第75話 俺も陽キャ美少女も、告白の結果がどうなるかは分からない①

 終業式当日。俺にとっては、あっという間に時間が過ぎていくようだった。

 体育館で聞くお偉いさんによるお話も、まるで早送りをしているような感覚だ。


 何故なら昨晩、二宮さんの裏アカの呟きで『海外へ引越す』という一つの推論に辿り着いてしまったからである。


 元々『しんみりさせたくないからと、引越し直前まで伏せるつもり』なのだと、俺は推測していたが、まさか転校どころか国外だなんて考えもしなかった。


 終業式も終わり教室に戻ってきた俺たちに、先生が通知表を配り始める。

 この後はもう放課後なのに、先生は二宮さんの引越しについて何も言及しない。


「お~い、ヨッシー? 早く通知表を受け取らないと。先生が待ってるよ?」

「……え? あ、もう俺の番が回ってきてたのか」


 俺は教壇に立つ先生から通知表を受け取って、再び自分の席に戻った。

 二宮さんも通知表を受け取ると、さっそくドヤ顔で俺に見せびらかしてくる。


「ふっふっふ。通知表の所見欄を確認するのって、凄く楽しいよね~?」


「どれどれ……。『クラスを和ますムードメーカーでしたね。図書委員の役割もしっかり行い、美化委員の旧校舎清掃も手伝うなど積極性が見られます』かー」


「やっぱり旧校舎の掃除は、先生に話を通しておいて正解だったね~」


 美化委員の竹内さんや委員長の助けを借りて、体力テストの朝練も兼ねて一緒に旧校舎の掃除をしたのも、つい最近の出来事のように感じる。 

 だけど隣の席同士で一緒に過ごせるのも、今日が最後なんだよな……。


 俺も自分の通知表を開いて二宮さんに手渡し、一緒に所見欄を確認してみた。


「ヨッシーの所見欄は……『思慮深く周囲に自分を合わせられる印象があります。美化委員の旧校舎清掃にも参加。今後も行動力の発揮に期待大です』だって!」


「うん。二宮さんたちが居なければ、絶対に書かれていなかった内容だな」

「そうかな? だって放課後、さっそく行動力を発揮しちゃう予定じゃないか~」


 当の本人から、放課後の告白について言及され、俺に緊張が走る。

 二宮さんは俺の通知表で顔をサッと隠し、明るい声音のまま尋ねてきた。


「ほら、私って図書委員だからさ。担当の先生に無理を言えば、図書室の鍵だって借りられそうだけど、ヨッシーどうする~?」

「終業式の放課後だし、図書室なら誰も来ないよな。今からお願いしに行こうか」


 返事を聞いた二宮さんは、顔を隠すのを止めて俺に通知表を返す。

 彼女の顔から普段の可愛らしい陽気さは消え、凛とした雰囲気に包まれていた。


 二宮さんには「告白の直前の時に勇気づけて貰いたい」と嘘をついて、最後まで残ってくれるように頼んだのだ。

 この表情は、俺のことを男友達として真剣に励ましてくれるつもりなのだろう。


 本日最後のイベントである通知表の配布も終わったので、他に用事がない生徒は帰宅する準備をし始めている。


「じゃあヨッシー、私についてきて~。実は私も、誰も居ないところでヨッシーに告白したいことがあるんだ」

「ふ、二つ……?」


 もし『二つ』という言葉が無ければ、異性に想いを伝える意味の告白と誤解するところだった。我ながらわらにもすがる思いである。


 俺は二宮さんと図書室の鍵を借りて、いざ図書室へと向かった。




 続々と生徒が下校するなか、俺と二宮さんは静寂に包まれた図書室に入室した。


 二宮さんはスクールバッグを受付カウンターのテーブルに置いて、図書室を懐かしそうにキョロキョロと見渡す。


「私は図書室に何度も来たことあるけど、ヨッシーと図書室に居た時って今思えば楽しい想い出ばかりだな~」


「最初に二宮さんとここに来た時は、今みたいに誰も居なかったね。そういえば、ナップサックとか投げつけられた覚えがある」


「あはは、体操服入れの件だよね。あの時のヨッシー、照れてたみたいだけど~」

「二宮さんだってあの後、委員長に俺とキスしたとか勘違いされて、動揺していたような気が……」


 当時の光景を思い出してしまったせいで、頬が熱くなってきた。

 二宮さんも図書室が暑いのか、制服のYシャツの胸元をぱたぱたさせる。


 もう夏だというのにクーラーが入っていなかったので、俺もテーブルの上に鞄を置き、リモコンを操作して空調を効かせた。


「今日は放課後まで付き合ってくれてありがとう二宮さん。まずは昨日に交わしたあの約束『終業式の後まで、隠し事は保留』ってのを、さっそく白状するよ」


「……っ! ど、どうぞ!」


 何故か二宮さんの表情が、一気に緊張感で強張っていく。


「告白の直前の時に勇気づけて貰いたい……なんて言ったけど、あれ嘘なんだ」

「えっ……? ま、まさかの告白自体、誰にもしない……とか?」


「あ、いや、告白はする。絶対に。でも二宮さんに勇気づけて貰いたいってのは、今日こうして二人きりになる為のただの口実、嘘だったんだ」


「私と二人きりになる為の……口実……?」


 もはや二宮さんに「今から告白します」と宣言したようなものではないか? 

 ふとそう考えてしまい、空調は効き始めたはずだが、俺の頬はさらに熱くなる。


 だってバレてもおかしくない。告白どうこうの流れで呼びつけたのだから。


 よほど暑かったのか、クーラーの冷風が直接届く位置まで移動した二宮さんは、背を向けた状態で俺の言葉を待っている。


「この際だから言ってしまおう。俺、二宮さんの裏アカ知ってるんだ」

「……えっ、嘘だよねヨッシー!?」


 大慌てで振り向いた二宮さんの顔は、これ以上ないほど赤面していた。

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