終幕小話 陽キャ美少女と過ごす日々は、絶対に終わる訳がないんだ
終業式の翌日、夏休み一日目の朝――。
昨晩はずっと二宮さんとRINE通話を楽しみ、既にデートの待ち合わせ場所も最寄り駅の改札口前と取り決めてある。
俺は以前二宮さんに夏服として選んでもらった夏用のテーラードジャケットに、くるぶし丈ズボンのアンクルパンツを着込み、待ち合わせ場所に向かった。
予定より十分ほど早く到着した俺は、二宮さんからのRINE通話に備える。
前髪だけ自分でたまにカットして長いままだった髪も、昨日帰宅後すぐ理容室に駆け込んで短髪にしたので、ある程度はマシな見た目になっていると思いたい。
待ち合わせ時間の五分ほど前になると、二宮さんから通話が掛かってきた。
『おお~っ! ヨッシー、伊達男に決めてきてるじゃないか~!』
『あっ、俺も二宮さん見つけた。今、俺から見て右の方向に居るよね?』
『合ってる合ってる~! まだヨッシーしか知らない、休日お出かけ仕様な髪型の二宮さんですよ~』
スマホ片手に二宮さんが手を振りながら、こちらへ駆け寄ってくる。
俺の夏服選びの時に初めて見た、サイドの編み込みで女子力高くアレンジされたハーフアップの髪型が、陽キャ美少女の二宮さんに似合っていて凄く可愛い。
二宮さんは半袖の黒ワンピース姿というありふれたコーディネートだが、小物も含めてお洒落な雰囲気に満ちている。
恒例の陽キャ的距離感で、二宮さんは身を寄せてきて、俺の全身を眺めた。
「ヨッシー覚えていてくれたんだね~。その服を選んだ時に私が言ってたこと!」
「ああ。次のデートの時はこれを着てほしい……って言葉を思い出してさ」
「ふっふっふ。照れてるヨッシー、眼福だな~」
「そ、そうか? まあ二宮さんが幸せなら、それで本望だ」
俺は照れ隠しに視線を逸らしたが、すかさず二宮さんが手を握ってくる。
驚いて二宮さんと再度目を合わせると、彼女も少し恥ずかしいご様子だった。
「今日は大変だよヨッシー。だって今日一日でこの辺りのカップル御用達エリアをコンプリートするような勢いで、スケジュールを組んじゃったからね!」
「俺はそういう場所、ほとんど知らないから助かるよ。今日は一日楽しもう!」
「その意気だ~。じゃあヨッシー、さっそく電車に乗り込もっか!」
ニコニコ笑顔な二宮さんに手を引かれて、彼女とのデートは始まった。
お客の八割は女性客で、残り二割は彼女を連れた男性だけという、リア充指数が振り切れているスイーツ店に入ったり、貴重な体験をすることになった。
「ふっふふ……w 今のヨッシー、まるでライバルが想像以上に強かった時の少年漫画キャラみたいな表情になってるよ~?」
「だってこのパフェ、八百円近い……! コンビニの高級志向パフェ二個分!?」
「上には上があるとも。とある有名店には千五百円のパフェだってあるし~」
「千五百円!? ぶ、文庫ラノベを二冊買ってもお釣りが出る……!」
「あはは、例え方がすごくヨッシーらしくて面白いな~」
――こんな感じで、いつもの教室でお喋りしている時のような、それでいて普段よりも新鮮な環境を楽しみながら、二宮さんと笑い合ったりなんかして。
デートの最中ずっと手をつなぎながら、二宮さんの横顔を眺めていても、学校の隣の席で毎回見ていた横顔を思い出してきたりもして。
今日は一日、朝から二宮さんと一緒にいたのに、気付けば夕方前になっていて、駅の近くの喫茶店に入り、テーブルを挟んで二宮さんと向かい合っていた。
「いやあ、ノンストップで遊び倒したね~! ヨッシーもお疲れ様!」
「本当にあっという間だったよ。でもきっと一生残る想い出になりそうだ」
「そんな今生の別れみたいな言い方しないでよ~。今はスマホさえ持っていれば、たとえ地球の裏側に行ったとしても、すぐ連絡だって取れるんだよ~?」
「うーむ。そう言われてみると、時差の問題くらいなのか?」
本当は時差なんて大した問題ではなく、二宮さんと逢えなくなる方が大問題だ。
しかし二宮さんが海外へと旅立つのであれば、最後も笑って終わらせたい。
「確かに時差は大変かも。お父さんが言うには十二時間以上も時差あるらしいよ」
「うわ、思ってた以上に遠くに行っちゃう感じか。うーん、アメリカとか?」
「おお~、ヨッシー正解! ニューヨークに海外赴任だから忙しくなるみたい」
「それは凄いな……。二宮さんのお父さんって相当エリートなんだね」
お兄さんもイケメンだったし、二宮家はハイスペック一族なのかもしれない。
二宮さんは喫茶店の店員さんから受け取ったコーヒーを飲みながら、悪戯っぽい笑みでスマホを操作した。
「投稿完了! 裏アカに最後の呟きを書いたから、帰り道でしっかり見てね!」
「……今、見たらダメかな?」
「ダメです! でもヨッシーが帰りのバスに乗る前なら、何でもしてあげるよ? そうだな~、キスでも私は問題ないです!」
コーヒーを飲む度に、二宮さんとの想い出が浮かぶようになってしまうかも。
本当はお願いしたいけど、公衆の面前でキスする度胸は無いので断ろう。
「キスは恥ずかしいから……遠慮しとくよ。また会う機会にお願い」
「……うん。ヨッシーがそう言うなら、約束は覚えておくね」
頬を赤らめながら返事する二宮さんも可愛くて、このままずっと喫茶店に留まり続けたいが……そろそろお別れの時間だ。
喫茶店で会計を済ませた後、駅裏のバス停で帰りのバスを待つ間に、二宮さんに寂しい気持ちを悟られないよう注意しながら呟いた。
「本当に今日も楽しかったよ。ちゃんと笑ってお別れできそうだ」
「さっきの約束……私、絶対に覚えてるから! 今度会った時に守ってね!」
「了解だ! バスも来たみたいだし、そろそろお別れだな」
俺がバスに乗り込んで発車してからも、二宮さんは元気に手を振ってくれる。
二宮さんの姿が見えなくなるまで俺も手を振って応えたが、彼女が居なくなった途端に寂しさが襲ってきた。
心臓がバクバクと鳴るのを感じながら、スマホで二宮さんの裏アカを閲覧する。
喫茶店で投稿していた彼女の呟きを見て、俺は思わず声を上げそうになった。
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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き
お父さんの単身赴任に合わせて、十日くらい家族でアメリカに行ってくるね!
音信不通気味になっても許してね? お土産は忘れませんとも。
大事な大事なお引越し先は、大事な大事な男子の自宅から近いマンションです!
引越し先の住人の退去日が一週間後だから、帰国後すぐに引越す予定だよ~。
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俺はバスに揺られながら、投稿文字数のギリギリまで書かれていた最後の呟きをもう一度眺め、誰にも聞こえないように小声で独り言を零した。
「……八月になれば逢えるじゃないか。しかも相当近場に建っているマンションに引っ越してくるぞこれは。今年の夏休みは、休む暇も無さそうだ」
八月上旬の昼過ぎ、俺の自宅の玄関――。
二宮さんはお土産袋を抱えて、いつもの陽キャっぽい笑みで家を訪ねてきた。
「どうもお母さん、お久しぶりです~。ヨッシーの彼女の二宮姫子です!」
「えっと、二宮さん。そこまでストレートに言われると恥ずかしいものがあるな」
「ヨッシー甘い甘い~。あの恥ずかしい約束、私は忘れていませんけども~」
そんなことを母さんの前で耳打ちしてくる二宮さんに、俺は何も言えなかった。
母さんのお誘いで居間にお邪魔してソファへと腰を下ろし、俺の隣で身を寄せる二宮さんが何度も「キス~、約束~」と囁いてくるので、思わず赤面する。
でも二宮さんとの日々がこれからも続く幸せを、俺は噛みしめるのであった。
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