第14話 挨拶週間なる校内行事に、俺も陽キャ美少女も振り回される①

 俺が通う高校には『挨拶週間』と呼ばれる面倒臭い校内行事が存在する。


 この期間中は理不尽なことに、クラス内で「おはよう」と挨拶するのを義務化されて、挨拶していないのを教師に見られると指導の対象となってしまう。

 今日は入学後初となる挨拶週間――その初日。コミュ障殺し週間の幕開けだ。


 迅速に友人の友木を見つけて挨拶すればミッション完了である。いざ教室へ!


「ヨッシーおはよう!」

「おぁっ!?」


 教室の扉を開けると、間髪を容れずに二宮さんから挨拶が飛んできた。

 扉側に近い席の二宮さんが普段より威勢よく挨拶してきたので、素っ頓狂な声を上げてしまった。


 まだ友木は登校していないらしい。

 俺は先日友チョコをくれた彼女に挨拶を返した。


「おはよう二宮さん」


 そのまま自分の席に向かおうとした俺に、二宮さんが駆け寄る。


「ダメだぞヨッシー♪ 挨拶週間なのに、そんな元気のない『おはよう』では~」

「今日は月曜日の朝。つまり学生は皆、一番元気がない時間帯じゃないかな?」

「私は月曜の朝も元気一杯だよ? 学校の皆とか、ヨッシーにだって会えるし」

「なんという陽キャ思考。憂鬱な月曜日という概念がないとは無敵すぎる」


 気怠そうに返事をした俺の背後に回った二宮さんが、何故か肩もみしてきた。

 二宮さんは意外と身長が低いので、肩もみしやすいように少しだけ膝を曲げる。


「おや、凝ってますね旦那。明日はもっと元気で大きな声の挨拶を期待してますぜ~。でないと明日の肩もみは思いっきり力を込めて行うので、しかとお覚悟~」


「大きな声ってのは恥ずかしいが……二宮さん相手なら良いか。明日もよろしく」

「ふっふっふ、その意気だヨッシー!」


 週明け早々に奇妙な決め事を交わしてしまったが、なんだか二宮さんらしいと思って、俺もつられて笑った。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 いつもの男子の肩を揉んでみたら凄く凝ってた!

 これは力を入れたら痛そうだ~。

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「に、二宮さん本気だ! あの性格なら本当に全力で肩もみしてくるはず!」

 肩もみでそこまで痛くは感じないだろうが、明日は大声で挨拶する事に決めた。




 翌日、火曜日の朝――。

「いっだだだだだ! 想像ッ以上に……痛ァッ!?」


 二宮さんが陽キャ女子グループと雑談していたので、当然俺は挨拶できずに自分の席に座った。

 するとすかさず二宮さんが駆け寄って、例の全力肩もみを執行してきた。


「まさかの挨拶なしとはヨッシー何事ぞ~!」

「まずは手を止めて! 痛てててッ!」


 容姿カンスト陽キャ美少女の二宮さんだが、スポーツ万能という噂は聞かないので油断していた。

 割と握力があるうえ、俺自身が慢性的な肩こりなのも災いし、激痛が襲う。


「痛てててではなく、言うべき言葉があるんじゃないのかな~?」

「ごっ! ごめん!」

「ちが~う! 『おはよう』ですよね~!」

「おぉッ……おはようございますっ!」


 陽キャグループと談笑していても二宮さんから挨拶してくれるだろうと思っていたが、俺からの挨拶を期待していたらしく、こうして全力肩もみを最後まで受け続けた。


 遠巻きに見ていた友人の友木が腹を抱えて笑いながら、声を掛けてくる。


「良かったな衛司。これで眠気も飛んで、一時間目からお目目ぱっちりじゃん!」

「友木は友木で、二宮さんとは違うベクトルながらプラス思考だな……」


 息も絶え絶えでぐったりと机にもたれ掛かる俺。

 最後は二宮さんが、楽しそうに声の調子を弾ませながら締めくくった。


「明日のヨッシーに乞うご期待!」


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 他の女子と話してるだけで声を掛けてくれなかった~。

 女子慣れしてないのかな?

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「俺、コミュ障だし女子慣れはなあ。二宮さん相手なら気負いせずに話せるが」

 コミュ力カンストの二宮さん以外の女子と相対する自信など無いので、この挨拶期間を乗り越えるべく何かしら対策を練らねばと、頭を捻ることとなった。

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