第15話 挨拶週間なる校内行事に、俺も陽キャ美少女も振り回される②

 水曜日の朝――。


 昨日の二の轍は踏むまい。

 二宮さんが陽キャ女子グループに囲まれていた場合、俺は無力なので、いつもより三十分も前に教室入りして二宮さんを待ち構えることにした。


 熱心な体育会系部員は朝練で出払い、教室には生徒が誰も居ない時間帯だ。


 ひとまず生徒が出払った教室で、なろう作品を読んで時間潰しをしようと思っていたが、目論見は外れ、美人な先客が声を掛けてきた。


「あら吉屋くん、おはよう。朝早くなんて珍しいわね」

「おはよう委員長。まさか先客がいるとは思わなかったよ」


 彼女はノートに走り書きしては、スマホの操作に戻ってを繰り返している。


「委員長ってさ。いつもこの時間に自主勉してるの?」

「いつもではないわね。あと勉強じゃなくて趣味で小説を書いているの」

「そうなんだ。だからスマホで何か入力していたんだね」


 噂で耳にしたことだが委員長は中学校時代、三年連続で成績学年トップを維持していた秀才らしい。

 なので娯楽向け要素の強いなろう小説は話題に出来ないよなと感じた俺は、執筆の邪魔にならないよう自分の席に座る。


 しかし委員長が作業を止めて、隣の席(委員長の友人の席だ)に座ってきた。


「吉屋くんってなろう作品を読んでいるのよね?」

「え? あ、ああ。意外だな。委員長がなろうのこと知ってるなんて」

「知ってはいるけれど、あまり知らないって感じね。だから吉屋くん――」


 委員長が何やら言いかけていたが、教室の扉が勢い良く開かれる音で遮られる。


「おはうっはぁー☆」


 振り返るまでもなく二宮さんだと分かる声だったが、挨拶にしては妙だったので、俺も委員長も教室の扉側に視線を移した。


 すると肩にかけていたスクールバッグを床に落とした二宮さんが、そろりそろりと後ろ歩きしながら廊下まで戻っていき、教室の扉からゆっくりと顔だけ覗かせてきた。


「ヨッシーが早めに登校してるという女の勘に従って、私もいつもより早めに来てみたら、二人で寄り添って何やら良い雰囲気ですけども!?」

「「ただの雑談だけど」」


 あまりにも見当違いな指摘をされたので、俺とほぼ同時に委員長も否定した。

 しかし二宮さんはちょこんと顔だけ覗かせたまま、俺と委員長に抗議する。


「ほら、今の返答も阿吽の呼吸! 私には言えないような内緒の話をしていたんだな~。うんうんそうに違いないですぜ」

「まあ確かに、他言しない方が良い話になりそうだった感じではある」


 委員長がなろうジャンルを知ってたというのは、俺の口から勝手に言わない方が良いと思ったのでそう答えてみたのだが、これがかえって二宮さんに誤解を与えてしまった。


「まさか恋の告白をしていたのでは! 内緒で付き合おっか? みたいな!」

「「全然違う」」

「また息ぴったりだし! お……お幸せにーっ!」


 そう言うと二宮さんはスクールバッグを床に放置したまま、廊下を駆け出す。

 反応に困った俺が、委員長を無言で見つめていると、ぺこりと頭を下げてきた。


「吉屋くん。不束者ですが、これからも宜しくお願いします。なんてね」

「委員長って意外と冗談言うよね。それはそうと、今から誤解をといてくる!」


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 今は違うかもしれないけど、

 美人でスタイル抜群な女子とくっついちゃうかも疑惑!

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「いや、なぜ二宮さんが、俺の行く末をそんなに気にするのだろうか?」

 二宮さんは俺に異性として好意を持っている訳ではないはずだ。

 とはいえ、俺みたいな底辺男では委員長と釣り合わない……と人を見下すような揶揄も絶対しない女子だ。

 なのでますます委員長との仲を気にする理由が見当たらず、俺は首を傾げた。

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