第72話 色竜の主の正体
「さて、あの強面で優しい冒険者達と子ども達は無事に下山できたかな?」
今僕が歩いている道は、一応今のところ魔物が出て来る気配はない。
灰竜を倒してた後、多くのトカゲ達は山の奥へと引っ込んでいった。
そのため、今下山している道は、行きと違い帰りはスムーズに移動出来ている。
「それにしても、まだこの山には沢山の魔物がいるな。気配を探っても、奥に行けば奥に行くほど沢山いるって、ここはもうダンジョンみたいなもんだよね?」
どうやら僕は全体のほんの少しのトカゲしか倒せていないみたいだ。
その証拠に先程の戦闘には空を飛んでいるワイバーンはいなかった。
ワイバーン達は僕の上を旋回していたし、冒険者達が来て子ども達と一緒に逃げても追う様子もなかった。
果たしてこれはいったいどういう事だろう?
「……絶対に無いと思うけど、もしかして竜たちの中でも派閥争いとかあるのかな? もしくは命令系統とか?」
一応それだったら説明が付くが、本当にそんな事があるのだろうか?
そんな事を思っていると、もうすぐ山の出口であることに気が付いた。
しかし――
「――あれ? これって影?」
もう日は沈みかけて現在は夕方の筈が、急に暗くなった。
そして――
『貴様カ。我ラノ同胞【ぐれいん】ヲ倒シタノハ』
そんな声が聞こえ、目の前には竜が降りてきた。
僕の右側から黄竜、白竜、黒竜、赤竜、紫竜、緑竜の6体が、僕を見下ろしている。
『マサカ、コノ様ナ子ドモニ倒サレルトハ、驚キダ』
よく感知してみると、中央にいる黒竜が喋っている様だ。
「ええ、倒させていただきました。こちらの殺されそうになったので、正当防衛ですよね?」
一応人間界の常識的な事を言ってみる。果たして通用するかどうか……
『何、コノ世ハ弱肉強食。弱イ物ガ喰ワレルノハ自然ノ摂理ダ』
よかった。話が通じる人? ……竜で助かった。
「ところでどの様な用件で? もしかして不法侵入に対して何か言いたい事でも?」
『フン、思ッテモナイ事ヲ言ウナ。無論顔ヲ確認シタカッタダケダ。今カラ死合ウ者ノ顔オナ』
そう黒竜が言うと、周りの竜達がその言葉に反応して気配を高めた。
流石に竜が6体もいる状態だ。僕は竜達が放つプレッシャーに少し恐怖を抱き、膝をつこうと考えてしまったが、無理矢理耐えた。
そうした方がいいと思ったからだ。
『ホウ――ヤハリ貴様ハ凄イナ。我ラノ竜気ヲ受ケテモマダ立ッテイルトハ……普通ノ人間ナラバ、1体デモ我ラノ気ヲ浴ビタラ直グニ死ヌトイウノニ……』
――いや、これマジでヤバイ……普通なら絶対に一瞬でショックの余り死んじゃってもおかしくないぐらいのプレッシャーを浴びている。
ていうよりも、もうそろそろその竜気を抑えてほしいんですけど……まだですかね……
『ヨシ。我ラノ敵ノ正体モワカッタ事ダ。主ノ元ヘ戻ルトシヨウ』
――主? もしかしてこの竜達の親玉?
僕は竜達が気の放出を収めたので、態勢立て直し質問してみた。
「灰竜は何故あんな真似を? 子ども達の恐怖を煽るような様な事をするなんて……」
『アレハ我ラノ主ノ命令ダ』
「その主とは? 何が目的で帝国を襲う?」
『サテナーー我ガ主ノ考エナド、我ラガ知ル必要ハ無イ』
「せめて主の名前を教えて欲しい。いったい何処の誰なんだ?」
その質問をすると、1体1体順番に竜達が羽ばたきだし、空へゆっくり飛び出した。
そして最後に黒竜が飛び立とうとしたときに、彼の口から主の名前が伝えられた。
『我ラノ主ノ名ハ【ゴルドムラーゼ】。魔王様配下ノオ一人デアリ、我ラ全テノ竜ヲ統ベル者。
サラバダ、異界ノ者ヨ。我ラハコレヨリ10回日ガ登ル頃ニ、人間ドモ多クイル帝都ニ進行スル。精々足掻クガヨイ』
そう言い残し、黒竜は飛び立った。
最後の言った【ゴルドムラーゼ】、その名前は聞いた事がある。
しかし、それはつい先日【勇者】と【聖女】を調べていた時に出てきた名前であった。
しかも【勇者】側も【聖女】側も創作の物語上で出てきた名前である。
しかし、2つの物語で出てきた【ゴルドムラーゼ】は、金色の竜として出てきている。
これは偶然だろうか?
「とりあえず、一旦城に戻る必要が出来たな。もう一度【ゴルドムラーゼ】について早目に調べないと……」
僕は山の奥へと消えて行く竜達を見送り、再び下山を開始した。
今度は途中で誰にも邪魔などされる事はなく、無事に下山する事に成功した。
下山して最初に考えた事は、優先順位を付ける事だった。
「まず、竜達が言った情報の裏付けと報告、それと敵の規模と種類、後時間の猶予も教えないとな……
あ、それから剣も新調しないと……灰竜の素材を使う可能性があるから、先に剣が先かな?」
そんな風に今後の予定を頭の中で立てていると、少し離れてところに子ども達と冒険者の皆さんが様子を窺いながら歩いている事に気が付いた。
僕は冒険者の皆さんがいる場所まで移動する事にし、今後の予定を組む事を一時的にストップした。
「ま、それは帝都に帰りながら考えよう。意気に4時間掛ったから、帰りもそれぐらいかな?」
そうして冒険者達が僕を見つけれるぐらいの場所まで走り、手を振りながら冒険者たちにアピールする。
すると、目がいい冒険者が僕に気付いてくれて、手を振ってくれた。
「おーい。よかった、皆さん無事だったんですね?」
「坊主! お前もあの地獄から逃げれたか! あ~よかった! 本当によかった!」
冒険者のリーダーである強面のおじさんが泣きながら僕に抱き着こうと迫ってきた。
そのため僕は軽く躱し、子ども達の傍まで移動した。
「皆、ありがとう。皆が僕を信じてくれて行動してくれたおかげで、君達を守りながら、僕も何とか生き延びる事が出来たよ」
僕はそう言って、一番近くに居た女の子の頭を撫でた。丁度その子がみなもが抱いていた子の幻想の子だと気づき、ちょっとだけ力を入れて撫でた。
子ども達は僕の姿を見て泣き出している。どうやら僕が囮になったせいで僕が死んじゃったと思い込んでいたみたいだ。
こうして無事な姿を見せた事で、緊張の糸が切れ泣き出してしまったらしい。
「それにしても、よくあの状況で逃げれたな? しかも傷もほとんど受けてない状態だろ?」
強面でない、別の冒険者が僕の姿を見て感心しているが、僕は子ども達を見て、一つだけ気になっていた事を尋ねた。
「すみません……最初に貴方達が助けてくれた子どもは、どうなってますか?」
「――あの子か……あの子なら応急処置が間に合ったから、命に別状はない。ただな……」
僕は一人逃げ出してしまった子の状態を確認したくて、無理を言って見させてもらう事にした。
その子は今は眠っており、簡易担架を使って2人掛かりで運んでいるとの事だった。
僕はその子の前まで移動した。
その子は女の子だった。幸い顔には怪我はなく、髪は短めのボーイッシュな印象を受ける子だったが、毛布を掛けられている彼女は何所にも異常が無いように見えた。
しかし、僕は意を決して布を捲ると、そこにある筈の四肢のうち、左の手足が両方とも無い状態だった。
「俺達が倒したアーマーリザードとサンドリザードに喰われたんだろう。駆け付けた時にはもう手足が無い状態だった……」
僕はそっと布を戻し、彼女の残っている右手を握った。
「ごめんね……ちゃんと守れなくて……辛かったよね……痛かったよね……」
僕は彼女に会うまで、彼女の事を忘れていた。
戦闘中は少しでも気が抜ければ死んでしまう状況だったし、下山の途中で6対もの竜が僕を追ってきていた。
そしてその竜からもたらされた情報の多さに、僕は彼女の事を完全に忘れてしまっていた。
しかし、実際に僕が守れなかった彼女の姿を見て、本当に申し訳ない気持ちと、罪悪感で心が押し潰されそうになっていた。
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