第6話 今日は何事も無いと思いきや陽キャ美少女から自宅に誘われた①

「ああー……今日の授業も乗り切ったー……。ようやく帰れる……」


 最近なろうの読みすぎか視力が落ちてきているので、黒板をノートに書き写すだけでも若干骨の折れる作業になっている俺は、さっさと教科書を鞄に突っ込んでいく。


 部活に入っている活動的な人間たちが次々と教室を飛び出すなか、これまたテンション高めな声と共に、二宮さんが俺の机の前に立ちはだかってきた。


「黙って手を上げてもらおうか~」

「……」


 窓から差し込んでくる日光でいつもより明るく見える亜麻色の髪が非常に目映い。 現役読者モデルというのも納得の美少女顔で、二宮さんは俺のことを見つめている。


 指示通り黙って手を上げた俺に、次の指示が飛んできた。


「彼氏と遊ぶ予定が入ったという爆発案件により、私の家で開催予定だった女子会が急遽キャンセルとなった。昨晩仕入れたケーキの賞味期限が切れてしまいそうなのだ」

「まあ残念だが、その来客用ケーキは家族と分けあっイテッ!」


 黙って手を上げろという指示を破った俺の額に、二宮さんのデコピンが炸裂した。


「私の姉妹は全員、体型管理がシビアなモデル仕事をしているのだ。男性陣は甘いものが得意ではなく、そしてお母さんは虫歯の治療中……。由々しき事態である」

「まさかとは思うけど、二宮さんの家まで行ってケーキを食べろと?」


 また俺は言いつけを破り喋ってしまい、二宮さんの右手が再び動き出した。デコピンをもう一発かなと思ったが、そうではなく右手の親指がグッと立てられた。


「さすがヨッシー、その通り!」

「行かないぞ」

「む、無慈悲! せめて理由を、理由を聞かせろぉ~」


 二宮さんから机越しに両肩を掴まれ揺さぶられながら、俺は理由を述べる。


「噂でも耳にはしていたけど、二宮さんの姉妹って本当にモデル姉妹だったんだね。もし二宮さんの家で、そんなリア充そうな人物と会ってしまったら、俺は死んでしまう」

「別にお姉ちゃんたちリア充じゃないよ。初恋叶って出来た彼氏一筋の純情派だし」

「うん。彼女いない歴=年齢の俺が瞬殺されそうという認識は間違ってなかった」


 勢いよく椅子から立ち上がり早歩きで教室から脱出を図ったが、生徒の出払った室内を二宮さんが機敏に動いて扉を塞いできた。


「ここでヨッシーに朗報~。私は地方紙の読者モデルをやってるのは知ってるね?」

「ああ。意外とギャラは少なくて数千円くらいって、結構前に言ってた気がする」

「とはいえチリツモだよヨッシー。私の部屋の本棚にはラノベが一杯あるんだ~」

「何……だと……!?」


 ラノベに思わず反応してしまった俺に、二宮さんの大きな瞳が鋭く光る。


「あの超ヒット作、再ゼロも全巻揃っているぞ~? そ・う・い・え・ば~、ヨッシーは電子書籍派だったっけ~? 紙媒体で見るカラーイラストも乙なモノですよね~」

「くっ、親バレを恐れてラノベは全て電子書籍で買っている俺にそんな誘惑……!!」

「他にもヨッシーが好きな異世界チート系も取り揃えておりますが♪」

「いやしかし……やはり、ただのクラスメイトが女子の家に転がり込むというのは……」


 娯楽に費やせる資金力は、恐らく二宮さんの方が圧倒的に上。

 もちろん俺より多くラノベを購入していて、ラインナップも豊富に違いない。


 二宮さんは良識的な陽キャリア充なので、俺がラノベに没頭しても引かれたりしないがモデル姉妹はそうとも限らない。残念だが丁重に断るのが無難だろう。


 そう思っていたところ、いつの間にスマホでRINEをいじっていた二宮さんが親指を立てながら、可愛らしい笑みを見せてきた。


「お姉ちゃんたち、今日は大学のサークルで帰りが遅くなるらしいよ~」

「つまり?」

「ふっ、一緒に読もうよ……。ケーキを頬張りながらラノベをさ!」

「二宮さん……!」


 夕陽が差し込む放課後、二人きりの教室。

 俺は二宮さんと同じように、力強く親指を立たせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る