第46話 陽キャ美少女から寿司屋に誘われるとか、謎過ぎないか?②

 抗議で立ち上がっていた二宮さんが、自分の椅子を俺の方に向けて座る。


「ヨッシー、私の好きな所を素直に白状しよう。前科持ちになっちゃう!」

「確かに食い逃げ犯になりそうだけど、二宮さんも伯父さんを止めてほしい」

「発言しない吉くんにペナルティ! 十個から十一個へ増やすことに決定ッ!」


「あっ、ダメだ。コミュ障の俺では、この二人のコミュ力には太刀打ちできない」


 詰みを悟った俺は、一旦深呼吸しながら、二宮さんとの日々を思い返す。

 二人が期待の眼差しを向けるなか、俺は『十一個』に挑戦し始めた。


「では二宮さんの好きなところ、その一。誰にでも明るく元気に接するところ」

「ふむふむ♪」


 いつになく楽しげな二宮さんだが、変に恥ずかしがっては伯父さんの思う壺だ。


「その二・お喋りが大好きなところ。その三・購買のたまごマヨぱんに目がないところ。その四・意外と料理の腕が凄いところ。その五・休日のファッションセンスも良いところ。その六・寝不足で爆睡してた時に、昼食を買っててくれたりするところ」


「ヨッシー、私の好きなところがスラスラ出てくるね~。よっ、ヒュ~ヒュ~!」

「当の本人が小学生男子みたいに茶化すとは……」


 伯父さんの前でも、二宮さんのノリが学校と変わらないので、逆に落ち着いた。

 お寿司タダを餌にしてきた伯父さんは、興味深そうにこちらを観察している。


「次は七だっけ。その七・俺が風邪を引いた時に心配してお見舞いに来てくれるところ。その八・わざわざ俺の為に体力テストの朝練に付き合ってくれたところ。その九・こんな俺にもRINEしてくれるところ。その十……アイドル顔負けの美少女なところ」


 コミュ障の俺にしてはよくもった方で、さすがにネタが尽きてしまい、伯父さんの前でもろに外見に言及してしまった。


 しかし俺の心配は杞憂だったようで、神妙に頷く伯父に二宮さんが一言だけ呟いた。


「どや☆」

「姫ちゃんご満悦のドヤ顔頂きましたぁ! 吉くん、寿司代は要らないぜ!」

「伯父さん、ありがとうございます。でも確か『十一個』でしたよね?」

「そうだった忘れてた! じゃあ吉くん……最後のその十一よろしくぅ!」


 律儀に墓穴を掘ったコミュ障の俺は、既にネタ切れで中々言葉が出てこない。

 縋るように二宮さんを見ると、自信満々な顔で、制服の上から胸を寄せていた。


 俺はボキャ貧な自分を恨みつつ、肝を冷やす思いで『十一個目』を呟いた。


「その十一・せ、背丈の割りに意外と胸が大きいところ……」

「……吉くん」


 凄まじい落差で暗い声を出した伯父さんに、俺の心臓が縮み上がる。

 そして伯父さんと二宮さんが、息もピッタリと俺を力強く指差してきた。


「……合格だぁ! 寿司代はタダにしよう!」

「自分で振っておいて何ですが、恥ずかしい誉め言葉~! ご馳走さまでした♪」


「いやいや、姫ちゃんにも吉くんの好きなところを言ってもらうけど? 二宮さん割引で、二個言ってくれれば姫ちゃんもタダだ!」

「わ、私もですとー!?」


 クラスカースト下位層ラノベオタクの俺から、好きなところを二個も捻り出さなければいけないなんて、無から有を生み出すレベルの難題だ。


 さすがの二宮さんもテンパっているのか、あがり症の癖が出た時の俺みたいに、可愛い顔を赤らめながら小声で呟いた。


「ヨッシーの好きなところ……その一、えっと……。全部、とか?」

「姫ちゃん、それじゃあ二個目が言えないぞ! だが合格にしてあげよう!」

「うん。伯父さん、重ね重ねありがとうございます」


 甘々採点で二宮さんを助けてくれた伯父さんに感謝する俺だったが、何故か二宮さんは店を出る最後まで、膨れっ面の赤ら顔なまま、伯父さんを睨み続けるのであった。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 伯父さんが「絶対に彼、好きでしょ」だって!

 そう思って好きな所を聞くとは~!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あの『好きな所、十一個』発言からして、俺が惚れてると思われて当然か」

 二宮さん、俺の好きな所を二個言うことになった時は、焦っただろうなあ……。

 少しだけイジワルな伯父さんだったけど、気前の良い人で食事も楽しかった。

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