第9話 友人と談笑中でも、陽キャ美少女は今日とて話しかけてくる②

「さてさてヨッシー、お姉ちゃんに報告するので食レポよろ~」

「じゃあミートボールから……。んむ……」


 とろみのついたあんを絡めてミートボールを口に運ぶ。

 噛むと豚肉の旨味が溢れてきて甘めのあんとの相性も良く、箸が止まらなくなる。


「この優しい甘さ、結構癖になるな。ミートボールってどれも似た味かと思ってたけど、もしかしてコレって市販品じゃなくて手作り?」

「お、正解~。ちなみに鶏の唐揚げも冷凍食品ではありません!」

「どれどれっと……。ん……!」


 唐揚げを食べてみると、スーパーで売っていそうな万人受けしそうな味付けではなく、塩気を前に出した意外な味付けだった。

 思わずご飯をかき込みたくなるような鶏肉の味が俺の舌に広がっていく。


「さすがに出来立てじゃないからカリカリではないけど、もしカリカリならお店で出てもおかしくないくらい美味しいなあ」

「どうもどうも! 家の近くのお惣菜屋さんと家族ぐるみで仲良くてね~。ちょっとだけレシピを教えてもらったりしてるから、二宮家の唐揚げは準お店仕様だったり」


「ケチャップライスだって色映えだけじゃなくて、ほんのりただよう甘みが美味しいよ。ブロッコリーもしっかりと塩味が効いてる。このお弁当が食べられるなら彼氏さん大満足なんじゃないかな」

「おお~、ヨッシーの食レポで私も大満足だよ。良い食レポでした。ぱちぱち~」


 二宮さんの姉が彼氏に作ったお弁当の試食会とあって、教室で椅子を寄せ合ってお昼を食べていても、クラスメイトたちは色めき立ったりしていない。


「ヨッシー箸貸して~。今日は私も購買には行かずに、このお弁当食べま~す」

「え、ああ」


 相当ボリューミーなお弁当なので二宮さんが食べても量的には問題ないが、普通に俺が使っていた箸でパクパク食べていく。


 まあ箸が一つしかない以上は交互交互に食べるしかないので、俺も気にせずにお弁当を最後まで頂いた。


「ふぅー……美味しかったー……。ご馳走さまでした」

「おっと、ちょいと待ったヨッシー! ここでネタばらしだよ」

「はい?」


 何故か手招きされたので二宮さんに身体を近づけると、内緒バナシをするようにそっと耳打ちされた。


「今食べたお弁当ですが、実は~……私の手作り!」

「……えっ?」


 唖然としている俺を見た二宮さんは友木から借りている椅子から立ち上がり、どや顔で俺のことを指差した。


「ドッキリ大成功~! お姉ちゃんの彼氏に作られたお弁当と思って食レポしてしまったヨッシー……残念でした!」

「いや、どちらにせよ美味しいお弁当食べられたし、全く問題無いけど……」

「んなぁっ! それはドッキリ殺しのコメントだよヨッシー!」


 普通に味の感想しか出てこない俺に、ドッキリ仕掛け人の二宮さんが玉砕した。

 文字通り手の込んだ仕掛けをしてくれた二宮さんに申し訳なくなってきた。


「確かにドッキリ殺しだったな、ごめん。無難な回答すら出来なかった」

「でも美味しいって言ってくれたのは、乙女のハート的にはドッキリ褒め殺しですが~」


 古典的な漫画のヒロインみたいに胸に手を当てながら、そんなことを言ってくる。


「俺を先輩芸人のようにフォローしてくれるとは、さすが二宮さん」

「まだまだいっぱしの芸人とは言えないようだねヨッシー」

「二宮師匠、精進致します」


 一緒に完食したお弁当箱と箸を片付けてのんびりしていると、箒野球してくると言った友木が教室に帰ってきた。


「おっす衛司。俺がピンポン球を打ってる間、お前は全く運動してなかったようだな」

「舌鼓は打っていたな」

「私は芝居を打ってました~」


 さらりとこの返しに合わせてきた二宮さんに、俺は堪え切れずに肩を震わせつつ「ふふっ」と小さく笑い声を漏らしてしまった。


 ドッキリのくだりを知らない友木が首を傾げながら、二宮さんに貸していた自分の席を元の位置に戻したところでチャイムが鳴って、本日の昼休みは終了した。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 何と今日は手料理を褒められた♪

 不評ならお姉ちゃん謹製と言い通す予定でした!

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 二宮さんの裏アカをチェックすると、末尾にさらりと犯行計画が書かれていた。

「お姉さんがとばっちりを受けるルートも控えていたとは二宮さん恐るべし」


 ドッキリのことより手料理を中心に裏アカで呟かれているが、まさか俺に手作り弁当を持ってくることが目的な訳がないので、美味しかったお弁当に俺は素直に感謝した。

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