第10話 休日に本屋で立ち読みをしていたら、陽キャ美少女と出会った①

「こら衛司。外出するなら、たまには黒いシャツ以外の服を着て行きなさい」


 月二回は行っている休日の書店巡りへ出かけようとしたら、呆れ顔をした母さんに服装を窘められてしまった。


「服がダサイと思われるより、色がダサイと思われる方がダメージ少なくない?」

「なんでダサイと思われるのがスタート地点なの。身体を鍛えていたら、その黒シャツにジーンズ姿でもサマになるとは思うけど……。学校の子に会ったらどうするの」

「本屋に行くだけだから大丈夫だって」


 そんなやり取りの後、バスや電車に揺られて市内でも大きめの書店に来た俺は、母さんの忠告を聞いておけば良かったかもしれないと思わされることになった。


「あれっ、吉屋くんだよね? らいと、のべる? 小説読むんだね~」


 ラノベコーナーで恒例の冒頭試し読みをしていたら、スッと耳に入ってくる可愛らしい女子の声が聞こえてきた。ビックリして振り返ってみるとこれまた驚くぐらいの美少女が人懐っこそうにはにかんでいたのだ。


「……えっ、俺の名前……」


 混乱しながらも必死に頭の中を整理してみる。俺は塾にも行っていない帰宅部野郎で、名字を知っているのはクラスメイトくらいのものだろう。


 だが目の前の少女は二宮さんと同程度に明るく染められた茶髪の片側をシュシュで留めワンサイドアップにして、私服も胸元や太ももが派手になり過ぎない程度に強調されたリア充指数の高いデザインだ。


 こんなに女子力が高そうなクラスメイトなど二宮さん以外知らないし、そんな美少女にラノベコーナーで話しかけられるという事態に頭の中の混乱は収まらない。


「えっと……あの、女の子が俺に……? ど、どちら様で……?」

「ひ、酷い~。私ですよ、ほらほら~」


 そう言うと少女は、髪留めのシュシュをほどいて手ぐしで髪を整え始めた。

 しょんぼりした表情を元気一杯な笑顔に変えて、俺の両頬を軽く引っ張ってくる。


「じゃじゃ~ん、姫子ですよ! 髪型と口調を変えただけで見分けがつかなくなるとか、ヨッシーどんだけですかw」

「……あっ! ラノベの存在を知らない女の子かと思ったら二宮さんか!?」

「はい、休日お出かけ仕様の二宮姫子さんですよ~。どうですどうです可愛いです?」


 もう一度シュシュでワンサイドアップに纏めた二宮さんが、今度は俺の二の腕あたりを掴みながら尋ねてきた。


「可愛くないと言おうものなら、クラス中の男子に殺されそうだ」

「そんなこと言われたら、私自らヨッシーを殺しちゃうぜ~」

「武闘派な二宮さん可愛いです。圧倒的多数で可愛いということで可決です」

「なんか納得いかないので頭突き!」

「ぅっ!」


 二の腕を掴まれたまま胸元に頭突きを頂戴したので、思わず息が漏れた。

 吐き出した分息を吸い込むと、ふんわりと甘い二宮さんの髪の匂いがただよっていた。


 俺の他にもラノベコーナーで立ち読みしていた「同胞よ」と言いたくなるラノベ男子やラノベ女子たちから「なぜ陽キャ女子がここに居るのだろう」という視線を感じる。


「に、二宮さん。もう少しだけ静かに……」

「あっ……声のトーン落とすね。ちょいとラノベを買う用事があったから来たんだけど、ヨッシーを見つけて思わずテンションが爆上がりしちゃった……みたいな?」


「俺なんかでテンション良くなるものなのか? まあいいや。タイトルを言ってくれればそのラノベが置いてある出版社の棚まで案内できるが」

「おお~、頼もしいぞヨッシー♪」


 ラノベコーナーの棚なら探し慣れているので、二宮さんが探していたラノベは割とすぐ見つけることが出来た。


 なので俺は冒頭試し読み作業を再開したのだが、二宮さんが俺のそばについて離れようとしない。


「ヨッシーって電子書籍派って言ってなかったっけ? ネットでもサンプル読めるのに、わざわざ書店で冒頭チェックしてるんだ?」


「まとめて一気に何冊も立ち読みできるからついつい。あと買う気がなかった作品とかも表紙やタイトルに惹かれて読んでみたら良作発見という場合もあってさ」


「なるほ~。じゃあ私は会計に行ってくるよ」

「はい、じゃあねー」


 お目当てのラノベを抱えた二宮さんは、レジへと向かっていった。


 チェックしたいと思っていたラノベの冒頭試し読みを終わらせた俺は、文房具くらいはこの書店で買って貢献せねばと思い、授業用のノートやシャーペンの芯を購入。


 そして書店を出てみると、とっくに書店を出発しているはずの二宮さんが自販機のコーヒーを飲んで時間を潰していた。

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