第27話 コーヒーブレイク

 ロイが一階に降りるとサリナを除く他の面々はすでに朝食を取っていた。


「俺達以外の客はいないのか?」


 と着席しつつソフィアに訪ねる。


「いないわ、ここは私の組織の息が掛かってるもの」


「組織?お前帝国に帰ったよな?」


「帰ったわ。私が引き取られたのはエイデン・イグニア、つまりイグニア家よ。イグニア家は貴族制度に反対なの、だから取り潰されたレーン家の娘である私を引き取ったの」


 ロイはパンを1切れ口に入れてプチトマトとお肉を分けた。それを見たユキノは食べきれない分をロイの皿に移し、ロイが苦手なプチトマトを全部自分の皿へ移した。


 一連の流れを目撃したマナブは目を皿にした様子で驚いていた。


「それで、貴族に恨みがある人間を片っ端から集めて組織を作った、と?」


「スタークって名前よ。そうね、乱暴な言い方をするとそうなるわねって、何?その連携……『私、正妻です~』みたいなの、イラッときたわ」


「え?せ、正妻!?違いますよ、いつもやってることなんです。これと言って他意はありませんよぉ~~!」


 それに対して『ウンウン』と頷くロイ、ユキノもプチトマトを美味しそうに頬張る。


「ま、いいわ。それと外出はなるべく控えなさいな、この場でワタクシを除いた全員が指名手配されてるから」


 そう言ってテーブルに出されたのは手配書だった。


「おい、似てないぞ?街で見かける手配書はもっときちんと書かれてるぞ?」


「投影魔術で書かれるから仕方ないわよ。正直言って勇者ハルトが人気過ぎて他の面子なんて『付き人』としか思われてないわ。良かったわね?ハルトの人気に助けられて」


「つまり、記憶にございませんってやつか……ちなみに帝国ではどんな手配の仕方なんだ?」


「そうねえ~、聞き込みとモンタージュをしてるわね。案外古典的な手法の方が上手くいくと思うわ」


 その後、ロイはユキノからこれまでの経緯を聞いた。それによるとロイは治療を受けながら王都レグゼリアにあるスタークの息の掛かった宿に搬送され、丸2日寝ていたのだと言う。


 ☆☆☆


 食事が終わり、全員テーブルに着く。自室で食べてたサリナも同席している。


「じゃあ、これからの事だけど、ワタクシとロイ、そしてユキノはこれから帝国へ亡命するわ。あなた達はどうするのかしら?」


「僕はボスについていきます!」


「わかったわ、あなたはどう?」


 ソフィアはサリナへ視線を向けて質問をした。


「アタシは、ハルトの元に戻りたい……だから放っておいて」


「あらそう?でもあなた、手配書が出てるわよ?」


 先ほど食事に参加していなかったサリナは驚いて声をあげる。


「なんで!どうして!?アタシ、ハルトの仲間なのに?」


「ここみて見なさい。『生け捕り』と書いてあるわね。多分、ハルトが抗議したのでしょう」


「じゃあ、アタシが出頭すればハルトに会える?」


「戻ってもあなたの居場所は無いわよ?だって──ハルトは婚約するもの」


 サリナは暫し硬直し、そして髪を乱しながら叫んだ。


「嫌々嫌々嫌!なんで!?そもそもコイツがアタシを捕まえなければこんなことには───」


 パチンッ!


 コイツと称し、ロイのせいにするサリナの頬をユキノが叩いた。


「サリナ、ロイさんはあなたの穢れを浄化してくれたの!本当は殺すことも出来たのに、それを踏み留まってあなたを正常に生かす道を選んだの!私達が彼の村を滅ぼしたの忘れたの?ロイさんの決断を踏みにじらないで!」


「だって……だってぇ~……うぅ……」


 マナブがサリナの肩を抱いて慰めている。元共犯だからこそ、いや、似た者同士だからこそ、その役目を買って出たのだろう。


 それを見たロイとソフィアは少し離れて話し合う。


「あの娘どうするのかしら?」


「俺は……連れていこうと思ってる」


「本気!?」


「婚約相手は……王の娘、アルカンジュだろ?運良くハルトの元に戻ったらあの女、必ずあらゆる手段でアルカンジュを排除しようとするはずだ。あの女はそう言う女だ、王の娘に何かすれば下手すると死刑だぞ?生かした意味がなくなる」


「……はぁ。わかったわ、縄で縛ってでも連れてきなさいな。ワタクシは組織スタークに連絡して馬車を手配するわ。あなたはここで待ってて」


 そう言ってソフィアは宿を出ていった。ソフィアが戻るまでの間、各自様々な行動を取っていた。


 ロイは椅子を並べて仮眠、ユキノは隣の席でアイテムボックスの中身を整頓、マナブはカウンターでミルクをジョッキ飲み、恐らく身長を伸ばしたいのだろう。


 そしてサリナはテーブルに突っ伏している。


 カランカラン


「みんぬぁ、きょうはぱるぇーどだあ~!のめのめぇ~!!」


「お前今日はちょっと飲みすぎだ。マスター、水を一杯くれないか?」


 貸し切りだと言うのに二人の男が入ってきた。片方は呂律が既にまともではなく、片方は顔は赤いがしっかりしている。恐らくいつも介抱役なのだろう。


 宿の主人は水を泥酔状態の男へと持っていく。


「ほら、水だ。それと、外の看板見なかったのか?今日は貸し切りだぞ?」


「ああ、そうなのか?すまねえ、見てなかった。コイツの酔いが少し覚めたらすぐに出ていくからよ。それまで居させてくれよ。ほら、今日は勇者ハルトの婚約パレードだからよ、人が多いんだ……ってコイツ寝ちまったよ……」


 呆れた宿の主人がロイへ向き直って同意を求める。


「構わない、困った時はお互い様だからな。それより、今日がパレードの日なのか?」


「ああ、そうだぜ。おかげでこの様だけどな!」


 ガタンッ!──カランカラン……。


 ああ、サリナが出て行っちまった。たくっ、あの我が儘娘が!


 サリナはハルトに会いたいのだろう。椅子を蹴り倒す勢いで外へと飛び出していった。ロイが腰を上げて追いかけようとすると、ユキノが弱々しく裾を引っ張った。


「ロイさん、私も──」


「いや、ユキノとマナブはここで待っていてくれ。俺1人で連れ戻す」


「必ず、戻ってきて下さい、お願いします……」


 ロイはユキノの頭をワシワシと撫でたあと外へと飛び出したのだった。

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