第19話 アグニの塔 浄化行為

 通路を左に曲がり、真っ直ぐ進むと大広間に出た。予想通り3体の火蜥蜴サラマンダーに囲まれ、壁に追い詰められている戦犯男がいた。


 瞬時に疾走し、敵が気付く前に攻撃を仕掛けた。一番近い1体の背に乗って聖剣を横腹から突き入れ絶命させる。


 残り2体が振り向いたと同時に戦犯男が片方を"アクアスラッシュ"で倒す。

 てっきり逃げるとばかり思ったロイは戦犯男の評価を少しだけ改めた。


 残り1体、軽くバックステップで後退した火蜥蜴サラマンダーはロイと戦犯男を1射線上になる位置取りをした。形勢逆転した為か、戦犯男が気安く話し掛けてきた。


「おい黒髪のアンタ、そのままにして大丈夫か?」


 戦犯男の言いたい事はわかる。どう見ても素人な足取りだから心配なのだろう。だが戦犯男あんたもさっき間抜けな声で『助けて~』と言ってたじゃないか、大して変わらん。そして戦犯男が心配してたはそろそろ位置に着く。


「えいッ!"ホーリースマイト"!」


 抜き足のつもりで背後に回ったユキノが光輝く杖で火蜥蜴サラマンダーを強打した。ピヨってる間に火蜥蜴サラマンダーの首に"シャドーウィップ"を巻き付け、急速に縮めて接近し、半開きの口に聖剣を突き込んで倒した。


「わぁ~!ロイさんのそれってワイヤーアクションみたいですね~」


 ユキノがトトっと駆け寄り称賛した。その様子を見て最初の頃を思い出す。ワーやら、キャーやら言って目を瞑ってたのに、今や死体に目もくれずに勝利を喜んでいる。


「ほえ~」


 ユキノの成長を祝して頭を撫でていると「あの~」と言う声が聞こえて我に帰った。


「アンタの事、すっかり忘れてたよ」


「いやいや!思いっきり戦犯モンスタートレインしたでしょ?俺が言うのもなんだけど!」


「で、なんで火蜥蜴サラマンダー3体に追い回されてたんだよ」


「やっと聞いてくれたよ!……元々俺はソロで挑む予定だったんだけどよ。マナブって奴がサポートパーティを立ち上げるって聞いて参加したんだ。そしたら──」


 小型ゴーレムで大量に魔物を集めて倒すつもりが想定外の数を集めてしまい、処理できずにパーティは離散し、逃げ回る内にロイのいるエリアに辿り着いた、とのこと。


 頭を抱えるロイにユキノは話し掛ける。


「ロイさん、この人が来た通路の先にはマナブがいるのでは?」


「そうだろうな」


「あんたら、アイツに関わるのはやめた方がいいぞ?」


「本当なら関わりたくないけどな。優先しなくちゃいけない事と、やりたい事があるから無理なんだ」


「そうか、じゃあこれ以上は言わねえよ。それとさっきの件、すまなかった」


 戦犯男は謝罪を述べた後、今あるものはこれだけと 赤、青、緑、オレンジ、黄色のポーションをロイに渡して去っていった。アイテムボックスにそれらを入れるユキノ、その傍らでロイは自身発言について考えていた。


 優先するべき事は『封印解放の阻止』、やりたい事は『ハルト達の殺害』……ハルトを殺せば両方達成できる。だが、その事を話すとユキノはいつも悲しそうな表情を浮かべる。このまま我を通しても良いのだろうか?そんな疑問を抱えながらロイ達は戦犯男の来た通路を進んだ。


 ☆☆☆


 アグニの塔、大空洞。先程の広間とは比較にならない程開けた空間に辿り着いた。足場はある程度繋がってはいるものの、下はマグマの海だった。


 周囲を見渡すと、マナブの姿は見えないが巨大なゴーレムが3体程何かと交戦している為、簡単に位置がわかった。


「ロ、ロイさん。あそこにマナブがいます」


「ああ、だからお前は──下がっていろ」


 ここから先はユキノにとって辛い光景になるかもしれない。故にロイは待機の指示を出した。


「大丈夫です!……慣れます。慣れるように頑張りますから──見届けさせて下さい」


「……わかった。来るのは良い、だが慣れるな。お前の優しさや暖かさは良い所だ。俺はそれに助けられてるから──失わないで欲しい」


 目を見開くユキノ、少しして『はい』と微笑んでその表情を引き締めた。続いて『はい』と正面に立って何かを促してきた。


「……何だ?」


「で・す・か・ら!いつもやってる『浄化行為』です。勝率、少しでも上げときましょ?」


「な、なぁ。外套をクッションにして触れさせてくれないか?」


 人差し指を頬に当てて『ん?』と考え込むユキノ。今まではを触っている、と心を誤魔化していた。


 だが、今の服装はピンク色で胸元の開いたノースリーブ……ボディラインがわかる程にピッタリ張り付いたそれは誤魔化しにくいレベル、治癒術師の法衣とは訳が違うのだ。


「村長さんの話しでは、布系は2枚までと言ってましたよね?下着と服で2枚です。ほ~ら、時間無いんですよ?」


「わ、わかった」


 気が動転していたロイは何を思ったか、包み込むように触ってしまった。行き場を失ったそれはより上を目指して形状を変えていく。ノースリーブの肩の部分はズレ、その下の水色の紐は真っ直ぐではなく波打っている。僅かに見えた水色の生地と、新たに形成されつつある丘は18のロイには酷く肉惑的で戦う前からメンタルは削られていく。普段とは違う触れ方にユキノは少し声が漏れた。


「んん……っ」


 一番初めは恥辱の表情だったのに、回数を重ねた今では困惑の表情を浮かべるようになった。どれくらい過ぎたか、恐らくは1分も掛かってはいない。だが5分程の長さに感じた。


「…………」


「…………」


 ユキノは背を向けてズレた肩紐を直し、ロイはステータスを確認していた。


 グラム+32

 総合力3290


 テュルソス+32

 総合力2910


 そろそろ時間が無いな。今はこの数値で戦えると信じて挑むしかない。念のためユキノにも数値を見せるが少し見た後、ロイの顔をジーっと見てきた。


「何だよ」


「ううん、今日は変だったから気になっただけです。それじゃ、行きますか」


 こうしてロイ達は大空洞中心地に向けて行動を開始した。





※浄化行為・心臓のある位置に『浄化の指輪』を付けた手で触れる事により、浄化される際に生じる経験値負のエーテルを拡散させること無く両者に付与する行為。


※負のエーテル・穢れとも言う。人は魔物や動物を狩る事により少量の経験値を得る。それにより人は成長するが、子供より大人の方が悪性が強くなってしまうのはこれが原因の1つ。勇者やロイの聖遺物は負のエーテルをより効率的に収集する機能もある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る