第18話 アグニの塔 突入
ロイは物陰からサリナとマナブの様子を窺っていた。そして、"シャドーポケット"内が空になったのを確認して密かに笑みを溢した。
こちらの攻撃が効くのか、それを目的とした襲撃を行ったのだ。いざ戦いになった時に、刃が通らない程に差があってはどうにもならないからだ。
2人が去ったのを見計らってテントに戻り、夜食の準備をする。と言っても、パンを切り分けて干し肉に多少味付けをする程度だ。ユキノが後ろからヒョコヒョコと顔を出してくる。
「そんなにお腹減ったのか?」
「そうですよ~、昼間かなり汗が出て塩分が足りませぬ~」
「わかったからジっとしてろ。気が散る」
「うぅ~、そう言えばどこに行ってたんですか?」
「店に売れない不良品があっただろ?あれでストレス発散してきた」
「もしかして……あれ全部?」
ユキノが言ってる『あれ』とは先日ゴブリンを大量に駆逐した時に手に入れた短剣だ。モニック村に戻った時に安値で売り付けようとしたんだが、ゴブリンの自作短剣は不純物が多すぎると言う文句のために処分に困っていた。
そんな時にマナブが夜営地を離れるもんだから遊んでみたって訳だ。しかし、あの短剣……土やらゴブリンの糞尿やらが着いてて汚かったんだよな。
あれはある意味毒だ。あれで逝ってくれたら楽なのに……。
食事の後、互いに装備の確認をした。ロイは黒の外套に黒のシャツ、そして黒のズボンと言う出で立ちだ。
対するユキノはロイから譲り受けた黒の外套に胸元の開いた桃色のノースリーブ、下は青のジーパンだった。
「いつも思うけど、ロイさんは黒一色ですね」
「
「ああ~確かに。最初来た時は邪教の村と思ってました」
「……フッ」
「ん~?ロイさん今笑った?」
ユキノはロイの前に回り込んで覗き込んでくる。ロイは少し体を引く体勢になり、女豹のポーズで接近するユキノに少しだけ注意した。
「肩から水色の紐が見えてるぞ?」
ひゃあっ!と脱兎の如く距離を取るユキノ、その顔は羞恥と困惑の表情を浮かべていた。そしてこれ以上追及されるのが面倒なロイは適当に話題を振ることにした。
「新しい服、ちゃんと
「……はい、されてますよ?」
「なら良いんだ」
先日、モニック村で服を新調したのには理由があった。アグニの塔を攻略するためには暑さ対策が必要だ。
ロイ達のいるレグゼリア王国は、地図の南に位置する。その中でもモニック村はアグニの塔に極限まで近い位置にあるため、売られている服には耐熱魔方陣が布地に施されている。
ちなみに冒険者用の装備には防御魔方陣の
ロイとユキノは装備の確認が終わるといつも通り一緒に寝るのだが、今日も布面積の少ないユキノと心穏やかではない夜を過ごす事となった。
☆☆☆
翌朝、準備を終えた時にはすでに数パーティが中に突入していた。
中に入ると喧騒で騒々しかった音が一瞬にして静寂に包み込まれる。50m程度の塔に複数のパーティが入ればごった返す事は明白だが、中は別の空間に繋がっていた。
ここはどうやら洞窟の中で溶岩が川のように流れており、離れた位置では他の冒険者がすでに魔物と交戦を始めていた。
ロイ達も最深部を目指して攻略を開始した。先頭はロイ、そしてユキノが続く形で進んでいった。
「ユキノ、
「わかりました!……もしかして、火吐きます?」
「それはそうだろ?わかってると思うが、この直線通路で火球がきたら避けられない。俺の"シャドウシールド"では防げないかもしれないから──」
「私の"
ロイは頷き、そしてじわりじわりと距離を詰めていく。ここはT字通路、
T字通路の右の方から男が喚きながら走ってきた。その背後には数体の魔物が追従している。これはいわゆる『モンスタートレイン』と言うやつでダンジョン内で忌み嫌われるマナー違反である。
追い掛けられていた男はそのまま通路の左に駆けて行き、ロイ達が最初にマーキングしていた
我に返ったロイはすぐに指示を出す。
「ユキノ、気付かれた!頼む」
「わかりました!"
ユキノのスキル発動と同時に
ロイと
発射直前で行き場を失った火球は
「ロイさん!」
ユキノが遅れて駆けつける。
「大丈夫だ。怪我はしてない、それよりも──」
「はい、先程の
互いに頷き合い、2人は逃げた男を追うことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。