第11話 休日に本屋で立ち読みをしていたら、陽キャ美少女と出会った②

「ヨッシーおつおつ~」

「あれ……? まだ二宮さん居たんだ。誰かと待ち合わせしてるの?」


「いや~。駅前のアニメショップにも行ってみたいんだけど、実は一度も行ったことがなくて。ヨッシーが案内してくれたら嬉しいなって思ったり思っていたり」

「思ったりのバーゲンセールになってる」


 おどけた調子で二宮さんはお願いしているが、俺も初めてアニメショップに入ろうとした時は、ずぶの素人(?)が足を踏み入れて良いのか等と緊張したことを思い出した。

 確かにオタ友と一緒に訪れたりといったような機会も無く、いきなり足を運ぶとなると二宮さんでも緊張するかもしれない。


「時間はあるし、俺で良ければ案内するよ。アニメショップといっても、普通の書店より漫画やラノベのラインナップが豊富ってだけだから、意外と気軽に入れるよ」

「やった~。それじゃご案内よろしくお願いします~」


 こうして黒シャツにジーンズ姿の冴えない男子高校生の隣に、外行き用に気合が入った出で立ちの陽キャ美少女が肩を並べて、駅前のアニメショップに向かうことになった。

 といっても新規参入者を沼に引き込もうとするラノベオタクという構図なので、あまり男女間の意識はない。

 端からだと「美女と地味男」に見えたりするかもしれないが。


 店内に入ってみると休日なだけあって中々混んでいたが、二宮さんが商品棚に飾られたグッズを興味深そうに眺め始めた。


「ねえヨッシー、大きい本屋でも見たことないグッズがいっぱいありますが!」

「本屋には無いだろうね。もし一人暮らしなら、俺もグッズ買いたいんだけどな」


 グッズコーナーの次はラノベコーナーへと二宮さんが吸い寄せられていく。


「限定エスエスって書いてあるんだけど、本屋で売ってるラノベと何が違うの?」

「それはショップ限定の購入特典で、書き下ろし短編小説がオマケで付くんだ」


「そ、そうなの!? ということは、ついさっき本屋で私が買ったラノベも……」

「あー……。SSペーパーがついてくるみたいだね」


「マジですか! それじゃあ今度からお気に入りの作品はここで買おうかな~」


 中学生の頃までは別にサブカル文化に詳しくなかったという二宮さんが、俺との会話でついにここまで毒されてしまったと一瞬思ったが、リア充っぽい娯楽もインドアな娯楽も何でも楽しめる陽キャだという事実を失念していた。なので、特に問題ないだろう。


「ふぃ~、案内ありがとヨッシー!」

「どういたしまして。思ったより普通だったでしょ? これからも来てみなよ」


 書店特典を実際に見てみたかった二宮さんがラノベを一冊表紙買いして、めでたくアニメショップめぐりは終了。

 帰り道は駅裏口のバス停だなと考えていると、一台の車が道端に止まった。


 大学生くらいの美青年が窓だけ開けて、俺たちに手を振って何やら喋っている。

 声量に乏しく何も聞き取れなかったのだが、二宮さんが俺をつついてきた。


「乗ってよヨッシー。駅近くに車で向かうって聞いてたからRINEで呼び出したよ~。道を教えてくれればヨッシーも送ってもらえるぜ☆」


「大丈夫大丈夫。俺も駅で迎えが来る予定になってるから」


 いや、そんな予定はないのだが、あの運転手は二宮さんの彼氏か男友達だろう。

 さすがにそれをお邪魔するほど朴念仁ではないので、さりげなく嘘をついた。


「そっか、残念……。じゃあまた学校でね~」

「おう。じゃあなー」


 こうして俺の休日の買い物は終わりを告げたが、助手席に乗り込んだ二宮さんが驚いた顔をしてから、年上の美青年の頭をぽかぽか叩いていた。仲が良さそうに見える。

 美女は美男とくっつくという、ありふれた原則だなと思いつつ帰路に就いた。



 二宮姫子が乗り込んだ車内での会話――。

「姫子。買い物に付き合ってくれたあの男子に、僕が兄だってことは伝えた?」

「忘れてた! もう、お兄が大声で自己紹介してくれれば~! 声小さすぎ~!」

「そう言われても僕は人見知りのコミュ障だし……いてて、頭を叩かないで」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 お兄のコミュ力不足により、

 悲しみのドライブデートとでも呼ぶべき帰り道と化した!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お兄ちゃん、じゃなくてお兄って呼ぶんだ。あとやはり運転手は彼氏だったか」

 二宮さんの兄が何かしてしまい、彼氏と気まずい雰囲気で帰ったのだろう。

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