第5話 顔馴染みの委員長が、陽キャ美少女は脈ありと誤解している②

 購買で無事にタマゴまよパンを二つ確保してから校舎裏まで来てみると、腰まで伸びた黒髪ロングの美人が、ベンチで数秒チャージなるゼリー飲料で昼食を摂っていた。


「あら、吉屋くんじゃない。それと珍しい人を連れているのね」

「どうも委員長、校舎裏で会うのは久しぶり。一つ隣のベンチにお邪魔するよ」


 彼女は俺たちと同じクラスの委員長で、こうしてたまに鉢合わせする時がある。

 委員長は二宮さんのような陽キャではないが俗にいう隠れ巨乳らしく、目ざとい男子が校内一のスタイルと騒いだせいで、そういう評判が広まってしまった不遇の人でもある。


「じゃあ二宮さん、さっそく俺たちも昼食を……って、どうしたの?」


 簡便に挨拶を済ませた俺はベンチに座ったが、二宮さんは真っ直ぐ委員長に歩み寄って彼女の胸元を力強く指差した。


「むむむ、学校一のスタイルで有名な委員長! お昼にゼリー飲料一個だけで、そんなに豊かに胸が成長するなんてチート極まりない~。おまけに美人ときた!」

「そういう貴女は学校一の美少女として有名な二宮さん。意外と胸も大きいって男子から噂されてることは、知っているかしら?」

「えっ。そうなのヨッシー?」


 委員長に指摘された二宮さんは、制服の上から自分の胸を両手でむにゅりと触りながら俺の回答を待っている。


「そういう噂は聞いたことないな。俺って気の合う友人は一人しかいないし、その友人も漫画オタクで、あんまり女子がどうとか話さないから」

「ヨッシーってラノベは雑食派だけど、この手の話は草食系だね~」

「もはや草食系を通り越して絶食系男子と化してるな。草も生えない感ある」


 割とオタク的なノリで話を交わしていたら、委員長が不思議そうに尋ねてきた。


「二宮さんって意外とサブカル話も出来るのね。どこで知識をつけたのかしら」

「ヨッシーと話す為……じゃなくて! 話している内に自然と詳しくなったよ~」

「へぇ。何にせよ吉屋くんと話し込んでいるって証左ね。微笑ましいじゃない」

「ん、少佐? どゆこと~?」


 聞き慣れない単語に首を傾げた二宮さんは俺の隣に座って、大好きと言っていたタマゴまよパンを美味しそうに食べ始める。

 二宮さんと一緒に惣菜パンを食べ始めた俺に、隣のベンチで座っていた委員長がそっと近寄ってきて囁いた。


「吉屋くんにも春が来たのかしら。なんてね」

「えぇ?」


 冗談としても有り得ない問いかけに、俺は誤りを訂正しておく。


「二宮さんはコミュ力カンストの陽キャだから、俺にも普通に接してるだけだぞ」

「そういうものかしら」

「そういうもんだ」


 訂正を入れられた委員長は、ヒソヒソ話も終わりとばかりに俺から離れる。

 二宮さんからも美人と言われるだけあって、正統派黒髪ロング美少女を絵にしたような委員長が、同じく陽キャ美少女の二宮さんにチラリと目を合わせた。


「吉屋くんのことは二宮さんに任せて、そろそろ私はお暇させてもらうわね」

「了解♪ じゃあこれより私は、ヨッシーと野良猫の写真撮影を敢行します!」


 お気に入りのタマゴまよパンを二個とも食べ終わった二宮さんは、教室へと戻っていく委員長を見送った後、遠巻きに俺たちを見ていた野良猫たちに駆け寄る。


「さあ猫ちゃんたちよ、カワイイお顔を撮らせてね~」


 しかし二宮さんの奮闘虚しく、餌をもらっている教師たちか、普段から校舎裏で昼食を摂っている俺にしか慣れていない野良猫たちはトテテッと逃げていく。そして一定距離を保ちながら、再び二宮さんを遠巻きに監視し始める。


「ぐぬぬ、露骨に警戒されてる~。まるで初めてヨッシーに話しかけた時のように……」

「初対面の俺? 二宮さんを警戒してたというよりキョドっていたんだと思うが」

「だとしたらヨッシー、今はもう私に慣れてしまったようだね~」


 そう言うと二宮さんは俺にスマホを向けて、「パシャリ」という電子音を鳴らせた。


「ほら! まだ猫ちゃんは撮れないけど、ヨッシーの写真なら撮れちゃうし」

「え、俺の写真とか消してくれ、恥ずかしい」

「まあまあ。それよりさ、ヨッシーが委員長と雑談する仲だったとは知らなかったな~」


 二宮さんからスマホを渡された俺は、ゆっくりと野良猫に近づいていく。

 追及の手は緩めないぞとばかりに二宮さんも、俺の歩幅に合わせて後ろをついてくる。


「委員長はたまにしか校舎裏に来ないから、滅多に話す機会はないぞ……それっ!」


 スマホのシャッターボタンを押して、怪訝そうにこちらを見てくる野良猫を撮ることができた俺は、そのまま何枚か別角度からも撮影して二宮さんにスマホを返却した。


「あんまり写真を撮るのも野良猫の負担になりそうだから、これでおしまい」

「おお~、猫ちゃんの上目遣いが撮れてるじゃないか~。……あれ? さっき私が撮ったヨッシーの写真が消えてるー!?」

「それなら恥ずかしいから、ついでに消しといた」

「ぬおぉおおぉ~……何てことを~!?」


 スマホをぷるぷると震わせながら悲鳴を上げる二宮さんだったが、そろそろ次の授業の時間が迫っていたので、俺たちは慌てて教室へと舞い戻った。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 いつもの男子が美人な同級生と顔見知りだった!

 委員長属性は手強いのでは~?

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 今日も即帰宅した俺は、ふと気になり二宮さんの裏アカを閲覧してみる。

 すると、どう考えても昼休みの出来事だとしか思えない呟きがされていた。

「恋バナ用裏アカと思ってたが、コミュ障な俺について呟いてるよなコレって」

 俺はクラスで一番コミュ障なので、危なっかしくて放っておけないのだろうか。

 そんな俺が美人な委員長と話す様は、確かに目が離せなかったかもしれない。

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