早く倒したのは知っていたが、ガナルキンの護衛も倒したのか、早すぎだろ！

　ロイも強化値の向上により１つだけ火力型のスキルを習得してはいるが、至近距離で使うスキルではないので小手先で戦うしかなかった。

「魔力配分考えて戦うのが俺なんだよ。戦闘が長引いたらどうするんだよ」

「その時はあなたに頼りますわ」

　即答したソフィアにやれやれとジェスチャーを送ったロイは、ガナルキンに視線を向けた。

「くくく、貴族会にも出ずにずっと引き籠ってたかと思えば……なるほどなるほど、"遺物持ち"を集めていた訳か。それで私が領内に入っても放置していた、と」

　ガナルキンは敗北しているにも関わらず、敗者の態度を見せない。

　──何か隠してるな？

　ロイはガナルキン元へ行き、胸ぐらを掴んだ。

「おい、お前──何か隠してないか？」

「ぐぅ！　くくく、お前達は疑問に思わなかったのか？　隣の領土に侵入してまで鉱山が欲しいのか？　てな」

　すると、ガナルキンは懐から黒い杖を取り出す。一見するとユキノの持つ"魔杖テュルソス"に似ているが、穢れとは違った別の邪悪さを醸し出している。

　危険を感じたロイはバックステップで一気に距離を取る。

「誓約魔術（ゲッシュ）なんてなぁ──降参後に相手を殺せば問題ないのだよ！」

　叫びと共に近くの茂みから何かが飛び出してきた。

　黒い犬……いや、狼、か？

　禍々しい狼のような魔物がガナルキンを守るように歩く。牛のような大きさ、そして赤い瞳に真っ黒な毛並みが、生物的嫌悪感を引き立たせる。

「さあて、疲れきったあなた達にコレの相手が出来るかな？」

　──行け！　ケルベロス！

　黒い狼は一際唸り声を上げてロイに飛び掛かる。聖剣を盾のように構え、ロイは立ち向かう。

　──これにより、最終戦（ラストバトル）の幕が上がるのだった。