第12話 委員長に休日の話をすると、当の陽キャ美少女が現れた①

 今日も校舎裏のベンチで昼食だ。

 だが今日は、たまに猫を見に来る委員長が居たので、ぼっち飯ではなくなった。


 委員長の隣のベンチに座り購買のパンを食べ始めると、校舎裏メシ常連の俺には人馴れしている野良猫たちが、のそのそ集まってきた。


 たまにしか校舎裏に来ない委員長には、遠巻きに様子を眺めてくる野良猫が数匹いるだけだ。


「ねえ吉屋くん。貴方って猫力が高いのね」

「……ねこりょく?」


 身だしなみに無頓着な俺でも分かる艶やかな黒髪を軽くかきあげながら、委員長がよく分からない造語を呟いてきた。


「そうよ。餌をあげている先生たちならともかく、見慣れた存在というだけで猫たちから近寄ってきてくれてるじゃない」

「あまりベタベタ触ろうとしないからかも。そっけないくらいが丁度良いんだね」


「吉屋くんって二宮さんにも少しそっけないから、彼女も貴方に近寄ってくるのかしら。意外に良い組み合わせだと、私は思うのだけれど」


 学校一スタイルが良い委員長は、俺と同じ高校一年生とは思えないオトナっぽい表情を浮かべながらイチゴ牛乳を口にしている。昼ご飯はそれだけなのだろうか。


「委員長のそのご期待、実は既に潰えていたりするぞ。先日、二宮さんの彼氏を見かける機会があったから」

「あらまあ」


「ちなみに凄くイケメンだったよ。クラスの男子が知ったらショック受けるだろうな」

「何だか他人事と言うか、当事者意識が薄いようだけれど」


「二宮さんはクラスの人気者。俺は毒にも薬にもならない空気。元から期待も何も無いしショックの受けようがないのだが……」


 自嘲するでもなく事実だけを述べていると、野良猫たちがトタタッと速足で俺の側から離れていく。


 どうしたのだろうかと不思議に思っていたところ、背後から肩を叩かれた。


「嘘はいけませんな、ヨッシー被告人!」

「んっぐ、んんッ……!?」


 突然の出来事に、最後の一口だったパンを喉に詰まらせそうになりながらベンチ越しに振り返る。

 すると制服のスカートに所々木の葉をつけた二宮さんが笑っていた。


「ゴホゴホッ! 猫が急に退いていったのは、二宮さんが忍び寄っていたからか……」

「ご名答~。しかし私に彼氏がいるなんて虚偽発言は聞き捨てなりませんな~」

「いや、先日二宮さんを車で迎えに来た大学生くらいの彼氏のことだけど」


 ベンチに座ったまま俺が答えると、二宮さんはスカートについていた木の葉を手で払い俺の隣に腰を下ろした。


「大学生というのは正解! 私のお兄だから、彼氏でも何でもないよ」

「そうなのか。かなりの美形だったしお似合いだなと思ってた」

「お兄はああ見えて超ヘタレなので、もし他人でも恋人は考えられないですぜ~」


 思わぬところで答え合わせが執り行われたが、委員長が二本目のイチゴ牛乳を飲みつつこちらをじっと眺めていた。

 ……本当に委員長の昼ご飯はイチゴ牛乳だけなのか?


「一つ質問良いかしら。外出中に吉屋くんは、二宮さんのお兄さんとも会ったという話の流れみたいだけれど、そもそも吉屋くんって先に二宮さんと会っていたの?」


 委員長からの質問に、二宮さんはタマゴまよパンを食べながら答え始める。

 膝の上にはチョコレート菓子も置かれて、委員長と比べて食欲旺盛な二宮さんだ。


「休日にヨッシーと偶然本屋で会ってね~。そのまま私はヨッシーに連れられ……」

「アニメショップの店内を見て回ったと」

「ヨッシー、ネタばらしが早いよ!」


 委員長に面白いことを言ってやるぜとばかりに息巻いた様子だった二宮さんを、先制で俺は封殺した。


「だって『デートを堪能しました』とか、二宮さんなら言い出しそうだと思って」

「なぜバレたし。でも男女が散策って九分九厘デートと言っても過言ではないのでは?」

「相手に魅力をこれっぽっちも感じてないなら、デートとは言わないと思うけど……」


 クラスカースト下位層でほぼ空気と化している俺に魅力を感じる女子が居るのであれば、一度お目にかかりたいものだ。


「え? ヨッシーは私にこれっぽっちも魅力を感じてないという衝撃的事実が!」

「逆逆。二宮さんにとって俺は魅力的じゃないから、ただの散策だよねってこと」

「ヨッシーは魅力的だよ~」

「……??」


 真意が掴めない即答ぶりに、俺は二の句が継げなかった。

 二宮さんはお喋り好きだから、話の相手になってくれる人なら、誰でも好印象という感じだろうか。

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