第71話 VS灰竜

 僕は素早く援軍に来てくれた冒険者に事情を説明し、子ども達の保護を最優先に頼んだ。


「わかった! 道中魔物がいなかったから、ここまで来たが、まさか坊主一人でこれだけの数を……凄まじいな」

「その説明は後でしますから、速く子ども達を安全な場所に!」

「そうだったな! よしガキども! おじさん達が山の麓に連れて行ってやるから、こっちに来い!」

「さあ、皆行くんだ! 大丈夫、僕の知り合いだから、安心して?」


 本当は少ししか喋っていない人たちだが、子ども達を安心させるために僕がそう言うと、皆冒険者たちの元へ駆け出した。

 その姿を見てトカゲ達も一斉に子どもに向かって突撃を掛けたが、僕がそれを邪魔をした。


「ここは僕が食い止めますから、皆さんは早く子ども達を!」

「しかし、この数を一人でなんて無理だろ! 俺達も何人か残る!」

「大丈夫です! 周りの死体の数を確認してください! むしろ足手まといになる可能性があります!」


 僕のその言い方に、最初はムッと来ていた冒険者たちも、ここに溢れるトカゲの死体を見て驚きの顔を僕に向けた。


「……そのようだな。わかった。絶対に無事届ける。あと事情も知りたいから、絶対に死ぬなよ! 切りのいいところで絶対に逃げろよ!」


 そう言うと、子ども達を連れた冒険者達は、一斉に元来た道に戻っていった。



 ――これで心置きなく戦える。そう思い僕は、冒険者たちの気配がかなり遠のいた事を確認し、トカゲの群れへと突っ込んだ。

 あるトカゲは首を切断し、あるリザードマンは武器ごと斬り裂き、または棒で頭を思いきり殴り頭を潰す。

 子ども達を守っていた時はある程度動きを制限されていたが、そのハンデが無くなり、僕は思いっきり両手の武器でトカゲ達の蹂躙を始めた。


 すると、灰竜が飛び立とうとしている姿が目に入った。

 恐らく逃げた子ども達を追う気だろう。そう思い僕は一瞬で灰竜の元へ移動し、その翼を斬り裂いた。


 ――グギャァァァ!――


 先程の相手を威嚇する様な方向とは違い、悲鳴のような方向を上げる灰竜。

 僕は素早く反対側の翼も斬り裂き、灰竜を完全に飛べない様にした。

 ついでに首も斬ろうとしたが、流石にそこまではできず、その大きな体を跳ねらせて、無理矢理ジャンプして躱された。


 灰竜が着地すると、再び大きな音が響いた。

 あの大きさが10メートルもある巨体でジャンプしたんだ。それは着地時に大きな音も出る。

 そしてそんな灰竜は、物凄い殺気を込めて僕を睨みつける。

 恐らく灰竜の計画を僕が邪魔したからだろう。相当頭に来ている様だ。


 ――ガァァァァァ!!――


 再び灰竜が咆えると、灰竜は口周りに大量の魔力を集めだした。

 更に僕の周りに多くのリザードマンが押し寄せてくる。

 僕はリザードマンを斬りまくるが、その波は治まらず、その場から動き辛くなっている。

 それに動いてもリザードマン達は僕についてくるだろうし、体力の無駄遣いを無くすためにもその場で対処する。


 すろと、灰竜の魔力が一定量集まったのか、僕に対してブレス攻撃をしてきた。

 灰竜のブレス攻撃は、敵味方関係なく僕の周囲に放たれた。

 そのため、目の前にいたリザードマン達が先にブレス攻撃を食らい、ものの数秒で石にされた。


 そしてそのまま僕の方までブレス攻撃が届いたが、僕はそのブレスに当たらないように斬り続けた。

 少し斬ってもずっと続くブレス攻撃のせいで、僕は剣を振り続ける。幸いな事に右手の剣はブレス攻撃を受けているのに石にはなっておらず、そのまま約15秒間斬り続けた。


 しばらくするとブレスが止み、周りにはリザードマンと、巻き込まれたトカゲ達の石像が沢山出来ていた。

 どうやら灰竜のブレスは石化のブレスの様だ。もしこれをさっき子供がいた状態で放たれたと思うとゾッとする。

 恐らく何人かは石になっていた可能性がある。奴がそうしなかったのは、ひとえに子ども達を恐怖で歪めたかったからだろう。

 今やつにとって敵は僕一人だ。だから遠慮はいらずに最大限の攻撃を僕に仕掛けているのだろう。


 灰竜は自分のブレス攻撃が僕に効かなかった様子に怒りの表情を向けていると思う。

 その証拠に、「グルルルルル……」と威嚇の唸りを僕に向けている。


 僕はそんな威嚇も気にせずに、灰竜の足元まで移動した。

 今この場は灰竜のブレスのおかげで多くのトカゲ達が石になっている。

 その分僕に来る重圧も軽減され、簡単に灰竜の元まで行く事が出来るようになった。


「おりゃ! 隙あり!」


 僕は灰竜の右前足を斬った。見事に切断され、灰竜はバランスを崩し倒れた。


 ――グギャァァァァァァ!――


 翼を斬り裂いた時よりも大きな悲鳴が聞こえるが、僕はそれを無視して今度こそ灰竜の首を斬ろうとした。

 しかし、灰竜も死にたくないという生存本能か、単発ブレスを僕にぶつけてくる。

 僕はそのブレスを斬り裂いたが、その隙に灰竜が起き上がり、僕に対して尻尾を振って攻撃してくる。

 僕は右手の剣を立て、刃が尻尾に当たるように構えた。


 すると尻尾が刃に当たった瞬間切断された。別に僕は剣を振ったら切断出来るのではなく、剣も持つだけで何でも切断出来るのだ。

 それを知らなかった灰竜は、尻尾が切れた瞬間、驚きの表情を浮かべ、切断されて尻尾を見ている。

 そんな隙を僕は逃す筈もなく、僕は素早く灰竜の首元まで移動し、そのまま首を切断した。


 ――灰竜の首は驚いた表情のまま宙を舞い、数秒後にその重たい体が崩れ落ちるように地を着いた。


 僕は周りを見渡した。灰竜が死んだ今、他のトカゲ達の動きが気になったからだ。

 しかし、周りで様子を窺っていたトカゲ達は、灰竜が死んだと同時に周りから逃げ出した。

 その事を確認し、僕はその場に座り込んだ。


「ハァ~……疲れた」


 本当は偵察だけの筈が、いつの間にか何千体ものトカゲ達の相手をすることになり、さらに皇帝が言っていた色竜の1体である灰竜を倒す事になるなんて……

 やっぱり欲を出すもんじゃないね。でも欲を出さなかったらあの子達は食べられてただろうし……

 そんな風に思っていると、ふと僕は腰にしまった欠けた剣を取り出した。


「さて、どうしよう?結構頑丈に造ってくれた筈だけど、流石にこの量のトカゲ達を斬ったら剣も痛むか……」


 この剣は最初の初陣時に沢山いた魔物の素材を使って作られた剣だ。

 流石に同じ剣をもう1本用意するのは難しいと思うけど……


「とりあえず、トカゲ達は結構な数が石になっちゃったから、素材としては使えないだろうし、この灰竜ぐらいかな?」


 僕が斬りまくったトカゲ達はブレスの影響で殆どが石になっている。

 一応無事なトカゲ達もいるが、多分テンプレ的にこの灰竜の方が素材のレア度は高い筈だよね?


「問題はどうやって持って帰るかだけど、貰った魔法具でもこの大きさは入らない気がするし……」


 コッドの町で貰った魔法具の中に、よくあるアイテムボックスのような魔法具も貰っている。

 しかし、容量の関係上、2メートルぐらいの魔物を3体ぐらいしか入れれない容量の魔法具だ。

 到底灰竜の様に10メートルを超える魔物を入れれるようには作られていない。


「ま、仕方がない。倒した証として頭と――心臓ってレアっぽいから心臓と、爪に……尻尾と皮を入れるだけ……あ、骨もか……」


 僕は魔法具に容量一杯の灰竜の素材を無理矢理詰め込んだ。一応血も余っている予備の瓶に入れる。

 一通りの作業を終え、僕は下山する事にした。流石にこのまま奥に入り、黒竜や他の色竜と戦うとの得策じゃないからね。

 ――素材的にも勿体ないと思ってしまったし。今度はもう少し沢山入る袋を貰おう。

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