第5話 悪夢
ここはどこだ?真っ暗だ……あら?
ロイの
『二人は死んだはずじゃ……』
『何言ってるのよ。ロイ、あなた今日は変よ?』
『そうだぞ。怖い夢でも見たか?』
『あ、ああ。何て言うか、二人が死ぬ夢を見たんだ……あれ?どんな夢だっけ?』
『ハハハハ、それより今日は神の間の掃除の日だろ?準備したらすぐに向かうからな』
『あ、うん。そうだったね。ちょっと待ってて』
嫌な夢を見てた気がするけど、まぁいいや!さっさと準備しよ。
ビィィィィィッ!
準備してると招集のサイレンがなり始めた。これは侵入者か危険な来訪者の合図だ。掃除器具などの準備を放り出して村の入り口に向かうと、村長の家の前に大勢の村人が集まっていた。ロイは近くのおじさんに聞いてみた。
『合図が鳴ったみたいだけど、どうかしたのか?』
『ああ、勇者一行が来たんだってよ。それだけなら警報ならさなかったんだが、いきなりオーパーツを寄越せって要求してきたんだ。もしかしたら戦闘になるからお前は隠れてな』
『何言ってんだよ。俺は村の武芸大会で優勝したんだぜ?俺も残るよ』
『お前は子供の中では強いが、大人も含めるとそこまで強くないからな?』
『……わかったよ。じゃ、避難するから頑張って』
『おうよ! 俺達に任せな!』
ロイは表面上納得したかのように見せて、裏から村長の家の屋根に上がって勇者がどんな奴らか見物した。
おっ!あれが勇者か……俺とあまり歳も変わらないよな?みんなヒョロヒョロだし、警戒するほどの相手か?
勇者達は挨拶を始めた。勇者ハルト、治癒術師のユキノ、槍術師のサリナ、土魔術師のマナブ。
にこやかに始められた話し合いも、こちらが一切渡す気はない事を理解した勇者達は囲んでいた影術師の仲間と交戦を始めた。と言ってもハルト以外は少し離れたところで見物してるだけだったが、戦闘はすぐに終結を迎える。
ハルト一人に1分足らずでほとんど壊滅し、残りは2名、影の一族でも指折りの実力者である俺の父さんと母さんだった。戦闘力の低い村人は村長の指示ですでに避難している。
『君たちは四大封印を解放することの重大さを理解していない!魔王を倒す前に魔神に滅ぼされるぞ!』
『わかっていないのはあなた達だ。僕達勇者パーティには最強の武器だってある。敵を倒すごとに成長する最強の武器が。魔神が出てきた頃にはもうこの世界で僕らに敵うものはいないさ』
ハルトが禍々しい黒の剣を掲げてうっとりと見とれる。
『それはッ!やめろ、それは君達の精神を汚染する武器だ!』
『何を言ってるんですか?これは聖なる武器、レジェンドウェポンだよ。はぁ……どうやらお互い退けないようですね。では僕らは用事が山積みなので、そろそろ終わらせるよッ!』
今までよりもさらに速い斬撃が父さんと母さんを襲う。
やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!ロイの慟哭も虚しく、両親はハルトによって斬り伏せられる。
クッソォォォォォォォォォ!!!……。
……きて……て………起きて!
……ハッ!
目が覚めるとユキノが顔を覗き込んでいた。
「怖い夢でも見たんですか?」
「ああ、ハルトに親を殺される夢をな」
機嫌が悪いロイは、敢えてユキノの罪悪感を掻き立てる言葉を選んだ。それを聞いたユキノは申し訳なさそうに俯いた。
「……チッ」
俺は何故だかそんなユキノを見ると心が疼いた。ユキノを傷付けて憂さ晴らしするつもりが、俺までもが不快感を覚えたことに舌打ちしてしまう。
子供だな……。
自身の子供じみた嫌がらせに多少イラついていると、ぐぅ~とお腹が鳴る。そう言えば、あの雨の悪夢から何も食べてなかったな……。朝食を摂ろうとリビングに向かおうとするが、ユキノは下を向いたまま付いてこない。
……はぁ。
ロイはユキノの頭に手を置いて言った。
「悪かった……すまん。朝食作るから座って待ってて」
ユキノは驚いた顔をしたあと涙を拭う。
「はい!……あ、お皿くらいは出させてください!」
簡単に朝食を作ってお互いにテーブルに着くと、ユキノが不思議なポーズをしていた。
「何をしてるんだ?」
「私の世界でご飯を食べるときには手を合わせてこう言うんです──『いただきます』って」
不思議だ。簡単なポーズに簡単な言葉……でも何故だか深い意味があるような気がする。
「ほら、ロイさんもしてみてください」
「こ、こうか?」
俺はユキノに習って手を合わせる。そしてお互いに祝詞を口ずさむ。
───いただきます
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