第4話 出立準備
明日に備えて準備をしているのだが、ユキノが気落ちしたままテーブルに突っ伏している。
……はぁ。お前は生きてるだけマシじゃねえか。俺の両親は殺されたんだぞ?
「なぁ、ユキノ……お前も色々準備があるだろ?」
見かねたロイがユキノに近付くと、彼女は突如起き上がって自身の手に刃物を宛がった。
「このバカッ!」
今までで一番早いんじゃないかと思えるほどの速度で影魔術を発動して腕を縛った。影魔術は夜であれば昼の倍の速度と強度で使用できるためそれも間に合った要因である。
「離してッ!私、もうこんな世界は嫌ッ!」
その台詞は世界に絶望した人間の言葉だった。ロイはユキノがいた世界が余程ぬるい世界なのだろうと認識した。死と隣り合わせのこの世界では隣人が呪われて変貌するなんてよく聞く話しだからだ。
別に死んだわけではない。生きてさえいればもしかしたらどうとでもなる世界だ。縛られてもなお暴れるユキノに俺は平手打ちをした。
パシンッ!
ユキノは黙って俺を憎悪の目で睨む。
「そうだ。それで良い」
「何偉そうに……あなたに私の気持ちはわからない!仲間が敵を倒す度にどんどん遠慮がなくなって、初めて盗賊を殺したとき確かにみんな怖がったけど、次に盗賊を殺したときみんな笑ってたわ!ホントはわかってた!生き物を、そして人間を殺すことに躊躇どころか楽しみ始めてることに。この武器だってそう……あれからあなたの目を盗んで何度か捨てたわ。だけどね……気づいたら手に届く位置に戻って来てるの!もう嫌ああああああああ……」
俺は影で刃物を窓の外に投げて拘束を解いた。仕方なく俺は座り込んで泣きじゃくるユキノを抱き締めて背中を撫でる。
「いいか?幸いにもお前は治癒術師だ。なら、旅の途中で汚染しきった精神を癒す術が見付かるかもしれない。確証は無いけどな。ハルトが助かってオーパーツが戻れば戦う必要もなくなる。だから生きろ……」
この言葉には嘘がある。いや、大部分は本音だ。だが勇者に関しては殺させてもらう。両親を何の躊躇いもなく殺し、上から目線で俺に剣を突き付け、羽虫を払うかのように叩きつけられたあの悔しさと憎悪、せいぜいこの娘は利用させてもらうさ。
ユキノを俺のベッドで寝かしつけて俺は両親のベッドで寝た。きっとこれが最後に嗅ぐであろう両親の匂い、せめて今宵は幸せだったあの頃の夢が見れるように……。
☆☆☆☆☆☆
セプテンの宿屋で二人の男女が抱き合っていた。勇者ハルトと仲間のサリナだ。サリナのスマホに写ったユキノの不貞を見たハルトはサリナと交わり、関係を持ってしまった。
「あっ!……ふぅ、あん」
媚声が聞こえる部屋のドアにもたれ掛かってマナブは笑う。
「くくく……サリナはとんだ悪女だな。スマホの男は俺で、そしてユキノの目元にゴミが付いてると嘘ついて顔を近付けただけだってのに……まぁ、サリナの指示で勘違いしやすいようにしたからな。俺が同じ立場でも騙されるだろうな」
マナブはユキノを想う、自身を讃えながら……。
ユキノは多分生きてるだろうな……俺が土魔術でユキノの周りだけ空洞になるようにしたからな。あの崩落の中でこんな芸当ができる俺は天才かもな!
サリナは捨てられたユキノをくれるっていうし……Win-Winだ!ははははははは!
「行き先は大体知ってるだろうし、あの武器だから死なねえだろ。早く追ってこいよ、ユキノちゃん」
マナブは中に聞こえないように軽く笑って自室に戻っていった。
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