第7話 今日は何事も無いと思いきや陽キャ美少女から自宅に誘われた②

「二宮さんさえ良ければ、ぜひ家に――」


 ――お邪魔させてもらいたい。


 と言おうとしたが、廊下を歩く一組の男女の会話が教室の扉越しに聞こえてきた。


「そ、そのっ、荒川くん。もし良ければ今日私の家に来ない? 家族も居ないし……」

「……鈴木さんって意外と積極的だよね」

「もう、そういうこと言うなら来なくていいからっ」

「ごめんごめん。じゃあ一緒に家に行こうか」


 どんなに鈍感な人間でも分かる『青春してるな』という感じのカップルの会話を聞いて俺はようやく我に返った。


「二宮さん、今の会話聞いた?」

「話す爆発物だったね」

「やっぱり二宮さんの家に行くのは止めとくよ」

「何ですとぉ~!?」


 二宮さんは何を思ったのか教室の扉を勢いよく開けて、廊下をキョロキョロ見回す。

 しかし先程のカップルは、既に廊下からは姿を消していた。


「ぐぬぬぅ~……あんな意味深な会話を聞いてしまったら、ヨッシーが萎縮して私の家に来なくなってしまうかもしれないぃ~」

「かもじゃなくて、本当に家には行かないことにしたぞ」

「け、ケーキは……」

「大丈夫。明日女子会を開催すればケーキも問題ない。もし元メンバーが集まらなくても二宮さんの人脈なら、別の女子だって呼べるし」

「無慈悲~!」


 当然二宮さんは俺に対して恋愛感情など持っていないだろうが、それならなおのこと、たかが一クラスメイトでしかない男子が家にお邪魔するわけにはいかないだろう。


 ラノベ読み放題に一瞬目が眩んでしまったが、偶然廊下を歩いていたカップルのお陰で大切なことに気付くことが出来た。


「そういうわけで、また明日」

「待つんだヨッシー! 勝手に一人で納得して帰ろうとするんじゃないぃ~」

「俺みたいなヤツに家で遊ぼうって言ってくれてありがとう。それじゃまたー」

「んんぁあぁ~……ま、また明日~。うぅ、くぅう~……」


 散歩に連れて行ってもらえなかった子犬みたいに項垂れる二宮さん。この人懐っこさもクラスカースト最上位の陽キャたらしめている要素の一つかもしれない。


 誰にでも明るく接する性格の良さといい、二宮さんを好きな男子も多いだろう。

 俺は廊下に誰もいないのを確認してから教室を出て、帰りのバス停を目指した。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 リア充爆発しろ案件を体験!

 なお、実際に爆破されたのはお家ご招待フラグの模様。

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 お風呂上がりにスマホ片手に二宮さんの裏アカを閲覧すると「リア充爆発しろ」という呟きがされていた。


「いや、二宮さんならすぐにでも彼氏くらい出来るだろう。……とは思うが、俺なんかに話しかけてる時間も結構長いからなあ。それとなく交流を避けた方が良いのか?」


 そこまで考えてみたが、彼女いない歴=年齢という弱小スペックな俺が余計なお世話でしかないことに気付いたので、スマホをベッドに放り投げた。


「というか二宮さん、高校入学まではサブカルに全然詳しくなかったのに、いつの間にかフラグって単語まで理解してる。ラノベも詳しくなってきてるけど、人気者で忙しいのにそれでも時間を割くほど好きなんだろうな……サブカル文化に触れることが」


 家で一緒にラノベを読もうと誘うほどだ。二宮さんの『好き』は本気と見える。

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