第43話 皆で読書会のはずが、陽キャ美少女と家で二人きりになった①
退屈だった現社の授業で半分眠っていた俺に、二宮さんが駆け寄ってきた。
いつもの至近距離まで急接近からの、横への回り込みで、耳元に囁かれる。
「ねえヨッシー。今度の日曜に、私の家で読書会が開かれることになったよ!」
「読書会? 二宮さんと絡んでる女子たちが、そんなインドアな会を……?」
「いんや違うよ、委員長と~。意外とラノベに興味津々らしくてね~」
「へぇー……。それで読書会かあ……」
俺だけは、委員長がなろう作品『所持金チート』の作者だと知っているので、意外とは思わなかったが、とりあえず誤魔化すために相槌を打った。
「あと、なろう中毒者の吉屋くんも読書会に呼ぶようにと仰せつかってます」
「へぇー……。えっ?」
「私の家の住所はあとでRINEに送っておくから、絶対に来てね~♪」
「あ、えっと……」
二宮さんは耳元で囁くのを止めて、俺の唇に人差し指を当てて言葉を遮った。
「日曜が楽しみだねヨッシー!」
降ってわいてきた読書会開催の連絡、これが金曜日の教室で起きたことだった。
委員長も来るのなら気兼ねしなくて大丈夫か、と当時の俺は判断していた。
そして日曜午前、二宮姫子の自宅――。
俺は二宮さんの一人部屋で、当の彼女と二人きりになっていた。
コミュ障の俺でも、委員長が来るなら間は持つだろうと安心していたのに――。
「――なぜ来ない委員長!? は、話が違うぞ!」
「あ、委員長からRINE来たよヨッシー。『急な発熱につき欠席希望』だって」
「さては……謀ったな委員長!?」
つい先日も二宮さんに恋愛アドバイスなるものを吹き込んだ委員長だ。
最初からこれを狙っていたに違いない。
俺は自分のスマホで委員長にRINE通話を掛けた。
「もしもし委員長? 謀ったよね?」
「ええ、測ったわ。そうね……。三十八度六分? とかだったかしら」
「そっちの測るじゃなくて。というか急な発熱って嘘だよな?」
「こほっこほん、残念だわ……。二宮さんにそう伝えてくれるかしら。じゃあね」
「い、委員長待っ……。ああ、通話が切れた……」
まさか二宮さんも共犯か? という考えがよぎったが
『委員長、風邪引いたんだ。なら絶対安静だよ』とRINEで心配するメッセージを送っていたので、その線は消えた。
委員長の単独犯だと分かったところで、コミュ障の俺は腹をくくることにした。
「こうなっては仕方ない。二宮さん、俺たちだけで読書会をしよう」
「そだね~。お姉ちゃんたちは外出中で、お兄も両親と出掛けてるし、委員長も来なくて完全に二人きりだけどね!」
二宮さんが教室に居る時と全く同じノリで、ドヤ顔気味で俺に絡み出した。
委員長不在は痛いが、二宮さんの家族が全員居ないのは、朗報だった。
「家にお邪魔した時、静かだとは思ったけど誰も居ないのか。ありがたい……」
「えっ、ヨッシーそれってどういう意味かな!?」
リア充と噂のモデル姉妹に話しかけられたら、コミュ障の俺は即死する。
兄は裏アカ情報だとコミュ力少な目らしいが、あくまで二宮さん基準である。
ご両親についてはよく知らないが、コミュ障の俺が対応できる保証はない。
つまりコミュ障の俺にとって、二宮さんのご家族不在はありがたいのだ。
逆を言うと、ご家族が帰ってくる前に失礼しないと、コミュ障の俺は死ぬ。
「だってそういう意味だよね? ヨッシーがワイルドな発言を……!」
二宮さんが何故か頬を赤らめながら、小声で何やら呟いているが、コミュ障である俺はこの難局をどう乗り切るかで頭はいっぱいだ。
だが、そこまで焦る必要も無いか。
ご家族の帰宅時刻を把握して、その前にお暇すれば良いだけの話である。
「ねえ二宮さん」
「ひゃい!?」
「二宮さんのご家族が戻ってくる時間帯だけ教えてくれるかな?」
「え、えっと! 今RINEで連りゃ……連絡してみるので少々お待ちを!」
三十八度六分と平気で嘘をついた委員長より、よっぽど熱があるのではと思いたくなる真っ赤な顔で、二宮さんは家族総員にRINEメッセージを送信し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます