第2話 闇の武器

 これまでの経緯をユキノは語ってくれた。修学旅行の最中にこの世界に転移させられたこと、王様に王国を救って欲しいと頼まれたこと、そしてここのオーパーツを使って属性塔の封印を解いた時に生じる余剰魔力を使えば楽に魔王を倒せること……次の目的地が南東にあるセプテンと言う小さな街であることまで教えてくれた。


 正直なところ、魔王については本当にいるのかすら怪しい。ここ100年以上活動の痕跡がないし、魔族自体も1年に1度目撃報告があるかどうかのレベル。


「仮に、魔神も魔王も存在するとして……魔王打倒のために封印解いたら悪神が来るじゃねえか。いにしえの大戦の時でさえ魔族と手を組んで辛勝だったんだ。勝算はあるのか?」


「私達だって……聞きました。封印されてる存在が復活してもいいのですか?って。そしたら王様から魔王を倒したあと悪神を封印すればいいって言われて、これを渡されました」


 そう言ってユキノが見せたのは黒い杖だった。


 その武器はSランクの遺物武器エピックウェポンとして有名な【闇の武器】。穢れを取り込み、持ち主を急成長させる効果を持つと言われている対神兵器。


 だが、その武器には致命的な欠点があった。取り込んだ穢れが持ち主に流れ込んで、その精神を歪めるという欠点が。


 いにしえの大戦後、当時の魔王はその武器のリスクを危険と判断して、丁重に封印を施したと伝えられている。


 それをユキノに伝えると、彼女は青い顔をして武器を落とした。


「そ……んな……。私達、騙されたの?」


「それを使えば可能性が無い訳じゃないが、お前達の精神は完全に歪んでしまうぞ?」


 ユキノはペタンと座り込んで嗚咽を漏らす。騙されたという言葉から察するに、リスクを説明されないまま手渡された可能性が高い。


 この女の絶望もわからなくはないが、その武器で家族を殺され、一族を壊滅に追い込まれた俺の方がよっぽど絶望している。この女の被害なんて、せいぜい仲間の心が汚染されるだけの話だ。


 とはいえ、このまま泣かれるのも面倒なので、ユキノの背中に毛布をかけながら提案することにした。


「なあ、俺と協力しないか?」


 ユキノはビクッと肩を揺らし、そして肩口からロイを見上げた。


「協力……?」


「ああ、協力だ。お前はハルトに合流したい、俺はハルトからオーパーツを取り戻したい、利害は一致してるはずだ」


 ユキノの前に回り、手を差し出す。


 ロイの差し出した手を握って良いのか? ユキノは悩む……だが、ハルトの笑顔が脳裏に浮かんだユキノは合流することが優先と信じてその手を取った。


「こちらこそよろしくお願いいたします」


 指の先端を軽く乗せるだけのぎこちない握手、傍目から見たら騎士の挨拶に似ているが、そんな高尚なものではないし、男女が逆だ。


 契約は成立し、ロイとユキノは明日に備えて寝ることにした。

 ロイの目蓋が落ちようとして頃、隣から小さな声が聞こえてきた。


 "ハルト……会いたいよぉ……"


 夢でうなされる程にハルトを求める、恐らくはとても深い仲なのだろう。だからこそ、合流した時に人質としてこちらが有利に立ち回れる。


 ロイはほのかなくらい笑みを浮かべて眠りに就いた。

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