第4話 顔馴染みの委員長が、陽キャ美少女は脈ありと誤解している①

 人間生きていれば誰しも、詮索されたくないことの一つや二つあるだろう。


 二宮さんなら恋愛系の裏アカを持っていると周囲の人間にバラされたくないだろうし、俺の場合「なんで休み時間にスマホばかり触ってるの?」とは質問されたくない。


 そう思っていたのだが、昼休みに入った直後に陽キャ美少女が耳元で囁いてきた質問が俺の鼓膜と精神の両方を打ち震わせた。


「ねえ、ヨッシーはお昼どこで食べてるの?」

「……ッ!?」


 背後から忍び寄られて静かに投げかけられた二宮さんの質問は、ぼっち飯に慣れ切った俺の肺腑に見事に突き刺さった。


 二宮さんが両手の指を絡ませて忍者の印結びをしながら俺の正面にやってくる。


「いつも忍者みたいにスッと居なくなるよね~。にんにん♪」

「止めてくれ。その指摘は俺に効く」

「あはは、某コラネタだね~」

「忍者ネタ回収ありがとう。お昼は校舎裏で食べてるんだ。騒がしいのが苦手でさ」


 俺からぼっち飯の根城を聞き出した二宮さんは、ウェーブのかかった亜麻色の髪を指でいじりながら興味深そうに呟く。


「ふむふむ~。校舎裏って野良猫の溜まり場として密かに有名だったことない?」

「そうそう。購買から遠いせいか昼休みは全然人が来なくて猫が触り放題なんだ」

「それは猫好きとして耳寄りな情報だ~。よし、今日はヨッシーと猫鑑賞かな」

「俺と?」

「うん、ヨッシーも購買派だったよね? 早くお昼ご飯を買って猫を見に行こう~」


 とんとん拍子に二人きりでの昼食が決まりつつあるが、俺は勘違いしない。

 俺の友人なら「俺に気があるんじゃないか二宮さん!?」と勘違いしそうな気もするが、合理的に考えてその線は無いので、思ったことをそのまま口にした。


「野良猫って上手く撮れればSNS映えする写真になりそうだね。自撮りだと取りづらい写真も俺がスマホを持って撮れるし、良かったら二宮さんの猫撮影に付き合うよ」

「おっと、リアルJKの私としたことがSNS映えを全く考慮に入れてなかったという! やるねえヨッシー、じゃあ撮影に付き合ってもらおうか~」


 話もまとまったので一人で購買に向かおうとしたが、二宮さんが俺の腕を掴む。

 そのままグイッと引っ張られて至近距離で両肩を掴まれてしまった。相変わらず距離の詰め方が陽キャ基準らしく、二宮さんの可愛らしい表情が視界を占有する。


「ヨッシーには購買に同行してもらう。私の大好きなタマゴまよパンにお一人様一個までという無慈悲なルールが先日から科せられ、必要物資の確保が困難になったのだ」

「俺もタマゴまよパンを購入してから、二宮さんに引き渡せば良いんだね」

「そうは言ってない、言ってないが……そうしてくれるなら、ご同行願いたい~」

「ははは、了解。それじゃあ、まず購買に行こうか」


 最後の最後でいつもの口調に戻ってしまった二宮さんに、俺は笑って頷いた。

 二宮さんの至近距離での拘束が解かれ、クラスの男子の視線からも解放される。


 そして新たに「吉屋相手なら何も起こらないだろう」という安堵に満ちた視線を貰って二宮さんと一緒に教室を出た。

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