第76話 俺も陽キャ美少女も、告白の結果がどうなるかは分からない②

 彼女がこんなに焦る様子は見たことがないので、俺も急いで釈明を始める。


「ただの日記アカウントなのは重々承知してる。だけど裏アカを知られてたら動揺して当然だよな。でもゴメン、どうしても気になったんだ。二宮さんのことが」


「た、ただの日記じゃなくて! ……えっと、それはひとまず置いとこう! 私のことが気になってたってホント?」


 真っ赤な頬のまま、二宮さんは自分で自分の顔を指差して尋ねてきた。

 俺は首を縦に振り肯定して、心情を打ち明ける。


「入学後すぐの自己紹介の時から、多分俺は二宮さんが気になってたんだと思う。俺もこんな風に誰かと話せたらな……って憧れにも近かったかもしれない」


「ヨッシー……。そんな風に思ってくれてたんだ」


「だからって言い訳にはならないんだが、裏アカを知っちゃってから、二宮さんの呟きが気になって何度も見てしまった……。本当に申し訳ない!」


 二宮さんに頭を下げて謝罪してから、恐る恐る視線を戻すと、彼女は頬を赤くしながらもどこか寂しげな表情で、俺に声を掛けた。


「いやいや、ただの日記用アカウントって思ってるのなら、特に問題ないかな! ヨッシーがそう思ってるなら……うん、覚悟は決まったよ! 告白したい事の一つをもう今、言っちゃって良いかな?」


「待って、言いたいことは知ってる。まず先に俺の告白相手を白状させてくれ!」


 恐らく告白したいとは『引越し先が海外』という事と、裏アカの呟きのみで実生活では伏せていた事や賑やかさを愛する彼女の性格から考えて『今まで黙っていてゴメンね?』というような胸中の告白――この裏アカ関係の二つに違いない。


 二宮さんは『私が告白する事も知ってるの!?』と言いたげな表情で驚いていた。

 告白を聞いてほしいという俺の願いは、力強い口調で否定されてしまう。


「ヨッシーの告白相手も聞かないっ! ヨッシーが他の女子に告白しちゃう前に、私の方から告白するって決めてるから!」


 二宮さんの言葉に、今度は俺が驚かされる番となった。

 俺は他ならぬ二宮さんに、今まさに告白しようとしていたのだが……。


 しかし俺の耳がおかしくなければ「私の方から告白する」と確かに聞こえた。


 クーラーの冷風を浴びていた二宮さんは、それこそ、いつもの陽キャ的距離感で歩み寄ってきて、俺の両腕を掴んで視線を合わせた瞬間に叫んだ。


「返事はもう分かってるけど言わせて! ヨッシーのことが大好き!」

「……っ!?」


 まさかの逆告白に、さすがに驚きを隠し切れなくなってきた。

 二宮さんから好きと言われたら『こちらこそ』としか返事しようがないのだが!


 この至近距離・陽キャ的距離感は、これまでも経験してきた距離感である。

 そのせいか俺の脳裏に『な~んて! 冗談ですよ~』と切り返してくる、普段のノリの二宮さんの姿が浮かんできた。


 そんな光景が現実になってしまう前に、俺は二宮さんに想いを伝える。


「さっき、俺の告白相手も聞かないって二宮さん言ってたけど、聞いてほしい! 俺は好きだ! 二宮さんのことが! 冗談じゃなくて、本気で!」


 ああ、とうとう言ってしまった。ここまで言い切ってしまった。

『――って勢いで、俺は女子に告白すれば良いのか?』などとは誤魔化せない。


 二宮さんは俺の両腕を掴んだまま、耳まで真っ赤になりながら困惑する。


「あの、ヨッシーの返事が想定と違ってて混乱してきた! あれ? 私の裏アカの呟きを見てたなら、私がヨッシーのこと好きって分かるはずなのに、あれっ??」


「えっ……? 俺も今、想定外なことを知らされたぞ。二宮さんの裏アカはただの日記アカウントだよな? 俺のこと好きかもって、願望としては思ってたけど」


「その~……。まさしくヨッシーのことが好きだから作った裏アカだよ?」

「……っ」


 想定外のことが立て続けに襲ってくるので、俺は思わず息をのんでしまった。

 しばらく両腕を掴まれたまま、二宮さんと無言で見つめ合う。


 そしてどちらが示し合わせるでもなく、確認の言葉を交わした。


「中々信じられないんだが、つまりアレかな……?」

「私とヨッシー……お互いとも告白しあった、ってことだよね?」


 俺の腕から手を放した二宮さんは、恥ずかしそうに真っ赤な顔を両手で隠す。


 両腕が解放された俺は、未だに信じられずスマホのネットブラウザを起動して、二宮さんの裏アカを今一度、そういった視点で確認しようとした。


 すると二宮さんは火照った頬を隠すのをやめて、スマホを取り上げようとする。


「あぁーっ! ヨッシー、ストップストップーっ! リアル黒歴史ーっ!!」

「だ、だって二宮さんが俺を好きなんて、信じられなく……てっ!?」


 二宮さんはスマホの奪取を諦め、思い切り俺に抱きついてきた。


 ギュッと抱きつかれて、途中で声が上擦ってしまった俺に、二宮さんは得意げにドヤ顔をしながら見つめてくる。……物凄く顔が赤いままではあるが。


「動かぬ証拠ならぬ、動かさない証拠! 大好きですしヨッシーのこと!」

「わ、分かった、信じた……! だからもう大丈夫だ」


「えぇ~? もっと、こうしていたいんだけどな~」

「……す、好きなだけどうぞ」


「もちろんヨッシーが好きなんだし、好きなだけしますとも~!」


 そんなことを言いながら、二宮さんは俺の胸に顔をうずめてきた。


 クーラーの設定温度をもっと低く設定しておけば良かったと思いつつ、まだ聞けていない告白したいことの、二つ目について尋ねる。


「一つ目はもう聞けたとして、もう一つは何を告白するつもりだったの?」


「裏アカを知ってたヨッシーなら、知ってるはずだよ? 私ね、引っ越すんだ~。本当にハードスケジュールだったよ~。お父さんが海外赴任するって知らされて、色々な申請の為に証明写真を撮ったりもしたな~」


「そっか……。やっぱり二宮さんに気持ちを伝えておいて良かった」


 俺がそう呟くと、二宮さんは抱きつくのをやめて、照れ臭そうに笑みを見せた。

 二宮さんに少しずつ、普段の陽キャ美少女っぽい雰囲気が戻り始める。


「ヨッシー、勘違いはいけない。夏休みに入って即行で海外に行く訳じゃなくて、まだ少し時間はあるんだ~。だからね、明日デートしておかない?」


「……っ! ああ、こちらからお願いしたいくらいだ。一緒に出掛けよう」


 俺の返事を聞き終えた二宮さんは満面の笑みで、委員長にRINEを送信した。

 すると一分も経たずに、委員長から俺のRINEにメッセージが届く。


『友木くんと竹内さんには伝えておくわ。二人とも、今日も明日も爆発しなさい』


 どう返信しようかと思い、スマホを渡して二宮さんにもメッセージを見せた。


 俺のスマホを手にした二宮さんが、何やら文字を入力し始めたので、慌ててそのRINE画面を覗き込むと『大好きだよ』とだけ打ち込まれていた。


 頬を赤らめながら見つめてくる彼女に堪え切れず、俺は『二宮さんのことが』と書き足して、勢いそのままに委員長へ送信して、帰り支度を始める。


 一緒に図書室を退室してから、二宮さんは施錠しながら俺にお願いをしてきた。


「明日あの裏アカに最後の呟きをするから、デートの後に見てくれるかな?」


 俺は彼女からのお願いに、静かに頷き『もう残り僅かな時間を大切にしよう』と心の中で誓いながら、二宮さんと図書室を後にした。

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